天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。今週も、また訃報をお伝えしなければいけません……。ロックンロールのレジェンド、リトル・リチャードが亡くなりました。87歳でした」

田中亮太「まさに20世紀のロックとポップ・ミュージックを作った巨人ですね。彼がいなかったら現在のロックがどんな様子だったか、想像もできません。ボブ・ディラン、ナイル・ロジャーズ、クエストラヴらの追悼コメントを、Pitchforkがまとめて伝えています」

天野「さらにもう一人、偉大な音楽家が……。ベティ・ライトが66歳で逝去。残念です。ヒット・ソング“Clean Up Woman”(71年)で知られるソウル・シンガーですね。日本の音楽ファンには小沢健二“ラブリー”(94年)の元ネタ、と言ったほうがわかりやすいかも」

田中「先週お伝えした元クラフトワークのフローリアン・シュナイダーといい、音楽史に名を残すアーティストたちがどんどんいなくなっていくのは、さびしいことです。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から。今週は、わりと尖った5曲になりましたね」

 

1. Archie Shepp, Raw Poetic & Damu The Fudgemunk “Tulips”
Song Of The Week

天野「〈SOTW〉はジャズ × ヒップホップな一曲! アーチー・シェップ、ロウ・ポエティック&ダム・ザ・ファッジマンクによる“Tulips”です」

田中「フリー・ジャズを代表するサクソフォニストの巨人アーチー・シェップ、米ワシントンD.C.のラッパーであるロウ・ポエティック、同郷のDJ/プロデューサーであるダム・ザ・ファッジマンク、という取り合わせですね」

天野「ロウ・ポエティックとダム・ザ・ファッジマンクは、以前からコラボレーションをしている2人です。もともとロウ・ポエティックはK・マードック(K-Murdock)とパナシア(Panasea)というグループで活動していて、ダム・ザ・ファッジマンクはパナシアのサポートもしていたんだとか。正直、あまり詳しくはないんですけど、ワシントンD.C.のアンダーグラウンド・ヒップホップ・シーンで活躍してきた2人、と言えそうですね」

田中「ダム・ザ・ファッジマンクの過去の曲を聴いてみたところ、かなりオーセンティックなイースト・コースト・ヒップホップ・マナーのビートでした。基本的にはジャズやソウルからのサンプリングによるブーンバップの作り手なんですが、今回は生バンドで演奏した曲です」

天野「ヴィブラフォンの音が印象的だなって思っていたら、ダム・ザ・ファッジマンクが自分で演奏していました。ドラムも彼とバシ・ローズ(Bashi Rose)が叩いているそうです。多才ですね! ロウ・ポエティックの太い声によるラップ、〈We’ve got soul, we’ve got jazz〉と歌う力強いリリックもかっこいいんですけど、なんといってもやっぱり、アーチー・シェップ御大のプレイが聴きどころでしょう。イントロから抜群の存在感!! フリーキーに吹きまくるソロも、さすがです。なんだか勇気づけられますね」

田中「圧倒的ですね。J・ディラ以降のジャズ × ヒップホップなヨレたビートも魅力的ですが、こういうシンプルでファンキーなグルーヴも踊れる感じでいいなって思いました。3者のコラボ・アルバム『Ocean Bridges』は5月22日(金)にリリース。楽しみですね」

 

2. Standing On The Corner “Angel”

田中「スタンディング・オン・ザ・コーナーの“Angel”が4位。STOCはNYが拠点のジャズ・アンサンブル/ヒップホップ・グループですね。ジャズに限らず、いまのポップ・シーンにおいてキーになる存在だと思います!」

天野「アール・スウェットシャートの『Some Rap Songs』(2018年)やマイク(MIKE)の作品に参加していて、現在のエクスぺリメンタル/オルタナティヴ・ヒップホップの音を定義していると言ってもいい存在ですよね。ソランジュの『When I Get Home』(2019年)にも貢献していました。本当に不思議なバンドで、この曲でも聴けるとおり、チョップト・アンド・スクリュードのサウンドを生演奏とエディットの組み合わせで表現しちゃうところがすごい。そのへんはソランジュの『When I Get Home』にも通じますね。ライブ・サウンドの喜びが、ぐちゃっと異化されているのは気味が悪いくらいです(笑)」

田中「アヴァンギャルドなジャズとヒップホップを繋ぎ合わせるバンドとして、フライング・ロータスや彼のレーベル、ブレインフィーダーのさらに先を目指しているのかなと。ライターの小熊俊哉さんがツイートしていたように、音色やメロディーからは郷愁を感じつつも、プロダクションは未知の世界を表現しているかのよう。オルタナティヴな俳優のメルヴィン・ヴァン・ピーブルズが出演しているミュージック・ビデオも必見!」

