田中亮太「Mikiki編集部の田中と天野が海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。ここ最近は、米カリフォルニアのインディペンデント・レーベル、バーガー・レコーズ(Burger Records)についてのショッキングな事件が話題でしたね……」

天野龍太郎「僕もかなり衝撃を受けました。バーガーのスタッフやアーティストによる性的暴行が常態化していて、多くの女性たちから告発を受けています。最終的には、レーベルが閉鎖されることに。その経緯や内実については、FALSETTOSのMiukoさんが詳しくブログに書かれていて、日本語で読める記事ではこれがいちばんだと思います」

田中「バーガーはDIYやインディペンデントの精神性を強く打ち出したレーベルで、CHAIの作品をリリースするなど、独自の価値観やスタイルを築き上げてきました。日本のKiliKiliVillaなどと親交が深く、多くの人々にとってのインスピレーション源だっただけに、この事件は本当にキツいですね。残念です」

天野「連日、女性たちによる告発が聞かれるようになったいま、僕たち男性も自分自身の〈有害な男性性(toxic masculinity)〉とどう向き合うかが課題だと痛感しています……。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から」

 

1. Taylor Swift “cardigan”
Song Of The Week

天野「〈SOTW〉はテイラー・スウィフトの“cardigan”。先週7月24日、テイラーがサプライズ・リリースしたニュー・アルバム『folklore』の2曲目です」

田中「『folklore』はすごく高い評価を受けていますよね。ナショナルのアーロン・デスナー(Aaron Dessner)が16曲中11曲をプロデュースしていて、ボン・イヴェールが“exile”という曲に参加するなど、これまでのテイラーの作品とはまったくちがう手触りとムード。テイラーがインディー・フォークに挑んだアルバム、と言えそうですね」

天野「僕はモノクロームのアートワークやポートレートが公開された時点で、あっ、これはすごい作品になっていそうだ、と感じました。実際、これまでのどの作品にも似ていない特異なアルバムで、今後のキャリアのターニング・ポイントになりそう。〈ミス・アメリカーナ〉であるテイラーが、ミュージシャンとして〈アメリカーナ〉の音楽を引き受けた決意を感じたんです。もともと彼女はカントリー・シンガーで、アコースティックな表現を得意としていたわけで、この〈転向〉は自然にも感じます」

田中「制作背景には、やっぱり新型コロナの影響があったみたいですね。ロックダウン下でイマジネーションを広げて物語を描き、自宅でレコーディングを行ったと。で、この“cardigan”は何がすごいのでしょうか? 実は、よくわからなくて……(笑)」

天野「もう! しっかり曲を聴いてくださいよ!! “cardigan”はゴシップ的に、元恋人のハリー・スタイルズ(ワン・ダイレクション)に宛てたものなんじゃないか、とも言われています。考えすぎな気もしますが、テイラーのことだから、ありえそう……(笑)。でも、この曲の着想については〈20年経ったいまでも失った人のにおいがするカーディガン〉と言っているので、ハリーのこととはちょっとちがうのかなと。彼女自身は、〈Betty〉というキャラクターを主人公にした連作〈Teenage Love Triangle〉の内の1曲だと語っています。その〈Betty〉の複雑な恋心や未練が歌われていて、〈私は誰かのベッドの下にある/古いカーディガンみたい/あなたはそれを着て『お気に入りなんだ』と言ってくれた〉というのがサビの歌詞。最後には〈あなたはきっと私のところに戻ってくる〉と繰り返されますが、これは〈戻ってこない〉ことの暗示ですよね。なんだか映画『トイ・ストーリー』のような物語に思えますし、さらに〈Betty〉が自分のことを〈古いカーディガン〉と例えるのは、フェミニズムにおける性的対象(モノ)化を思わせます。悲恋の歌でありながらも、どこかテイラーのフェミニスト的な思想が滲んでいるようにも感じられるんです。〈あなたが私を着る(you put me on)〉というラインの〈put on〉には〈戯れにわざと欺く〉という意味もあるとGeniusで指摘されていて、そういう悪意の告発のようにも感じられる。……まあ、これはハリーの件と同じで、考えすぎかもしれません」

