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飛んでいるのか、それとも落ちているのか――賞賛を浴びたデビューから5年、夢が叶った街を離れて自身の本質に立ち返った彼女は、繊細かつ大胆な己の感性に従って2枚目の傑作を完成した!

ロンドンは空が見えなかった

 言うなれば〈Uターン型〉、かつ〈地域密着型〉とも呼べるのだろうか。鳴り物入りでデビューして大ブレイクしたミュージシャンの待ちに待ったセカンド・アルバムには、あまり似つかわしくない言葉なのかもしれない。しかし音楽の都でのグラマラスな生活にも華々しい功績にもさして心を動かされず、「私はただ前進し続けたいだけ」と、LAやNYに滞在して世界的な売れっ子プロデューサーたちと共作して新作を作るというようなわかりやすい展開に逆らったのが、我らがジョルジャ・スミスである。思えば彼女は、独自のレーベル=FAMMから全作品を発表するまぎれもないインディペンデント・アーティストであるからして、我が道を歩むのも不思議ではないのだろうが、5年の空白を経て送り出す『falling or flying』は、そのUターン&地域密着のアプローチが申し分ない結果をもたらした、期待に応えて余りある作品だ。

JORJA SMITH 『falling or flying』 FAMM(2023)

 英国のバーミンガムに近い小さな町ウォルソール(人口約7万人)で生まれ育ち、ミュージシャンだった父の影響もあってピアノを学び、曲を作って歌うことに10代前半の頃から夢中だったジョルジャ。18歳の時にロンドンに移り住んで音楽活動を本格化させた彼女は、2016年にシングル“Blue Lights”でデビューを果たし、たちまちUKソウルの新星として脚光を浴びる。そしてさらに2年後、BBCの〈Sound Of 2017〉の4位にランクイン、ドレイクやケンドリック・ラマーとのコラボ、2018年ブリット賞のクリティックス・チョイス(アルバム発表前の期待の新人に贈られる賞)受賞の追い風に乗って、ファースト・アルバム『Lost & Found』を発表(全英チャート最高3位)。堂々2019年ブリット賞の〈国内女性アーティスト〉部門に輝いたほか、第61回グラミー賞の新人賞とマーキュリー・プライズにノミネートされている。

 その後もジョルジャは世界各地のアーティストとの共演などで話題を提供し続けるのだが(以下紹介ページ参照)、前述した通りロンドンでは生きづらさを感じ、故郷に戻ることを決心。のちに選んだ『falling or flying』というアルバム・タイトルにも、「自分が飛んでいる(flying)のか転落している(falling)のか判断がつかなかった」当時の心境を投影することになる。

 「故郷は心が宿る場所であり、自分らしくいられるし、不安を感じなくてもいい――と言うか、私は心配性ではあるんだけど、心配事が減ったことは確か。ロンドンでは夢が叶いました。視野が広がったし、素晴らしい機会を与えてもらったけど、私にはトゥーマッチだった。常に張り詰めていて心に余裕がなかった。それはきっと、空が見えなかったせいなんだと思うんです」。