Page 2 / 2 1ページ目から読む

 さらに鈴木はキーワードとして「自由意志」を挙げる。

「今回の1番のキーワードになるのではないかと思っているのは〈自由意志〉です。モームは人生を回顧した別の著作の中でも、果たして自分が本当に自由な行為者なのか問うています。彼の問いは、トムソンに対してもデイヴィッドソンに対しても、ある種の憧れのようなものとして表れている。この2人のキャラクターはとても主体的で〈自分はこうだ〉という我を強く持っているんですね。モーム自身は最終的に決定論者的な結論に辿り着いているんですが、それでも彼の言葉からは自由意志みたいなものに微かな希望を感じさせるところがある。そこはすごく魅力的だと思っています」(鈴木)

大巻伸嗣
©paul barbera where they create

evala
©Susumu Kunisaki

 舞台美術を手がける大巻伸嗣について、鈴木は「今回の舞台美術の原案となっている大巻さんの『Liminal Air - Black Weight』(2012)は、影の質量に形を与えて具現化するという作品なんです。湿気や目に見えないものを表現するという意味では、今回の上演でやろうとしていることにぴったり合致していると思っています」と語る。さらに今回サウンドを担当するのが、空間音響アルバム『聴象発景 in Rittor Base – HPL ver』(2021)でプリ・アルスエレクトロニカDigital Musics & Sound Art部門の栄誉賞を受賞したことも記憶に新しいevalaだ。『Rain』で初めてevalaとコラボレートする鈴木はこう語る。

 「今回は大巻さんの舞台美術も大がかりなので、単純にそこで起きているシーンを説明するような音楽を作ったり、キャラクターの心情を表すメロディを流したりすることよりも、空間をどういう風に組み立てていくかを考えてくれる人に依頼したいと思っていました。そこでやはりevalaさんという、空間としての音楽、あるいは音響のデザインを志向している方の力が必要だと考えたんです」

 それぞれのジャンルで高い専門性を備えたメンバーが相互にアイデアを出し合って創作することによって、今も有機的に変化していっているという『Rain』。様々な意味で困難な時代にあって、ダンスという人間の根源的な身体性がどのような空間表現として提示されることになるのか楽しみだ。

 


INFORMATION
愛知県芸術劇場 × Dance Base Yokohama[DaBYダンスプロジェクト]
鈴木竜 × 大巻伸嗣 × evala『Rain』

2023年3月11日(土)・12(日)愛知・名古屋 愛知県芸術劇場 小ホール
開演:14:00
演出・振付:鈴木竜 (Dance Base Yokohama)
美術:大巻伸嗣
音楽:evala
出演:米沢唯(新国立バレエ団プリンシパル)
吉﨑裕哉/木ノ内乃々、土本花、戸田祈、畠中真濃、牧野李砂、Ikuma Murakami(以上DaBYレジデンスダンサー)

チケット:全席自由(税込)
一般:5,000円
U25:3,000 円
※U25は公演日に25歳以下対象(要証明書)
※3歳以下入場不可。託児サービスあり
(3月12日(日)のみ/有料・要予約・対象:満1歳以上の未就学児)
※やむを得ない事情により、内容、出演者等が変更になる場合があります

主催・企画・共同製作:愛知県芸術劇場、Dance Base Yokohama
お問い合わせ:
Dance Base Yokohama
E-mail:contact@dancebase.yokohama
https://dancebase.yokohama/

愛知県芸術劇場
TEL:052-211-7552(10:00~18:00)
FAX:052-971-5541
E-mail:contact @aaf.or.jp
https://www-stage.aac.pref.aichi.jp/