連載

【西山瞳の鋼鉄のジャズ女】第39回 「「メタルの基本」がこの100枚でわかる!」を読んで考える、新たなメタル・ディスク・ガイドを出す意味!!

メタラーのジャズ・ピアニストによるHR/HM連載

ジャズ・ピアニストでありながらメタル・ファンとしても知られる西山瞳さんによる連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。今回は、3月26日に星海社より発売された新書「「メタルの基本」がこの100枚でわかる!」を取り上げます。ブラック・サバスからBABYMETALまで、選りすぐりの100作品からメタルの基本を理解するための本書。メタル・ファンの西山さんにはどのように映ったでしょうか……? *Mikiki編集部

★西山瞳の“鋼鉄のジャズ女”記事一覧

 


4月です。この連載も4年目のスタートとなりました。今年度もMikikiの中でヘヴィメタル圧をかけていきたいと思っております。

さて、新年度ということで、新たな勉強を始める時期。Mikiki学校唯一のメタル授業を担当しているわたくしですが、新年度の教科書はこちらです。

伊藤政則, 増田勇一, 荒金良介, 奥村裕司, 川嶋未来, 後藤寛子, 鈴木喜之, 高橋祐希, 武田砂鉄, 行川和彦, 西廣智一, 長谷川幸信, 山崎智之 『「メタルの基本」がこの100枚でわかる!』 星海社(2021)


メタルの新書ですよ、新書。

ジャズでは沢山ありましたが、メタルで新書はあまり記憶にありませんね。ブックカバーをかけてしまえばビジネス書を読んでいるように見え、通勤電車で読んでいても全く違和感なし。中には凶悪な音楽の紹介が載っているのに! メタル新規のあなたも、これでステルス・メタラーになれること間違いありません。始めましょう、メタルを!

近年のメタルのディスク・ガイドは、「デスメタルアフリカ 世界過激音楽1 暗黒大陸の暗黒音楽」、「デスメタルチャイナ 中国メタル大全」、「ブルータルデスメタルガイドブック 世界過激音楽3 世界一激しい音楽」、「プリミティヴ・ブラックメタル・ガイドブック」など、すでにメタルに詳しい人が読むための、専門的で外縁部を扱ったものが多く、これはこれで非常に充実しておりました。

しかし、これからメタルを聴く人が手に取りやすいかどうかといえば、ちょっと厳しいかもしれない。「ブルータルって何ですか!?」「何書いてるか読めないんですけど!?」という話ですよ。(※ブルータル・ロゴは本当に何書いてるか読めません)

ど真ん中・ど直球の、メタル入門ディスク・ガイドが、近年あまりなかったのですね。

 

一番最近では、2015年に「ヘドバン・スピンオフ ヘドバン的「メタルの基本」100枚」というムックが発売されていましたが、これがとても内容充実で楽しい入門書にも関わらず最近手に入らなくなっていました。

そんな今、新書「「メタルの基本」がこの100枚でわかる!」が3月に発売されたということで、とても喜ばしい事態! しかも同じ「ヘドバン」の監修ということで、もしかして元のムックの原稿を加筆修正している本なのかなと2冊を比較しながら見てみたら、文章も全て新しく書き下ろしです。この気合いがメタルですよ。メタルは使い回しなんてしない。

 

シルバーのブックカバーで一見クールに見えますが、開いて見ると、〈爆音! 轟音! 獄音!〉

獄音って何ですか!?

〈人類〉〈ホモ・サピエンス〉とルビを打ち、〈奔流〉〈バースト〉とルビを打つこのセンス……。本文は単調なモノクロページにも関わらず、序文だけでもフォントのサイズや種類、太字、斜体などの過剰な多さ。新書なのに何かどこかバランスがおかしい……? これは新書の皮を被っているけど、明らかに「ヘドバン」だ!

