M1“さらば世界”。イントロ最初の一音から、匂い立つクラシックロックの香り。なんて芳醇な音でしょう。人生が特濃で詰まってる音ですよ。こういう〈体験していない歴史を体験させてくれるような音〉を出してくれるバンドが、人間椅子です。
2番が終わってからの展開がとても好きです。歌詞も、憂うだけじゃなく、大人として先を見せる。若い表現者だったら、こうはならないんじゃないかなと思います。大人の指し示すべきことを、1曲目から提示してくれたように感じました。
前作『苦楽』(2021年)収録の“神々の行進”から繋がるM2“神々の決戦”を挟み、M3“生きる”まで聴いて、ああ、自分が心動かされているのは、生命力の美しさなんだなと気づきました。ストレートな歌、ストレートなメッセージ、サビで合唱、当たり前のストレートさが、なんだかとても尊い。
一度どこかで聴いたことのあるようなリフが多いと思いますが、その当たり前の要素でこれだけ訴えかけられるって、凄いことですよ。当たり前のシンプルなことこそ一番難しいのは、ジャンルは違えど同じミュージシャンとして、毎日感じているところです。クラシックロックのリフと精神性が血肉と化しているからこそ、同じことの繰り返しが強度を持ち、心に直撃する。
M4“悪魔一族”も、同じくどの部分のアイデアもリフもキャッチーなのですが、全然ダレないのは、組み合わせとタイミングのセンス。最近聴く一般的なバンドのブレイクダウンは意外と定型化しているなと思う時があるのですが、この“悪魔一族”を聴いていると、大量のロックを聴いてきて育てられた、ロックの歴史の上に成り立っているセンスなんだろうなと、歴史に学んだ厚みを感じますよね。
M5“狂気人間”は、ヘヴィなサウンドでありながら、童謡なみに簡潔明快。すぐ歌えてしまう、あまりにも親しみやすいメロディ。このバランスが見事です。この人懐っこさと対照的に、間奏になったらブラック・サバス系のおどろおどろしさ。単純な曲なのにギターソロもフィールが変わるので全く飽きずあっという間に曲が終わってしまう。ライブでは絶対盛り上がる一曲ですね。
M6“人間の証明”。このミドルテンポでベタベタと這いつくばるようなベース、これが好き。地べたを這って生きる生々しさ、リアルな人間がそこにいる感じ。怨念みたいなもの、情念みたいなものも、人間椅子のサウンドの大好きなところです。
M7“宇宙電撃隊”は、架空の戦隊もののテーマソングのようですが、サビの最後の〈宇宙〜電撃隊!〉の後ろのドラムがもうツボで、何回も聴いてしまいます。これこれ!っていう。
怒りの高速チューンM9“未来からの脱出”、これはナカジマノブさんが歌うしかない、エネルギーの高い曲。歌詞はディストピアというか、今の日本の話ですよね。もうこの、(良い意味で)おじさんにしか出せないエネルギーがやばいです。おじさんって、かっこいいんだぜ。
この曲の後に、悪行を犯した人間にお迎えがくるぞ!と歌う、M10“地獄大鉄道”。それぞれの曲単体も素晴らしいのですが、2曲が並んだ時に聴き手が受け取るものが増幅してしまう、この並びで出してくるのが、超格好良いですね。
M11“星空の導き”、M12“蛞蝓体操”、M13“死出の旅路の物語”の後半3曲のドラマは、圧巻です。
人間椅子を聴いたことない方には、M12“蛞蝓体操”から聴くことをお勧めしたい。この重心の低さとアングラな雰囲気。後半の読経風の歌唱も唯一無二。格好良い。
アルバムを締めるM13“死出の旅路の物語”は、このアルバム『色即是空』を名盤に押し上げる、とんでもない曲です。アルバムをここまで聴いてきて、総括というか、エンドロールというか、アルバムの到達点というか。全部聴いてここにたどり着いた時に、そのメッセージが物語として入ってきて、明日から頑張って生きねばと思います。
随分前に読んだアート関係の本に、アーティストたるには3つの気概が必要だと書いてありました。その3つとは、〈歴史に向き合う〉〈時代に向き合う〉〈表現し続ける〉というような内容でした。
『色即是空』を聴いて、まさにそれをストロングにやっているのが人間椅子なのだと、かつて読んだ本を思い出したところです。
『色即是空』、必聴です。
RELEASE INFORMATION
■人間椅子

リリース日:2023年9月6日(水)
■初回限定盤
品番:TKCA-75172
価格:3,700円(税込)
■通常盤
品番:TKCA-75173
価格:3,000円(税込)
TRACKLIST
CD
1. さらば世界
2. 神々の決戦
3. 生きる
4. 悪魔一族
5. 狂気人間
6. 人間の証明
7. 宇宙電撃隊
8. 宇宙の人ワンダラー
9. 未来からの脱出
10. 地獄大鉄道
11. 星空の導き
12. 蛞蝓体操
13. 死出の旅路の物語
TRACKLIST
DVD(※初回限定盤のみ)
人間椅子2022秋のワンマンツアー~闇に蠢く~
2022年9月19日(祝/月)[東京]EX THEATER ROPPONGI
1. 侵略者
2. 表徴の帝国
3. 宇宙海賊
4. 無情のスキャット
5. 蜘蛛の糸
6. 地獄の料理人
7. 宇宙からの色
LIVE INFORMATION
■西山瞳
2023年9月23日(土)東京・池袋 Apple Jump
開場/開演/終演:13:30/14:00/16:30 ※2セット
出演:西山瞳(ピアノ)/牧山純子(バイオリン)
チャージ:3,200円
http://applejump.net/
2023年9月24日(日)埼玉・蕨 Our Delight
開場/開演:13:00/13:30 ※2セット、入替なし
出演:maiko(バイオリン)/西山瞳(ピアノ)
一般/29歳以下の本業学生/29歳以下の社会人/3,600円/1,100円/2,600円(いずれも税込/ドリンク代別)
http://ourdelight.blog.jp/
2023年9月30日(土)YouTube配信ライブ
開演:19:00(予定)
