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21. Remi Wolf “Liquor Store”


田中「レミ・ウルフの今年の活躍は、痛快という言葉がぴったり。カリフォルニア出身のシンガー/プロデューサーである彼女は、ドミニク・ファイクとコラボレーションした“Photo ID”(2020年)を皮切りに、ゴキゲンなポップチューンをたくさん届けてくれました。彼女が新曲をリリースするたびに、天野くんとは〈今回もいいね〉とやりとりしていた気がします(笑)。10月にリリースしたファーストアルバム『Juno』も、期待を裏切らない良作でした」

天野「彼女の魅力は、90年代のグランド・ロイヤルなどをほうふつとさせるカラフルなストリート感を前面に出しつつ、プロダクションは現代的にアップデートされているところですよね。あと、見た目のポップさとは裏腹に、自身のメンタルヘルスの問題を率直に綴ったリリックには、この時代の若者ならではの切実さが覗いています。この曲は、アルコール依存症の苦しみとそこからの克服について歌われているんですよね」

 

20. Wet Leg “Chaise Longue”


田中「ポストパンク的というべきソリッドなギターサウンドがUKインディーの主流になってひさしいですが、今年もヤード・アクトやイングリッシュ・ティーチャーといったニューカマーがシーンを賑わせました。そのなかでも、ワイト島から現れたウェット・レッグは最注目の存在だと思います」

天野「最注目というか、もはや一人勝ち状態! 今月、早くもアメリカの人気TV番組『Late Night With Seth Meyers』に出演していましたよね。英国のインディーバンドとしては、異例の出世ペースです。この“Chaise Longue”は、デビューシングルにして彼女たちが成功を掴んだ一曲。ミニマルなビートとノイジーなギターに不機嫌さの漂う歌声を乗せて……と、要素はどれも目新しくはないのですが、この2人が歌うと不思議な魔法がかけられます。ユニークな歌詞も魅力で、新鋭サイト〈ORM〉が彼女たちにいち早くインタビューするなど、日本のインディーコミュニティーではもはやスター。待望のファーストアルバム『Wet Leg』は来年4月8日(金)にリリースされます!」

 

19. PinkPantheress “Pain”


天野「ピンクパンサレスも、今年ブレイクしたニューカマーですね。彼女は、90~2000年代の楽曲をサンプリングしたビートに自作のメロディーを乗せた動画をTikTokに投稿したことで注目を集めました。彼女はドラムンベースやディスコポップの有名曲を使うことが多いんですけど、この“Pain”はスウィート・フィメール・アティテュードによる2ステップの名曲“Flowers”(2000年)を下敷きにしています」

田中「“Flowers”は当時大好きだった曲で、12インチシングルを持っていましたよ! そんなシニアホイホイなネタの選び方も、幅広い世代を魅了している理由のひとつなのでしょうね。その一方で、1~2分台という曲の短さには、新世代ならではのセンスを感じます。この曲なんて1分過ぎからスクリューされて、さらにフェードアウトして終わるという潔さ。ちなみに、歌詞に〈La-la-la〉が多用されているのは、制作時に深刻な作詞スランプだったからなのだとか。それを割り切って完成させてしまうところが、かっこいいです。彼女は2022年、さらにシーンを盛り上げてくれそうな気がします!」

 

18. Sharon Van Etten & Angel Olsen “Like I Used To”


天野「18位にはシャロン・ヴァン・エッテンとエンジェル・オルセンのコラボ曲“Like I Used To”を選びました。現在のUSインディーシーンの顔というべき2人の女性シンガーソングライターによる夢の共演曲で、女性アーティストの活躍や女性たちの連帯がキーワードだった2021年を象徴する曲ですね。じっくりと聴かせる曲でありながらも、なだらかに高揚していくメロディーが素晴らしい。プロデュースを担ったジョン・コングルトン(John Congleton)によるメリハリの利いたプロダクションも見事です」

田中「フィル・スペクター風のウォールオブサウンドを下敷きにしつつ、随所でキラキラとした音色のシンセやエレクトロニクスが差し込まれていて、モダンなサウンドに仕上がっていますよね。〈かつて私がしたように〉とアイデンティティーの再生を歌ったリリックもいいですし、先の見えない時代において、不安を抱えるリスナーにとっての光明になった曲ではないでしょうか」

 

17. Arlo Parks “Hope”


天野「〈PSN〉が以前から推していたサウスロンドンのシンガーソングライター、アーロ・パークス。彼女の“Hope”は、今年屈指の感動的な曲でした。〈あなたはあなたが考えるほど孤独じゃない/わたしたちはみんな傷を負っている、辛さはわかる〉と傷ついた者にそっと寄り添う、パークスのエンパシーが表現された、ただただ優しいソウルナンバーです」

田中アーロ・パークスのデビュー・アルバム『Collapsed In Sunbeams』は高く評価されていて、海外メディアの年間ベストの多くで選ばれていますよね。バイセクシュアルである自身の性的指向について率直に歌い、LGBTQ+コミュニティーやメンタルヘルスに問題を抱える若者たちの支えになっているパークスは、音楽的にも社会的にも重要な存在だと思います」

 

16. Dry Cleaning “Scratchcard Lanyard”


天野「2021年の最大のトピックのひとつはUKロックシーンの盛り上がりですが、これは今年に限らず、ここ数年の潮流なので、説明不要かもしれません。今年もブラック・カントリー・ニュー・ロードスクイッドのデビューアルバム、ブラック・ミディゴート・ガールの2作目など、とにかく話題作が尽きませんでした。そのなかでも鮮烈だったのが、ドライ・クリーニングの登場ですよね」

田中「彼女たちの最大の魅力は、フロントウーマンのフローレンス・ショウ(Florence Shaw)の存在です。まるでポエトリーリーディングのような不遜で不機嫌なボーカル、そしてショウが書くイマジネーション豊かでシュールレアリスティックな歌詞は、他のどのバンドにもない個性ですよね」

天野「この“Scratchcard Lanyard”には〈すべてをやって、何も感じないで(Do everything and feel nothing)〉など、鋭いキラーフレーズがたくさんありますよね。また、ミニマルなバンドアンサンブルも聴きどころで、ジョイ・ディヴィジョンやソニック・ユースを思わせるソリッドでダークなポストパンク/オルタナティブロックサウンドがとにかくクール。そんなドライ・クリーニングのチャームが凝縮されているのが、この曲だと思います。彼女たちのデビューアルバム『New Long Leg』は、今年を象徴するロックレコードでしょう!」