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多方面への敬意と賛美

 デスティニーズ・チャイルド時代から幾多のハウス・リミックスが作られてきたビヨンセ自身もクィア・アイコン的な役割を担ってきた。新作のブックレットにも見られる過剰な女らしさの装いはドラァグクイーンからの影響とも言われる。だが、そうしたカルチャーは、まだまだ世間に認知されていないのではないか?と。そこで、「ル・ポールのドラァグ・レース」や「POSE」といった番組も話題となるなか、改めてそのカルチャーに踏み込み、主に黒人の性的少数者を支援するアライとしてクィア・コミュニティを賛美したのが今回の新作なのだろう。アルバムが、ビヨンセの〈ゴッドマザー〉だというクィアの亡きおじ、ジョニーに捧げられているのもその証左となる。

 シームレスに曲が繋がれたアルバムは、ダンスフロアでDJのプレイを聴いているかのようだ。人呼んで〈クラブ・ルネッサンス〉。ハウスを中心にさまざまな曲がサンプリングされ、引用した曲自体もクィア・カルチャーだったり、ビヨンセの出自や音楽的背景と密接に結びついている。“BREAK MY SOUL”におけるビッグ・フリーダの曲はもちろん、マイクQ、モワ・レネー、ケヴィン・アヴィアンスというクィア・アイコンたちのダンス・ナンバー3曲を巧みに織り込んで恍惚を生み出した“PURE/HONEY”も狙いは明らかだ。“SUMMER RENAISSANCE”でのドナ・サマー“I Feel Love”(77年)の引用もそうした背景に基づくもので、これは“ENERGY”で一瞬口ずさむ“Ooo La La La”(88年)の歌い手だったティーナ・マリーも含めて、故人である先達へのトリビュートにもなっているのだろう。

 ゲストや一部のプロデューサーたちも同様の観点から選ばれている。黒人である自分自身に居心地の良さを感じると歌う“COZY”などを手掛けたハニー・ディジョン、サブリナ・クラウディオがペンを交えた“PLASTIC OFF THE SOFA”の共同制作者であるシドも性的少数者を代表する黒人だ。また、アフロビーツを思わせるトライバルな“MOVE”にはグレイス・ジョーンズを起用。この性を超越したアイコンをナイジェリアのテムズと一緒に招くことで、米国黒人のルーツであるアフリカやカリブ海諸国にまで賛美の対象を広げている。