https://www.youtube.com/@hnofficialm
2023年10月7日(土)、8日(日)岡山 おかやまジャズストリート
出演:橋爪亮督(テナーサックス)/西山瞳(ピアノ)
https://jazzokayama.com/
ファツィオリジャパン15周年記念コンサート -ジャズの祭典-
2023年10月9日(月・祝)東京・豊洲文化センター シビックセンターホール
開場/開演:16:00/16:30
出演:西山瞳(ピアノ)/maiko(バイオリン)/西嶋徹(コントラバス)/松本峰明(ピアノ)/三塚幸彦(尺八)/岸ミツアキ(ピアノ)/マーク・トゥリアン(ベース)/平田晃一(ギター)
一般/学生/車椅子席:4,000円/2,500円/1,000円(いずれも全席自由)
https://fazioli.co.jp/news/2023/07/%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%82%BA%E3%81%AE%E7%A5%AD%E5%85%B8.html
★詳細やその他のライブについては西山瞳のオフィシャルサイトへ
RELEASE INFORMATION
■西山瞳
リリース日:2023年11月22日(水)
品番:MT-12
価格:3,190円(税込)
TRACKLIST
1. Turtledove タートルダブ
2. Dot ドット
3. The Rider ザ・ライダー
4. To Return トゥ・リターン
5. Tidal タイダル
6. Red and Yellow レッド・アンド・イエロー
7. Pigeons ピジョンズ
8. Baroness バロネス
9. Lighthouse ライトハウス
(全曲 西山瞳作曲)
■メンバー
西山瞳 ピアノ、作曲 Hitomi Nishiyama piano,compose
西嶋徹 ベース Toru Nishijima bass
則武諒 ドラムス Ryo Noritake drums
鈴木孝紀 クラリネット Takanori Suzuki clarinet (on 2, 3, 5, 6, 9)
橋爪亮督 テナーサックス、フルート Ryosuke Hashizume tenor sax,flute (on 2, 3, 5, 6, 9)
maiko バイオリン maiko violin (on 2, 3, 5, 6, 9)
2023年7月12-14日 群馬県高崎市 TAGO STUDIO TAKASAKIにて録音
録音、ミックス、マスタリング:松下真也(Piccolo Audio Works)
FAZIOLI F278使用 ピアノ技術:越智晃(Fazioli Japan Co., Ltd.) アートディレクション:平岡直樹(yuu)

PROFILE: 西山瞳
79年11月17日生まれ。6歳よりクラシックピアノを学び、18歳でジャズに転向。大阪音楽大学短期大学部音楽科音楽専攻ピアノコース・ジャズクラス在学中より、演奏活動を開始する。卒業後、エンリコ・ピエラヌンツィに傾倒。2004年、自主制作アルバム『I’m Missing You』を発表。ヨーロッパジャズファンを中心に話題を呼び、5か月後には全国発売となる。2005年、〈横濱JAZZ PROMENADE ジャズ・コンペティション〉において、自身のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデンにて現地ミュージシャンとのトリオでレコーディング、『Cubium』をSpice Of Life(アミューズ)よりリリースし、デビューする。2007年には、日本人リーダーとして初めて〈ストックホルム・ジャズ・フェスティバル〉に招聘され、そのパフォーマンスが翌日現地メディアに取り上げられるなど大好評を得る。以降2枚のスウェーデン録音作品をリリース。2008年に自己のバンドで録音したアルバム『Parallax』では、スイングジャーナル誌日本ジャズ賞にノミネートされる。2010年、〈インターナショナル・ソングライティング・コンペティション〉(アメリカ)で、全世界約15,000のエントリーのなかから自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門で3位を受賞。コンポーザーとして世界的な評価を得た。2011年発表『Music In You』では、タワーレコードのジャズ総合チャートで1位、HMVの総合2位にランクイン。CDジャーナル誌2011年のベストディスクに選出されるなど、芸術作品として重厚な力作であると高い評価を得る。2014年には自身のレギュラートリオ、西山瞳トリオ・パララックス名義での2作目『Shift』を発表。好評を受け、アナログでもリリースする。2015年には、ヘヴィメタルの名曲をカバーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』をリリース。マーティ・フリードマン(ギター)、キコ・ルーレイロ(ギター)、ヤング・ギター誌などから絶賛コメントを得て、発売前よりメタル・ジャズの両面から話題になり、すべての主要CDショップでランキング1位を獲得。ジャンルを超えたベストセラーとなっている。同作は『II』(2016年)、『III』(2019年)と3部作としてシリーズ化。2019年4月には『extra edition』(2019年)もリリース。自身のプロジェクトの他に、東かおる(ボーカル)とのボーカルプロジェクト、安ヵ川大樹(ベース)とのユニット、ビッグバンドへの作品提供など、幅広く活動。〈横濱JAZZ PROMENADE〉をはじめ、全国のジャズフェスティバルやイベント、ライブハウスなどで演奏。オリジナル曲は、高い作曲能力による緻密な構成とポップさが共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。