待望のコンチェルト集は、様々な素材がお互いを保ちながら“共存”する“コラージュ”から成る作品で固めた意欲的な1枚。核となるのはギタリストにとってひとつの目標ともいえる《アランフェス協奏曲》。

村治奏一 コラージュ・デ・アランフェス キング(2014)

 

 「2007年に初めてアランフェス宮殿を訪れた時、絢爛豪華な黄金の部屋から唐草模様で彩られた東洋風の部屋、アラブ風の小部屋と、スタイルの異なる空間が次々と目の前に現れるのが印象的でした。ロドリーゴがこの作品で描こうとしたのもまさにそんな18世紀スペイン宮廷文化の多様性であり、気品に満ちたフレーズと親しみやすい旋律の“共存”からは、貴族と民衆の垣根が低かった当時の空気までもが偲ばれます」

 林光のギター協奏曲《北の帆船》も北から南まで色とりどりの文化が美しく織り込まれた作品。

 「鈴木大介さんの演奏で最初に聴いた時は単純に綺麗な曲だなと思いましたが、今回のテーマに照らし合わせて調べたら、第1楽章には琉球の子守唄、第2楽章にはアイヌに伝わる3音だけの音階を使った歌が出てきて、第3楽章でまた沖縄に戻ってくるんですが、旋律は林さんのオリジナルになっている。つまりいろんな違いを受け入れて成立した日本という国の成り立ちを描きたかったのではないだろうかって。特に最後の楽章はギターの音色も多彩で祈りにも似た想いが溢れている。タイトルも琉球で島々を航海する時に目印とした北斗七星に由来していて、ロマンを感じますね」

 武満徹の《夢の縁へ》ではギターとオーケストラが敢えて互いに交わることなく、断片化したそれぞれのメロディが美しく“コラージュ”されている。

 「冒頭のギター・ソロでは凄い音をめいっぱい駆使して、武満さんならではの濃厚な世界が紡ぎ出されるんですが、終盤でギターとオーケストラが一緒になるところでは、ほとんどひとつの音しか聴かれない。ギターの“個”としての音そのものがオーケストラの中に縦にすっと入っているかんじで、それこそが武満さんの考える理想の“共存”のかたちなのかもって思える。タイトルについても指揮者の海老原さんと何だろうねっていろいろと話し合うのは楽しかった。“縁へ”と向かうのだから覚醒しつつあって、最後に調性のあるメジャーなハーモニーで終わるのも、夢から秩序ある現実世界へ戻っていくイメージじゃないかな…とか」

最後に素敵なアンコールのように加わるのはマイヤーズの名曲《カヴァティーナ》。

 「こってりとした料理が続いたので、締めのデザート(笑)。とにかく自分にとって新たな出発点となるような本アルバムを発表することができて嬉しい。今年も様々なプロジェクトに挑戦するのでご期待下さい!」

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