 

そもそも「ヘドバン」とは、2013年7月に創刊したメタル専門誌(ムック)ですが、A5版の非常に情報量の多い、というか過剰に過剰を重ねたようなムック本でして、私もメタルに戻るきっかけの一つになった本です。

現在Vol.29まで発行されていますが、私が読み出したのはVol.5あたりの時期で、Vol.8ではNHORHMのCDリリースに関してインタビューをしてもらい、ここ3年ほどはライターとして参加しています。本業はジャズ・ピアニストなのに、どうしてこうなった……。

 

それはさておき、長いメタルの歴史の中で新たに刊行されるディスク・ガイドは、歴史的名盤の数々を考えるとまた同じような選盤になりそうなものですが、今回読んでいて思ったのは、意外と選盤、書き手、文体にも時代性が出るなということでした。今、改めて出す価値がある。

新規バンドが出ることで見直された文脈も入ってくるので、その新しい流れの中で選盤も変わってきます。書き手も様々。もちろんこれはヘドバン編集だからの書き手チョイスですが、レジェンド伊藤政則氏から80年代生まれのライターさんまで、幅広いです。私も70年代後半生まれですが、メタルに出会った年代によって随分環境やメタル感が違うのはよくわかりますので、書き手の年齢の幅があると共感の幅も広がりますね。

 

私の本業はジャズ・ピアニストなので、100年の歴史のある音楽ジャンルの中で表現活動をしていますが、メタルもエンターテイメントでありながらきっちりした樹形図が見える歴史を紡ぐジャンル。技術が高い、あるいは一芸が過剰な者でないと表現できない音楽であるからこそ、その継承と更新があり、それを文章でしっかり紐解いてくれる、あるいは新たな見地を与えてくれることが定期的に必要だと思います。

歴史が長くなって改めて線で繋がって見えるものがありますから、そういう面でもテクストの更新は必要ですね。今を反映した、まさにメタルの基本と呼べるディスク・ガイドになっていると思います。

 

そして、これは個人的にですが、どんな雑誌でもメタルのディスク紹介では、ジャズのディスク・ガイドでは絶対使わないワードに着目して見てしまいます。今回も新書で、しかも書き手が複数ということで、抜き出して見てみましょう。

生き物系――筋肉、血肉、血脈、獣性、咆哮、野獣、魑魅魍魎

悪そう系――残虐、極悪、凶悪、陰鬱、獰猛、暴虐性、冷酷、殺傷力、終末感

凄そう系――炸裂、暴発、激烈、波状攻撃

野郎系――パーティ野郎、メタル野郎、お騒がせ野郎、モッシュ野郎

 

いいですねえ。

ジャズでは使わないですね! モダンジャズ野郎、スイング野郎、サックス野郎とか、そんな形容はないかなあ。

音楽に対して「聴き手の胸ぐらを掴む」とか「情け容赦ない」とかこんな形容の仕方があるのかと、メタル流儀の文章は本当に楽しいし、音の見せ方が面白い。

「リリカルで叙情的な」とかジャズで使い古された全く考えていないような形容詞で紹介されることも多いのですが、「私、実は、獰猛で激烈な殺傷力のある音楽が好きなんですよ!!!(圧) Go to hell!!」と思うメタル脳も同居している人間なので、何とかジャズでも使えそうなメタル圧の感じるワードはないものかと、いつもワード探しをしてしまいます。

 

この新書、なんとKindle版はそのままAmazonミュージックにリンクして聴くことができるという、メタル臨戦態勢となっています。紙の書籍も、巻末にサブスクリプション・サービスのプレイリストのQRコードが掲載されていて、非常に便利な親切設計となっています。

ということで、星海社新書「「メタルの基本」がこの100枚でわかる!」は、メタル入門に最適な教科書であり、すでにメタル古参の方も2021年現在の新たなテクストを脳髄に流し込み、我が身の血肉とする乾坤一擲の一冊となっております(過剰)。

はい、教科書は今日買って帰って下さいね〜。

 


西山瞳LIVE INFORMATION

5月1日(土・昼)15:00~ YouTubeチャンネルにてライブ配信予定
西山瞳ソロ

5月3日(月・祝)大阪・Royal Horse(電話06-6312-8958)
Hitomi Nishiyama Trio “Parallax”(西山 瞳、坂崎拓也(ベース)、清水勇博(ドラムス))
開場:17:00/1st:18:00~/2nd:19:00~
料金:SS 3,500円、S 3,000円、A 2,500円、バーカウンター 1,500円