田中「なるほど……(笑)。とにかく、アーロンによるエレクトロニクスとストリングスが溶け合ったサウンド・プロダクションや幻想的なビデオも素晴らしい一曲。“cardigan”の〈cabin in candlelight〉ヴァージョンもリリースされたので、ぜひアルバムと共にチェックしてください」

 

2. Billie Eilish “my future”

天野「続いては、今朝リリースされたばかりのビリー・アイリッシュのニュー・シングル“my future”。映画『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の主題歌として制作された“No Time To Die”以来の新曲ですね」

田中「曲の前半部分はとても静謐で、ほとんどエレクトリック・ピアノとビリーの繊細なヴォーカルのみです。その後、ちょうど曲の中間部分でブレイクビーツやギター、ベースが入ってきます。この静謐さ、繊細さは、ビリーのデビュー・シングル“Ocean Eyes”(2015年)の発展形にも感じますね」

天野「この曲も、例によってロックダウンの状況下で制作されたもので、意図せずビリー × フィニアス(FINNEAS)の2人のスタイルが原点回帰したのかもしれません。とはいえ、世界的なミュージシャンとして国内外をツアーするようになっても、ビリーとフィニアスの制作方法はずっと変わっていない、とどこかで語っていた記憶があります」

田中「ジャーナリストの中村明美さんは〈インタビューで言っていた『(コロナ禍で)みんなに会えなくて孤独だと思わなくちゃいけないんだけど、一人の空間を楽しんでいる』ことをそのまま歌っている〉と指摘していましたね。たしかに、2ヴァース目で〈たぶん、いま私は孤独/アンハッピーだってわかっている〉と、反語的な表現をしています。ロックダウンによる孤独・孤立というのは、ビリーにとっては逆に生きやすい環境なのかもしれません」

天野「サビの〈でも、私は恋に落ちている/私の未来と/あなたは彼女のことを知らない/私は恋をしている/ここにはいない誰かと/2、3年後に会おう〉という歌詞も示唆的です。〈未来に恋をしている〉という表現も、おそらくその〈未来〉を〈彼女〉と言っているところも、〈2、3年後に会おう〉というラインも、すごくおもしろい。〈2、3年後〉が想像できないいま、こういう〈未来への恋〉をさらっと歌うビリーがかっこいい。ただ、もっと音楽的に冒険した曲を聴きたいな、とも思いました!」

 

3. A. K. Paul “Be Honest”

田中「3位はA. K.・ポールの新曲“Be Honest”です。彼はロンドンのシンガー・ソングライター/プロデューサー、ジェイ・ポール(Jai Paul)の実兄。兄弟で〈Paul Institute〉というレーベル/プロジェクトを運営していて、A. K.・ポール自身もネイオやムラ・マサなどの作品に参加しています。最近はエヴリシング・イズ・レコーデッド(Everything Is Recorded)の新作『FRIDAY FOREVER』の収録曲“05:10 AM / Dream I Never Had”にフィーチャーされていました」

天野「意外にも、A. K.・ポールとしてリリースした楽曲は、この“Be Honest”でまだ3曲目。この連載で紹介したジェイ・ポールの7年ぶりのシングル“Do You Love Her Now”(2019年)と同様に、“Be Honest”も端正なベッドルームR&Bといった趣です」

田中「どちらの曲も音の細部まで磨き上げられており、プロダクションの完成度がすごい。加えて“Be Honest”には、レゲエの要素も入っていますね。ビートの生々しい質感と艶めかしいギターの音には、初期スクリッティ・ポリッティをアップデートしたかのような印象を受けました」

