Page 2 / 2 1ページ目から読む

バッド・プラス『Give』(2004年)はジャケットから非常にポップですが、編成はオーソドックスなアコースティックピアノトリオ。しかし、そこから出るサウンドは、コンテンポラリーでありながら、それまでのピアノトリオになかった非常に重量感のあるダイナミックなもので、ピアノトリオという繊細な編成でロック的な圧力で攻めるのは、当時極めて新鮮でした。

THE BAD PLUS 『Give』 Columbia(2004)

それが全く小手先ではなく、ピアノのイーサン・アイヴァーソンをはじめ、最先端のゴリゴリのコンテンポラリーのミュージシャンで演奏されるものですから、ジャズの精神的自由さは全く損なっていない。かなり尖ったジャズなのに、ロックバンド的な〈バンド感〉があり、即興の刹那的な面白さではない、結束の愉しみがありました。
当時、〈轟音ピアノトリオ〉だったかな、そのようなキャッチコピーで売り出されていましたが、フォルティシモを拡大したから繊細でナイーブな表現が際立ったところがあり、轟音というよりはダイナミックレンジ拡大の可能性を強く感じました。
収録曲“Velouria”が顕著ですが、1曲の中でのピアノのタッチの変化、ドラムの音色の変化を聴いてもらえると、いかに音量変化しているか想像しやすいと思います(マスタリングで整えられていますが、この音色変化だと、生で聴くと相当音量変化があるはずです)。

バッド・プラスの2004年作『Give』収録曲“Velouria”

私が好きな作品は、『Prog』(2007年)

THE BAD PLUS 『Prog』 EmArcy/Do The Math(2007)

オリジナル“Physical Cities”はヘヴィネスと即興のブレンドが見事ですし、ラッシュの“Tom Sawyer”のカバーも原曲をよりストーリー性豊かに昇華しています。オリジナル“1980 World Champion”の愉悦溢れるビートに乗った開放的な演奏は、本当に気持ち良いです。

バッド・プラスの2007年作『Prog』収録曲“1980 World Champion”

現在のバッド・プラスはイーサン・アイヴァーソンが抜け、ベン・モンダー(ギター)とクリス・スピード(サックス)が加入。ピアノトリオ編成ではなくなっています。

 

そして、スウェーデンのピアノトリオE.S.T.(エスビョルン・スヴェンソン・トリオ)の『Strange Place For Snow』(2002年)
個人的には翌年の『Seven Days Of Falling』(2003年)が大好きなのですが、世界に衝撃を与えたのは『Strange Place For Snow』でした。

E.S.T. 『Strange Place For Snow』 Superstudio Gul/ACT(2002)

こちらも編成は基本的にはオーソドックスなピアノトリオですが、当時何が新しかったかというと、全ての楽器にエフェクターを使用し、その音響効果で分厚い音像にしていたことです。
コントラバス、ドラムスにエフェクターを使うことはあったとしても、グランドピアノそのものにエフェクターを使ってピアノトリオで演奏するということは、異例でした。音響効果とともにアンサンブルを登りつめ、ソロをすればキース・ジャレット直系の激烈なエモさ。さながらインダストリアルロックに近い音像もあり、当時の若いジャズリスナーがハマらないわけがない、生命力あるサウンドでした。
ジャズでのピアノトリオという編成は、最小最低限の完成されたピラミッドで、それ自体にブランド力を持つものです。その中でどれだけ自由に即興で音楽を構築するか、そのある種神聖な人力主義・アコースティック主義から一歩踏み出し、拡張したのがE.S.T.でした。

E.S.T.の2004年のライブ動画

私も生涯のアルバムに挙げる『Seven Days Of Falling』(2003年)は、とにかく曲が良い。

E.S.T. 『Seven Days Of Falling』 Superstudio Gul/ACT(2003)

特に“Believe, Beleft, Below”、“Elevation Of Love”は、後に世界中のミュージシャンに演奏されています。ロックスター的なカリスマのあったバンドでした。

E.S.T.の2003年作『Seven Days Of Falling』収録曲“Believe, Beleft, Below”“Elevation Of Love”

残念ながらエスビョルン・スヴェンソンは2008年に亡くなり、残された音源を聴くことしかできません。

私が2007年にスウェーデンの〈ストックホルム・ジャズ・フェスティバル〉に出演した時、前日だったかな、ベーシストの車でストックホルム市内を移動していたのですが、大きなスポーツスタジアムの脇を通ると、E.S.T.のツアートラックがありました。トラックを持っているジャズバンドって凄いな、本当にロックスターみたいだな、なんて思いましたよ。

 

ということで、2000年代初頭にロックサウンドと接続し、ジャズピアノトリオシーンにおいて大きな変革をもたらした2つのバンドの紹介でした。
「現代メタルガイドブック」とともに、上記2バンドもぜひ聴いてみて下さい。

 


