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インタビュー

演出家・岩田達宗とバリトン歌手・小森輝彦がヴォルフ『イタリア歌曲集』のオペラ化に込めた想いと願い

「200年後の観客がこんなに喜んでるぞって、ヴォルフに見せてあげたい」

左から、岩田達宗©大阪音楽大、小森輝彦

「200年後の観客がこんなに喜んでるぞ、って、ヴォルフに見せてあげたい」

 演出家・岩田達宗によって、ドイツ歌曲の雄、フーゴー・ヴォルフの『イタリア歌曲集』がオペラ化されるという。なるほど、46曲にも及ぶこの歌曲集を男女で歌い分け、そのストーリー性を際立たせようという試みはこれまでにもあった。だがその試みは、きっと、さらに具体的に、リアリティをもって我々の眼前に立ち現れるだろう。岩田によれば、舞台・音楽がままならぬ時代となったいまこそ、舞台の持つ〈意義〉が問われるという。

岩田「いま、このコロナの時代にどういう芸術が可能なのかについては、いまだから、というよりは、前から考え続けていたことではありました。東日本大震災の頃に言われ始めた〈瓦礫の上で音楽を〉という言葉があるけれど、芸術を成り立たせるテクノロジー、あるいは電源などがすべてなくなってしまうと、人間がどれほど弱い存在なのかがわかる。そのうえで、本当に最小限の人間の肉体だけで描く舞台、というものに挑戦しないとだめだ、と想い続けていました。マイクを使わない〈声〉そのものを、きちんと舞台に出したい、と思っていたから。
 あとは、電源をすべて抜いた後に残る〈言葉〉の問題ですね。複雑で豊かな言葉を発信して、それでわかってもらえることがある一方で、テクストだけでは伝わらないこともある。生き物として、電源プラグを抜いた後に残る肉体そのものも同時に見せたかった、ということで、ダンスも加えようと思い立ったわけです」

 〈歌〉と〈ダンス〉を組み合わせて成り立つ〈歌劇〉として、ヴォルフの真価を知らしめようとする岩田の構想は、素直になれない女と不器用な男が、全力でぶつかりあいながらも互いの愛を深めていく(だが男の出征で悲劇に終わる)、というストーリーに集約された。

岩田「ヴォルフの『イタリア歌曲集』は、〈演劇〉になるな、と思ったんですよね。人間の本質が、このドイツ語のリートにすべて入っている、と。46曲の中からストーリーを何とか捻り出そうとしたわけではなく、ごく自然に完成しました。オペラの企画が一発で通ったことなんてほとんどないのに、東京文化会館さんにこの企画を持ちかけたら、あっけないほどあっさりと通っちゃったんですよ(笑)」

小森「僕にとって、ヴォルフは〈歌のドイツ語を教えてくれた先生〉かな。ヴォルフが扱う、ドイツ語と歌・メロディの関係は実に独特で、勉強してこれを理解すればするほど、他の作曲家の楽譜の読み方も腑に落ちていくようなところがあります。ヴォルフを歌うのは、原点に立ち返ることでもある、という感じ。何て言うのかな、実家のお風呂に入ってるみたいな感覚かも(笑)。
 岩田さんの舞台にはよく参加させていただいていますが、今回は特別という気がします。岩田さんはご自分が大好きな人たちを集めて、その人たちが愉しくやっているのを見て、さらに自分が幸せになっていく、みたいなところがありますよね(笑)。ご自分がいちばん愉しんでいるというか。歌手をどう扱うといちばん輝くかを、よくご存じなんですよ」

岩田「小森さんだって、ただのオペラ歌手ではないですからね。最高の歌手、最高のスタッフというのは、演劇人としての才能がないとダメなんですよ。歌の才能があっても、全体の中で自分がどういう役割を担っているかがわからないと、いいものはできない。小森さんは、それをわかった上で振る舞うことができるから」

 ここまでヴォルフを愛するひとたちが集う舞台は、舞台・客席の喜びとなるばかりでなく、ヴォルフその人に対する最高のオマージュともなるだろう。

岩田「ヴォルフは自作のオペラを成功させたいと、世俗的な成功を望んでいましたからね。その意味では、お客様に楽しんでもらえそうな舞台にして、ヴォルフにも花道をつくってあげられるといいな、と思っています。200年後の観客がこんなに喜んでるぞ、って、ヴォルフに見せてあげたい(笑)」

 


岩田達宗 (いわた・たつじ)
舞台監督集団「ザ・スタッフ」に参加。1991年より栗山昌良氏に演出助手として師事。1996年五島記念文化賞オペラ新人賞を受賞。オペラ演出家として全国のオペラ・プロダクションで作品を発表し、高い評価を得る。最近の主な演出作品は、藤原歌劇団『ラ・ボエーム』、『ラ・ジョコンダ』『トラヴィアータ』、東京文化会館開館50周年記念公演『古事記』、新国立劇場『夜叉ケ池』(台本共著)など。

 


小森輝彦 (こもり・てるひこ)
バリトン。東京藝術大学卒業。同大学院、文化庁オペラ研修所終了。文化庁在外研究員としてベルリン芸術大学に学ぶ。1999年プラハ国立劇場『椿姫』ジェルモンで欧州デビュー。独アルテンブルク・ゲラ市立劇場専属第一バリトンとして『ドン・ジョヴァンニ』『さまよえるオランダ人』のタイトルロール等の大役を多数演じ12年間同劇場を牽引するとともに欧州各地で活躍。その業績により2011年に日本人初のドイツ宮廷歌手の称号を授与された。東京音楽大学教授。二期会会員。

 


LIVE INFORMATION

東京文化会館 舞台芸術創造事業
歌劇『ヴォルフ イタリア歌曲集』

○2020年11月28日(土)15:00開演
会場:東京文化会館 小ホール
上演形式:歌劇(原語(ドイツ語)上演・日本語字幕付)
演出・構成:岩田達宗
出演:老田裕子(S)小森輝彦(Br)井出徳彦(p)山本裕、船木こころ(dance)
美術:松生紘子
衣裳:前田文子
照明:大島祐夫
振付:山本裕
舞台監督:大仁田雅彦
www.t-bunka.jp/stage/5735/

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