5月4日(火・祝)高槻ジャズストリート

5月8日(土・昼)東京・成城学園前Cafe Beulmans(電話03-3484-0047)
The Tree Of Life(西山瞳、安ヵ川大樹(ベース)、maiko(ヴァイオリン)

5月15日(土・昼)埼玉・蕨Our Delight(電話048-446-6680)
西山瞳ソロ

※新型コロナウイルス感染防止対策のため、直前の中止、時間の変更や、人数制限がある場合があります。お出かけの際は、最新情報をご確認下さい。
詳細はhttp://hitominishiyama.net/

 

RELEASE INFORMATION

東かおる、西山瞳『フェイシス』発売中!
2013年作『Travels』に続く、東かおる(ヴォーカル)・西山瞳(ピアノ)共同名義作品の2作目がリリース決定。前作同様、市野元彦(ギター)、橋爪亮督(サックス)、西嶋徹(ベース)という、日本のコンテンポラリー・ジャズ・シーンの最重要メンバーで録音。詳細はこちら

東かおる,西山瞳 『フェイシス』 MEANTONE RECORDS(2020)

東かおる、西山瞳『フェイシス』トレイラー動画
 

PROFILE:西山瞳

1979年11月17日生まれ。6歳よりクラシック・ピアノを学び、18歳でジャズに転向。大阪音楽大学短期大学部音楽科音楽専攻ピアノコース・ジャズクラス在学中より、演奏活動を開始する。卒業後、エンリコ・ピエラヌンツィに傾倒。2004年、自主制作アルバム『I'm Missing You』を発表。ヨーロッパ・ジャズ・ファンを中心に話題を呼び、5か月後には全国発売となる。2005年、横濱ジャズ・プロムナード・ジャズ・コンペティションにおいて、自己のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデンにて現地ミュージシャンとのトリオでレコーディング、『Cubium』をSpice Of Life(アミューズ)よりリリースし、デビューする。2007年には、日本人リーダーとして初めてストックホルム・ジャズ・フェスティバルに招聘され、そのパフォーマンスが翌日現地メディアに取り上げられるなど大好評を得る。

以降2枚のスウェーデン録音作品をリリース。2008年に自己のバンドで録音したアルバム『parallax』では、スイングジャーナル誌日本ジャズ賞にノミネートされる。2010年、インターナショナル・ソングライティング・コンペティション(アメリカ)で、全世界約15,000エントリーの中から自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門で3位を受賞。コンポーザーとして世界的な評価を得た。2011年発表『Music In You』では、タワーレコード・ジャズ総合チャート1位、HMV総合2位にランクイン。CDジャーナル誌2011年のベストディスクに選出されるなど、芸術作品として重厚な力作であると高い評価を得る。2014年には自己のレギュラー・トリオ、西山瞳トリオ・パララックス名義での2作目『シフト』を発表。好評を受け、アナログでもリリースする。2015年には、ヘヴィメタルの名曲をカヴァーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』をリリース。マーティ・フリードマン(ギター)、キコ・ルーレイロ(ギター)、YOUNG GUITAR誌などから絶賛コメントを得て、発売前よりメタル・ジャズ両面から話題になり、すべての主要CDショップでランキング1位を獲得。ジャンルを超えたベストセラーとなっている。同作は『II』(2016年)、『III』(2019年)と3部作としてシリーズ化。2019年4月には『extra edition』(2019年)もリリース。

自己のプロジェクトの他に、東かおる(ヴォーカル)とのヴォーカル・プロジェクト、安ヵ川大樹(ベース)とのユニット、ビッグ・バンドへの作品提供など、幅広く活動。横濱ジャズ・プロムナードをはじめ、全国のジャズ・フェスティヴァルやイヴェント、ライヴハウスなどで演奏。オリジナル曲は、高い作曲能力による緻密な構成とポップさの共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。

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