今回はすごく私的な内容になってしまうのですが、昨日7月4日に赤い公園のYouTube Liveが放送されまして、それがたいそう素晴らしかったので、赤い公園の熱烈ファン仲間で、meiyo、侍文化、POLLYANNA、HGYM等で活躍するヴォーカリスト兼ドラマーのワタナベタカシと緊急会合を行いました。YouTube Liveをご覧になってない方はなんのこっちゃかもしれませんが、ぜひ雰囲気だけでも想像していただき、ライヴに足を運んでもらえればファン冥利に尽きます(そして、できればYouTube Liveの模様をアーカイヴで残してください……)。
酒井「昨日のYouTube Liveがすごく良かったから、熱烈な赤い公園のファンでもあるタカシさんと話をしたくって」
ワタナベ「赤い公園のファンなんてたくさんいるなかでお誘い頂いて、とっても光栄でございます。僕、わけあって、リアルタイムでは観られてないんですけど、ネジ巻きをカチカチして時間を巻き戻してどうにか観てきました」
酒井「(笑)。実は5曲で30分にも満たない短い時間だったけど、全員着席してアコースティックぎみの演奏で、落ち着いた雰囲気で、しかも全曲新曲!」
ワタナベ「酒井さんこそ落ち着いて!」
酒井「はい……。まず1曲目にやったのは“衛星”。Aメロ、A'、B、A''という4つのセクションしかないシンプルな小曲だけど、4つにきちんと起承転結があるというか、シンプルななかにジーンと深い感動があって」
ワタナベ「そうなんですよね。好きな人と久しぶりに連絡取るときって〈もしもし、いま大丈夫?〉以外ないですよね。もう、LINEとかじゃなく突然電話っていう感じで」
酒井「そう、このストーリーがね。特に〈疲れた夜に電話をかけて、自分とその電話の相手を見守ってるのが衛星〉っていう視点が、さすが津野米咲。例えば二人を見守るのが〈神様〉だったらありがちなストーリーだけど、そこが〈衛星〉になっただけで、ちょっと絵本的なほっこり感が生まれる。しかもその〈衛星が見守る〉ヴァースがちょうど唯一のBメロの盛り上がる部分に来ていて」
ワタナベ「あと、〈眠れない理由〉をきちんと自分で分かってて、それが最後の歌詞にかかってるとこにキュンとしちゃいますね」
酒井「ああー! そこ! しかも石野理子さんの伸びやかなヴォーカルと表現力が、〈会いたいけど会えない、けど電話できて幸せ〉っていう感情をうまく出してて。結局、電話の後に寝ちゃってて、夢でも〈君〉が呼んでいるっていう〈起承転結〉の〈結〉も美しい。例えばイエモンの“JAM”とかもそうだけど、落ち着きのある8分の6拍子も静かな夜っぽくて素晴らしい」
ワタナベ「8分の6拍子は不思議と、夜を感じさせますよね。僕も夜一人でベッドに寝転がりながらギターを弾いてると、ストロークが自然とこうなりがちです(笑)」
酒井「2曲目の“BEAUTIFUL”は一転、元気モードの赤い公園。バスドラ4つ打ち、ギター・ベースはユニゾンで始まって、休符を大事にしたファンキーな藤本(ひかり)さんのベースがカッコいい!」
ワタナベ「ベースがかなりゴリゴリですよね〜、ノリノリです。あと、ビービー? ピーピー?ってコーラスはめちゃくちゃ斬新な気が(笑)」
酒井「“BEAUTIFUL”のBなのかな? この〈あなたはBEAUTIFUL〉だっていう歌詞は、誰かに言ってるようにも聴こえるけど、実は自分自身にも言ってるような気がして、自分の自信のなさの裏返しというか」
ワタナベ「津野さん、乙女だなぁ〜って思います。こういうこと言うと、うるせえよって言われそうですが。まあ話したことないんですけど(笑)」
