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1. Burna Boy “20 10 20”
Song Of The Week

天野「〈SOTW〉はバーナ・ボーイの“20 10 20”です。バーナ・ボーイことダミニ・エブノルワ・オグル(Damini Ebunoluwa Ogulu)は、この連載で何回か紹介しているとおり、ナイジェリアのアフロビーツ・シーンを代表するスターです。2018年、“Ye”というカニエ・ウェストのアルバムと同名の曲が勘違いされてストリーミング・サーヴィスでヒットしたこともあって、英語圏でも成功を掴んでいます」

田中「今年8月には、前作『African Giant』(2019年)に続く快作『Twice As Tall』をリリースしたばかりですね。彼に先んじて世界的な成功を手にしたウィズキッドが先週発表した新作『Made In Lagos』では、“Ginger”という曲に参加していました。同じく先週リリースされた、サム・スミスの『Love Goes』にも客演していて、とにかく注目されていますね」

天野「そんなバーナ・ボーイが10月29日に急きょリリースしたのが、この“20 10 20”です。これは明確なプロテスト・ソングですね。ナイジェリアでは現在、ブラック・ライヴズ・マター運動に連動して、警察の暴力への抗議運動が大きなうねりになっています。バーナ・ボーイもデモに参加していて、欧米のアーティストがこれに協力していることも話題になりました。そんななか、10月20日、ラゴスのレキで平和的に抗議活動を行っていた人々に向けてナイジェリア軍が発砲したんです。20人が亡くなったとも言われており、曲名やカヴァー・アートはその痛ましい事件を表しています」

田中「〈2020年10月20日/あんたは軍隊を率いてレキで多くの若者を殺した〉〈ただ語るのは殺人行為の正当化だけ/参謀長や司令官は命令を遂行するだけ/大統領様よ、市長様よ〉と、この曲では歌われていますね。アウトロでは、実際の発砲音や群衆の混乱を捉えた音声が挿入されています」

天野「リリックからは、バーナ・ボーイがアフロビートの創始者であるフェラ・クティの意志を継ぐ音楽家であることを感じさせます。フェラも、生涯を通してナイジェリア政府や軍と闘っていました。アクチュアルな楽曲であることはもちろん大事なのですが、そういった歴史的な観点からも聴きたい一曲です。僕たちもこの曲を聴くことで、ナイジェリア軍と政府の暴力に抗議したいと思います」