 

3. Naeem feat. Amanda Blank, Micah James “Woo Woo Woo”

天野「2位はナイームの新曲“Woo Woo Woo”。アマンダ・ブランクとマイカ・ジェイムズをフィーチャーした曲です」

田中「ナイームはスパンク・ロックとしての活動で知られているラッパー/プロデューサーですよね。スパンク・ロックは、ディプロらと共にボルチモア・ブレイクスの代表的なグループとして2000年代半ばに登場しました。近年はボン・イヴェールことジャスティン・ヴァ―ノンとの親交も深く、ボン・イヴェールの“Naeem”(2019年)の曲名は、彼にちなんで名づけられたそう」

天野「スパンク・ロック、懐かしい! ナイームが4月に発表したシングル“Simulation”には、ヴァ―ノンとスワンプ・ドッグが参加していましたね」

田中「この新曲は、スパンク・ロック時代から変わらないワイルドで前のめりなビートを使いつつ、声ネタはアーバンな雰囲気もあって、UKのダブステップやベース・ミュージックからの影響も窺えますね。洒脱さとドラッギーでぶっ飛んだ感覚が両方あって、ちょっと他にないサウンドになっている気がします」

天野「ヴァ―ノンとナショナルのアーロン・デスナーが主宰するレーベル〈37d03d〉からのリリースっていうのもおもしろいですよね。この曲を収録したアルバム『Startisha』は、6月12日(金)にリリースされます!」

 

4. Cut Copy “Love Is All We Share”

天野「4位はカット・コピーのニュー・シングル“Love Is All We Share”。カット・コピーって日本でも知られていると思うんですけど、一応説明しておくと、オーストラリアのメルボルン出身のバンドです。結成は2001年。ダンサブルなシンセ・ポップが魅力で、ホット・チップなんかとファンは被っているかも」

田中「今回の新曲は、2017年の5作目『Haiku From Zero』、翌2018年のシングル“Ocean Blue”以来の新曲ですね。それにしても、インディー・ロックに厳しい天野くんがカット・コピーを推してたので驚きました(笑)」

天野「ちょっと思い出補正がかかっているから、贔屓目に見ているのかもしれませんね。カット・コピーを初めて聴いたのはサード・アルバムの『Zonoscope』(2011年)で、当時はまだまだインディー・ロック/インディー・ポップの新作にわくわくしていた頃(笑)。あと、『January Tape』(2016年)というアンビエント・テープも発表しているように、彼らの電子音楽狂なところが好きなんです。この“Love Is All We Share”はダンス・ポップというよりも、アンビエント寄りですしね」

田中「たしかに、ものすごくドリーミーで驚きました。まるでクラフトワークのようなアナログ・シンセサイザーの音と、繊細だけどポップな電子音響が海のように広がっていく感じ。珠玉の一曲だと思います。新作を制作しているのかどうかはわかりませんが、今年は彼らの活動にも注目ですね」

 

5. Kacy Hill “Unkind”

天野「さて。今週最後の一曲になりました。5位はケイシー・ヒルの“Unkind”。彼女はアリゾナで生まれ育ったシンガー・ソングライターで、アメリカンアパレルやMCMのモデルとしても活躍しています。Instagramアカウントはこちら」

田中「カニエ・ウェストの『Yeezus』ツアー(2013~2014年)にダンサーとして参加していたそうですね。なので、レーベルもカニエのGOODミュージック。2017年にはGOODミュージック/デフ・ジャムからデビュー・アルバム『Like A Woman』をリリースしています」

天野「もちろんモデルとしての存在感は抜群なんですけど、歌い手としてすごく魅力的なんですよね。繊細かつ伸びやかで、少しかすれた歌声に、僕はハートを鷲掴みされています。音楽的には〈ジェイムズ・ブレイク以降〉というか、オルタナティヴなソウル/R&Bを追及していて、そこもすごくいいなと」

田中「今回はジム・E・スタックとケイシー自身がプロデュース。ジム・E・スタックといえば、2014年にイノヴェイティヴ・レジャー(Innovative Leisure)から『Tell Me I Belong』でデビューしたサンフランシスコのプロデューサーですよね。ボルチモア・クラブやベース・ミュージックを独自に解釈したダンス・ミュージックが新鮮でした」

天野「そうなんですよ。ちょっと意外な組み合わせ。6月19日(金)にリリース予定のケイシーの新作『Is It Selfish If We Talk About Me Again』には、ジム・E・スタックが参加した曲がいくつか収録されるようですよ。フランシス・アンド・ザ・ライツ(Francis And The Lights)とのシングル“I Believe In You”もめちゃくちゃ素晴らしかったですし、ケイシーのアルバム、すっごく楽しみ」