酒井「言いそう(笑)。あと〈白馬に乗った王子様〉って“贅沢”にも似た表現が出てくるけど、津野さんの考える理想の男性像って白馬に乗ってるのかなって(笑)」
ワタナベ「あっちは、蹴っ飛ばされてる殿方でしたけどね(笑)。誰もが羨むモノの象徴みたいなことなんですかね、おそらく」
酒井「そして3曲目は、オルガンの切ないコードが沁みるスロウなナンバー“未来”。眠りにつく時に聴きたい感じ」
ワタナベ「ドラムがとてもストイックですよね。サビ以外の基本パターンがリニアフレーズ(意図的に両手足を同時に叩かないように構成した直線的なフレーズ)で、良い意味で、すっぽり抜けた感じ。サビではバスドラムが倍刻んでスネアと重なるので、すこし骨太な感じに」
酒井「さすがドラマー! 今回歌川(菜穂)さんがカクテルドラムを叩いてるからってのもあるのかも。ドラムスが時折2拍3連を叩く遊び心が入るのも、いかにも歌川さんっぽいし、ゆったりした石野さんのヴォーカルに津野・歌川のWコーラスが入るのもいい!」
ワタナベ「ド、チ、チ、タンですね。気持ちいいですよね」
酒井「歌詞でいうと、津野さんって独特の輪廻転生感を持ってる気がして、〈未来へ帰ろう〉っていうこの曲もそういうことなのかなって。あと最近の津野さん、SFとか宇宙ぽいモチーフが増えてきた感じがしてて。ライヴのみで発表されてる“Dowsing Dancing”とか“ASTRO ISLAND”とか」
ワタナベ「赤い公園のライヴ、最近はほとんど自分の音楽活動と被っていてなかなか観に行けず、その曲は聴いたことないかも……」
酒井「ライヴ行こうぜ! 4曲目の“ソナチネ”も津野さんがキーボードで、エレピの美メロから始まるバラード。〈きっときっと私たちは大丈夫〉って思うのは、〈もしかしたら私たち大丈夫じゃない?〉っていう不安がちょっとでもあったからこそ生まれた想いで、そんな不安を払拭しようとする健気な乙女心だなーって」
ワタナベ「素直じゃないですねぇ〜。素直じゃない人がたまにみせる素直がいっちばん良いんです。〈届かないペダルのソナチネ〉っていいですね。ダンパーペダルに足が届かないからサスティーンがなくてちょっと拙いみたいな。間違ってたら超恥ずかしいんですが(笑)」
酒井「いや、でもそういうことだと思いますよ。あと、いまという一瞬を〈今日と明日の隙間に滑り落とした日々〉という表現したのが秀逸で、そこから静かになって盛り上がって転調。これってJ-Popのセオリー通りだけど、転調のタイミングで石野さんの感情が思わず爆発してたみたいで、否が応でも感動を誘うっていう」
ワタナベ「ピアノの動き方にはところどころでaikoさんっぽさも感じました。どんどんJ-Popとして成熟していってて、素晴らしいです」
酒井「しっとりした曲が続いて、最後はミディアムなロックの“夜の公園”。絶妙な距離感だけど関係性の分からない二人を、公園のブランコの距離感に喩えて歌うんだけど、最後に〈私じゃだめですか〉って言うことで〈そういう距離感だったのか〉って気付く。これも乙女心」
ワタナベ「名曲“プラチナ”なんかもそうですが、しっかりと伏線を回収されると涙腺にくるから勘弁してほしいですよね。ニクい! それから、ちょっぴり古臭い感じも響いちゃいます。どこか90年代っぽさがあるなあと」
酒井「なるほどね。こうやって5曲を通して振り返ると、解釈に個人差はあるだろうけど、5曲ともラヴソングに聴こえてきて」
ワタナベ「確かに、そうかも」
酒井「だから、新体制初となる次の作品は、もしかしたらラヴソングが多めになるのかな、なんて想像したりして」
ワタナベ「大きな括りで言えば、この世の曲はすべて何かに対するラヴソングとも言えますからね。いやしかし最高でした。作品も出るんですかねえ、楽しみです」