LIVE INFORMATION
2022年12月9日(金)東京・池袋 Apple Jump
開場/開演:19:00/19:30
出演:西山瞳トリオ 西山瞳(ピアノ)/西嶋徹(ベース)/則武諒(ドラムス)
チャージ:3,500円

​2022年12月10日(土)神奈川・横浜 上町63
開演:15:00(1st)/16:30(2nd)
出演:西山瞳(ピアノ)
チャージ:3,300円

​2022年12月11日(日)東京・小岩 COCHI
開演:20:00
出演:西山瞳(ピアノ)/小美濃悠太(ベース)
チャージ:2,800円

The Tree Of Life CD発売ライブ
​2022年12月16日(金)神奈川・横浜 Dolphy
開場/開演:18:30/19:30
出演:安ヵ川大樹(ベース)/西山瞳(ピアノ)/maiko(バイオリン)
前売り/当日:3,500円/3,800円

CD ”Hometown” 発売ライブ
​2022年12月26(月)兵庫・神戸 gallery zing
開場/開演:19:00/19:30
出演:西山瞳(ピアノ)/鈴木孝紀(クラリネット)/光岡尚紀(ベース)
チャージ/学生&アーティスト:3,000/1,500円

 

RELEASE INFORMATION

西山瞳 『ホームタウン』 MEANTONE(2022)

リリース日 :2022年11月9日(水)
品番:MT-11
価格:2,750円(税込)
紙ジャケット仕様

TRACKLIST
1. Fairy Tale フェアリー・テイル(作曲:西山瞳)
2. Take the “K” Train テイク・ザ・ケー・トレイン(作曲:西山瞳)
3. Yawn ヨーン(作曲:西山瞳)
4. Walking in the Park ウォーキング・イン・ザ・パーク(作曲:西山瞳)
5. 200km 200キロメートル(作曲:西山瞳)
6. HIRAKATA Park West ヒラカタ・パーク・ウェスト(作曲:西山瞳)
7. Our Memorial Attractions アワ・メモリアル・アトラクションズ(作曲:西山瞳)
8. Romance ロマンス(作曲:西山瞳)

録音日:2022年4月18日、奈良 NMG Studio
録音/ミックス/マスタリング:三輪卓也(NMG Studio)
アートディレクション/平岡直樹(yuu)

西山瞳(ピアノ)
鈴木孝紀(クラリネット)
光岡尚紀(ベース)

 


PROFILE: 西山瞳
79年11月17日生まれ。6歳よりクラシックピアノを学び、18歳でジャズに転向。大阪音楽大学短期大学部音楽科音楽専攻ピアノコース・ジャズクラス在学中より、演奏活動を開始する。卒業後、エンリコ・ピエラヌンツィに傾倒。2004年、自主制作アルバム『I’m Missing You』を発表。ヨーロッパジャズファンを中心に話題を呼び、5か月後には全国発売となる。2005年、〈横濱JAZZ PROMENADE ジャズ・コンペティション〉において、自身のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデンにて現地ミュージシャンとのトリオでレコーディング、『Cubium』をSpice Of Life(アミューズ)よりリリースし、デビューする。2007年には、日本人リーダーとして初めて〈ストックホルム・ジャズ・フェスティバル〉に招聘され、そのパフォーマンスが翌日現地メディアに取り上げられるなど大好評を得る。以降2枚のスウェーデン録音作品をリリース。2008年に自己のバンドで録音したアルバム『Parallax』では、スイングジャーナル誌日本ジャズ賞にノミネートされる。2010年、〈インターナショナル・ソングライティング・コンペティション〉(アメリカ)で、全世界約15,000のエントリーのなかから自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門で3位を受賞。コンポーザーとして世界的な評価を得た。2011年発表『Music In You』では、タワーレコードのジャズ総合チャートで1位、HMVの総合2位にランクイン。CDジャーナル誌2011年のベストディスクに選出されるなど、芸術作品として重厚な力作であると高い評価を得る。2014年には自身のレギュラートリオ、西山瞳トリオ・パララックス名義での2作目『Shift』を発表。好評を受け、アナログでもリリースする。2015年には、ヘヴィメタルの名曲をカバーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』をリリース。マーティ・フリードマン(ギター)、キコ・ルーレイロ(ギター)、ヤング・ギター誌などから絶賛コメントを得て、発売前よりメタル・ジャズの両面から話題になり、すべての主要CDショップでランキング1位を獲得。ジャンルを超えたベストセラーとなっている。同作は『II』(2016年)、『III』(2019年)と3部作としてシリーズ化。2019年4月には『extra edition』(2019年)もリリース。自身のプロジェクトの他に、東かおる(ボーカル)とのボーカルプロジェクト、安ヵ川大樹(ベース)とのユニット、ビッグバンドへの作品提供など、幅広く活動。〈横濱JAZZ PROMENADE〉をはじめ、全国のジャズフェスティバルやイベント、ライブハウスなどで演奏。オリジナル曲は、高い作曲能力による緻密な構成とポップさが共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。