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10. Wolf Alice “The Last Man On Earth”

天野「いよいよトップ10に突入。10位に選んだのは、ウルフ・アリスの“The Last Man On Earth”。6月にリリースされた新作『Blue Weekend』からのファースト・シングルでした。アルバムがとにかく素晴らしくて、今年を代表するロックの名盤だと思います。なので、同作の曲は絶対に上半期ベスト・ソングに選びたいと思っていて、この曲と“Smile”のどちらにするかで悩みましたね」

田中「個人的な好みはパンキッシュなバンガー“Smile”のほうなのですが、ミッド・テンポのシネマティックなサウンド、さらに中盤の展開の鮮やかさなど、王道のブリティッシュ・ロックをほうふつとさせる“The Last Man On Earth”は、バンドの新境地を伝える曲だなと思い、合議のうえでこちらを選びました。シンプルに生きられない人間の傲慢さ、悲哀がテーマだという歌詞もいいですし。UKロックの伝統に根ざしつつ、〈その最先端に自分たちがいるんだ〉という決意を感じさせる曲でした。名曲!」

 

9. Squid feat. Martha Skye Murphy “Narrator”

田中「〈PSN〉は、UKロック・シーンの動向にはずっと注目してきました。2021年はブラック・ミディブラック・カントリー・ニュー・ロードドライ・クリーニングなどが傑作を発表して、同地のシーンはいよいよ勢いづいている印象です」

天野「なかでもブライトン出身のスクイッドがワープから発表したデビュー・アルバム『Bright Green Field』は、快作でしたね。ポスト・パンク的なやぶれかぶれのパワー、ジャーマン・ロックからの影響が表れたビート、そしてポスト・ロック的な構築性が彼らの魅力ですが、アルバムからのファースト・シングル“Narrator”には以前と比べものにならないくらい進化したバンドの姿が刻まれていて驚きました。ビルドアップしていく強烈なバンドの演奏、そしてマーサ・スカイ・マーフィーの叫びが忘れられない一曲です。UKインディーの勢いを象徴していると言っていいでしょう」

 

8. BTS “Butter”

田中「今年の上半期における最大のポップ・ヒットのひとつですね。8位はBTSの“Butter”です。昨年の“Dynamite”と同様に、コロナ禍の時代において、まばゆいまでのポジティヴィティーを示してくれた曲だと言えるのではないでしょうか」

天野「BTSはK-Popという領域を越え出た存在になりましたね。“Butter”は、ディスコ・ポップだった“Dynamite”よりもベースやキックが前に出ていて、エレクトロ・ポップ色が強い派手なプロダクションが最高。メンバーそれぞれのヴォーカル・パートは短いけれど、7人の個性がしっかりと刻まれた歌もチャーミング。あとはやっぱり、リズミカルでキャッチーなメロディーが見事です」

田中「BTSの曲って、彼らが愛するブラック・ミュージックにリリックやアレンジで敬意を払いつつ、仕上がりとしては絶妙にルーツ性が希薄なんですよね。先日リリースされた“Permission To Dance”を聴いたときにも感じたのは、ここ最近のBTSの魅力は、〈『ダンスできない人』も排除せずに仲間に入れる『ダンス・ポップ』〉というところにあるのかなと。この7人組は、いまポップを誰よりも引き受けている存在だと思いますね」

 

7. Lorde “Solar Power”

天野「ロードの4年ぶりの新曲“Solar Power”が7位です。軽やかなギターのコード・ストロークとロー・テンポのブレイクビーツに、なんだかバレアリックなムードが漂っています。プロデュースは、いまや当代随一の売れっ子となったジャック・アントノフ(Jack Antonoff)。コーラスにフィービー・ブリジャーズとクレイロが参加しているっていうのもいいな~。この曲は、発表直後からプライマル・スクリームの“Loaded”(90年)ジョージ・マイケルの“Faith”(87年)“Freedom! ’90”(90年)が引き合いに出されていましたね。実際、めちゃくちゃ似ている(笑)」

田中「ただ、ロードは“Loaded”を聴いたことがなくて、ロビー・ウィリアムズの“Rock DJ”(2000年)を意識していたらしいのですが、ボビー・ギレスピーはこの曲を聴いて賛辞を贈ったそうです。〈大好きだよ。僕たちが何年も前に捉えたフィーリングを、君がまた捕まえてくれたね〉とコメントしています。さすがボビー、かっこいい!」

天野故ジョージ・マイケルの遺産管理団体も応援しています。ロードは、8月20日(金)にこの曲と同名のニュー・アルバムをリリース。彼女は新作について〈みんなの夏の一作になってほしい〉と語っていて、これまでの2作とは異なるムードのアルバムになっていそうですね。どんなアルバムなのか、とても楽しみです」

 

6. Japanese Breakfast “Be Sweet”

天野「6位はジャパニーズ・ブレックファストの“Be Sweet”。なんと、〈PSN〉はこの名曲を取り上げていませんでした。この後に出た“Posing In Bondage”は紹介していましたが、不覚……。そう思うくらい、“Be Sweet”は今年を代表する最高の一曲だと考えています」

田中「以前はメランコリックでローファイなインディー・ロックという印象が強かった彼女の作風ですが、“Be Sweet”はうきうきするエレクトロ・ポップです。ワイルド・ナッシングのジャック・テイタム(Jack Tatum)と共作した楽曲で、クールな音の質感や乾いたドラムの響きは、たしかにワイルド・ナッシングっぽい。パートナーに向けて〈私に優しくして!〉と呼びかける歌詞も微笑ましい」

天野「過去2作は彼女のお母さんが癌で亡くなったことが影を落としていましたが、“Be Sweet”を収録した『Jubilee』では〈喜びを歌いたかった〉と語っています。Mikikiは傑作『Jubilee』についてのインタビューを掲載していますので、“Be Sweet”の制作背景などについては、そちらをぜひご覧ください!」