天野「5月に彼がリリースした“Hungry Beat”はプリンスのデモ音源をめちゃくちゃにエディットしたかのような異形のファンクでしたし、ヴォーカリストとしてもプロデューサーとしても引き出しの数は多そう。とはいえ、この“Be Honest”のサウンドは以前よりも丸くなったような印象で、ちょっと刺激に欠けるかも。ポール兄弟からは、もっと変な曲を聴かせてほしいのが本音です。2人と〈Paul Institute〉の動きには、引き続き注目してきたいですね!」

 

4. mxmtoon “bon iver”

天野「4位はエムエックスエムトゥーンの“bon iver”。〈エムエックスエムトゥーン〉とカタカナで書いてもピンとこないかもしれませんが、〈mxmtoon〉という名前を見たことがある人はけっこういるんじゃないかなと思います。エムエックスエムトゥーンことマイア(Maia)は中国系アメリカン人で、オークランドで活動するSSW。先日、僕が書いたベッドルーム・ポップの記事で紹介しようか迷ったんですけど、候補から外しちゃいました。紹介しておけばよかった!」

田中「2018年の自主制作EP『plum blossom』は、実家のベッドルームでGarageBandを使って録音された作品だとか。まさしくベッドルーム・ポップ! 初期の彼女はウクレレの弾き語りでも知られていて、『plum blossom』はほとんどウクレレと歌だけで構成されていますし、この新曲“bon iver”でもウクレレがフィーチャーされていますね。そして、2019年にデビュー・アルバム『the masquerade』を、今年4月にEP『dawn』を発表しています。ピーチー!(peachy!)とのシングル“Falling For U”(2017年)がSpotifyでヒットし、アルバム収録曲“prom dress”がTikTokで人気曲になるなど、エムエックスエムトゥーンのキャリアはまさに現在の音楽シーンの映し出していると言えそうですね」

天野「マイアについては、つくさんという方が〈エモすぎる内向的ガール、Z世代mxmtoon〉というnoteの記事で詳しく紹介しています。それにしても、noteってすごいな~。僕たちもウェブメディアとして、noteの熱心な書き手たちに負けないよう頑張らないと……」

田中「それはさておき、今回のシングルは初期のスタイルから脱却しつつあるエムエックスエムトゥーンの新しい姿を伝えるもの。バチっと化粧をしたカヴァー・アートのイメージも、作り込まれたサウンド・プロダクションもフレッシュです。あと、〈bon iver〉という曲名もおもしろい。〈深夜のドライヴでボン・イヴェールを聴いていた〉という歌詞の一節がありますね」

天野「いい曲ですよね。とにかく、エムエックスエムトゥーンは要注目のアーティスト! ちなみにこの曲は、彼女が今年発表する予定のEP『dusk』からのシングル。『dusk』のリリースが楽しみでなりません」

 

5. HYO feat. Loopy, SOYEON ((G)I-DLE) “DESSERT”

田中「最後は、少女時代のメンバーとして知られるヒョヨンのソロ・シングル“DESSERT”。LA出身の韓国系ラッパー、ルーピーと、新進のアイドル・グループ、 (G)I-DLEからソヨンが参加しています。この連載でBLACKPINK以外のK-Popを取り上げるのはひさしぶりですね」

天野「たしかに。しかも、今回は珍しく亮太さんが推した曲です。もともと少女時代が好きだったんですか?」

田中「いや、特に……(笑)。K-Popに詳しい方がSNSでこの曲を紹介しているのを見て、聴いてみたんです。そうしたら、もうぶっとばされて。ムーンバートン的なリズムがめちゃくちゃパワフルだし、3人のヴォーカルの応酬にもアガらずにはいられません! 一応説明しておきますと、最初のヴァースはソヨンが歌っていて、ヒョヨンの登場は次のプリ・コーラスから。ヒョヨンは〈Some more cake in my hands〉と歌ったあとのサーカスティックな笑い声もかっこいいです」

天野「随所でオリエンタルなフレーズが飛び出すので、BLACKPINKの最新曲“How You Like That”にも通じるムード。ヒョヨンにとっては、ソロ活動の本格始動を告げる作品であり、これ以上ないくらいに痛快な一曲だと思います。今後の彼女の活動に期待したいですね」