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男心を代弁し、女心を汲み取る

 プロデューサー/ソングライターとしてのブレイクが訪れたのは、ディールと同じソーラーから86年に『Lovers』でソロ・デビューした直後。LAリードと共作/プロデュースしたウィスパーズ“Rock Steady”やペブルス“Girlfriend”といったソリッドなダンス・ナンバーが87年に大ヒットしたこともあってLA&フェイス組へのオファーが急増し、以降もキャリン・ホワイトの“Superwoman”(88年)やフェイスの兄たちが組んだアフター7“Ready Or Not”などが彼らの制作によってヒットする。ボビー・ブラウンの『Don’t Be Cruel』(88年)やジョニー・ギルのセルフ・タイトル作(90年)でそれぞれ制作を分け合ったテディ・ライリー、ジャム&ルイスとは、ニュー・ジャック・スウィング期におけるR&Bプロデューサー御三家として時代の寵児となった。

 そうした中で89年にLAリードとスタートさせたのがラフェイスである。TLC、アッシャー、アウトキャスト、ドネル・ジョーンズ、ピンクなどを送り出したアトランタ拠点のレーベルだ。特に同社発のサントラ『Boomerang』(92年)は、長らく関係が続くことになるトニ・ブラクストンをお披露目したうえ、ボーイズIIメン“End Of The Road”のロング・ヒットも生み、裏方としての初期フェイスのピークを示す作品となった。

 シンガーとしてのブレイクスルーとなったソロ2作目『Tender Lover』(89年)が出たのもラフェイスの設立年だった。今回の『Girls Night Out』からもその断片が聴こえてくる“Whip Appeal”や“Soon As I Get Home”も同作に収録。2015年に発表した『Return Of The Tender Lover』が、そのセルフ・オマージュであったことは言うまでもない。こうしてキャリアを振り返ると、Aメロ/Bメロ/サビから大サビにまで展開するフェイスらしいドラマティックな曲のスタイルが完全に確立されたのは89年だったと言えるかもしれない。

 ソロ・デビュー作でスタイリスティックスの“You Make Me Feel Brand New”をカヴァーしたフェイスは、原曲の作曲家であるトム・ベル、作詞家であるリンダ・クリード双方の甘美なセンスを備えていた。リリックにおいては、ナイーヴな男の気持ちを代弁しながら女性の気持ちを汲み取るのも実に巧い。「ため息つかせて」のサントラでメアリーJ・ブライジが歌った“Not Gon’ Cry”では、〈あなたのために年月を無駄にしたけど、私は泣かない。泣く価値すらない恋よ〉というフレーズが女性を中心に多くの人の共感を呼んだが、それもフェイスが書いたものだ。また、トニ・ブラクストンの“You’re Makin’ Me High”(96年)では女性の自慰にまで踏み込んでいる。

 こうした女心の描写は、92年に夫人となったトレイシー・マクワーンとの結婚生活などからインスパイアされた部分もあるのだろう。ソロ3作目『For The Cool In You』(93年)がフォーキーで内省的な作品になったのも彼女の影響が大きいとされた。今回の新作『Girls Night Out』も、現在の公私にわたるパートナー、リカ・ティッシェンドルフ(ドイツ人モデル)がコンセプトを発案したもの。甘いマスクで女性を魅了しながら女性の掌で転がされてみることで創造意欲を喚起され、第一線を歩み続けてきたのがフェイスだったと言っていい。 *林 剛

ベイビーフェイスの参加作を一部紹介。
左から、ミッドナイト・スターの83年作『No Parking On The Dance Floor』(Solar)、マドンナの94年作『Bed Time Stories』(Sire)、エリック・クラプトンのベスト盤『Forever Man』(Reprise)、95年のサントラ『Waiting To Exhale』(Arista)

左から、シルク・ソニックの2021年作『An Evening With Silk Sonic』(Aftermath/Atlantic)、King & Princeの2021年作『Re:Sense』(Johnnys’ Universe)、アリアナ・グランデの2014年作『Yours Truly』(Republic)、ベイビーフェイスの2015年作『Return Of The Tender Lover』(Def Jam)