ジャズピアニストの西山瞳さんが愛するメタルについての連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。2024年もどうぞよろしくお願いいたします。今回は、今年9月の開催にもかかわらず昨年の情報解禁時から話題になっているアイアン・メイデンの来日公演について。西山さんのメイデン愛が炸裂し、〈アイアン・メイデンって?〉という方の入門にも〈来日が楽しみで仕方ない!〉というファンのライブの予習にも最適な記事になりました。 *Mikiki編集部

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2024年、明けて少し日が経ちましたが、今年もよろしくお願いいたします。

2018年に始めたこの連載ですが、おかげさまで沢山の方にご覧頂き、長く続けさせてもらっていて、感謝しております。今年も、時折気持ちが高まって変なテンションで書いたりすると思いますが、よろしくお願いいたします。

 

さて、今年の楽しみなことといえば、何はともあれ、9月のアイアン・メイデンの来日。

これがあるから、生きていける。

 

私のメタル原点は90年代、大阪(あともう一つ言えば、枚方市にあるTSUTAYA 1号店。これはいつかの機会に)。ということで、大阪城ホールで見たいので、大阪公演のチケットを取りました。関東は早々に売り切れていましたが、神奈川での追加公演も発表されたばかりです。

これまで体験したベストライブを挙げるとしたら、

ノーマ・ウィンストン@ピットイン(ジャズシンガー)
アンドラーシュ・シフ@サントリーホール(クラシックピアニスト)
エンリコ・ピエラヌンツィ@横浜赤レンガ倉庫ホール(ジャズピアニスト)
アイアン・メイデン@両国国技館

以上は、必ず挙げています。

並びが滅茶苦茶ですが、とにかくアイアン・メイデンのライブの初参加は強烈な体験で、これは今後来日のたびに、万難を排して絶対ライブに行かないといけないやつ……!と、使命感のようなものすら芽生えました。

どんなジャンルでも、CDはパフォーマンスの最低ラインだと思っていますが、ライブに行ってこそ真価がわかるというのは、まさにアイアン・メイデンのためにあるような言葉。両国国技館で見たライブの感動が忘れられず、心に残る余韻は絶大なものでした。バンドと一緒に世界中をツアーするファンが多いのも納得です。

2020年にも来日予定で、そちらもチケットを確保して待っていたのですが、コロナ禍でキャンセル。でも、落ち着いたらいつか絶対来てくれると思っていました。

 

アイアン・メイデンは、いわずもがな、ヘヴィメタルというジャンルを作った開祖のバンドの一つです。

何が良いかって、ハートの熱さですよ。

楽器の技術や理論がどうとか、細かい御託や、わかった気になっている人間を、片っ端から全てぶっとばす気持ちの熱さ。これはこう演奏したい、こういう世界を作りたい、これを伝えたい、という意志のあまりの強靭さ。音楽の初期衝動としてとても大事な精神的なもの、ピュアなエネルギーに触れることができるのです。

なんだか言っていることが抽象的で精神論みたいですが、でも、全然別ジャンルの音楽をやっているプレイヤーの私でも、そう感じるんですもの。凄いんですよ、メイデンは!

 

最初のアルバム『Iron Maiden』(80年)は、〈ヘヴィメタルの歴史的に絶対聴いておかないといけない3枚〉という記事で触れましたが、ヘヴィメタルという音楽は、強固な美学、世界観がないといけない、己の信念を貫くものなのだと指し示した、最初の1枚だと思います。

IRON MAIDEN 『Iron Maiden』 EMI(1980)

正直なところ高校生だった90年代に聴いた時は、全然ピンときていなかったんですよ。今だから言えますが、舐め腐ってました!

当時、パンテラの『脳殺』(94年)やメタリカの『ブラック・アルバム』(91年)の音が自分の中で標準の音だったので、80年代の音はかなりチープに聞こえたところがあったんだと思います。だから、90年代の作品はめちゃめちゃ良いし大好きなのに、メタリカの『メタル・マスター』(86年)もこの『Iron Maiden』も、聴いても全然入ってこなかった。

大人になって聴いたら、耳の練度が上がったのか、時代的なものを補完して聴くのか、このアルバムの生命力と〈俺たちが時代を切り開いている!〉という自覚に満ちた演奏が、ビシビシ突き刺さってくるんですよね。当時、高校生の分際で、舐めてて本当にすみませんでした。

 

そして『Powerslave』(86年)。

IRON MAIDEN 『Powerslave』 EMI(1984)

このアルバムについて、連載ではドラマーの江藤良人さんのインタビューでお話しいただきましたので、ぜひそちらも読んで頂きたいのですが、このインストの時間の長さ。ボーカルもいるバンドでこれほどインストに比重を置いて、全員一致で音楽全体を高めていく、非常に張り詰めた大作です。バンドが一つの方向に向かって上り詰めていく一体感が、本当に気持ち良い。一人でも欠けたらダメなんだろうなと、バンドの結束力の美しさを感じます。聴いていると、ずっと闘魂注入されていく感じ。ツインギターの高揚感もたまらないです。

プログレッシブな曲が多く、推し曲が選べないぐらい全部好きですが、なかでも“Powerslave”から最後の“Rime Of The Ancient Mariner”の流れは、毎回聴くたびに寒気がします。

加えて、邦題が最高に格好良い。“撃墜王の孤独(Aces High)”とか、天才だと思います。

 

そして、私が世代的にどんぴしゃで一番よく聴いたのが『Fear Of The Dark』(92年)。

IRON MAIDEN 『Fear Of The Dark』 EMI(1992)

90年代の名盤ですね。いつでもクライマックスで、伝説に立ち会っているかのような気分になる。

そして、このアルバムは、メロディの良い曲がいっぱいあるんですよ。

NHORHMでカバーしたのは“Fear Of The Dark”。私がよく聴いていたということもありますが、とりわけメロディが綺麗で、ピアノで弾いても全然埋もれないし、どういう形で演奏してもこのメロディの強さは普遍的だなと思いました。

実はNHORHMプロジェクトの最初の時期に、アイアン・メイデンだと“The Trooper”か“Aces High”を演奏するべきだろうかと思って、そちらもアウトラインの採譜をして検討していたことがあったのですが、“The Trooper”はあの有名なリフをピアノで弾くとぺらっぺらになってしまって、これは絶対ダメだ、完コピはできてもジャズ的に広がらないし、真剣に向き合っているように聞こえないと思って、却下(笑)。“Aces High”の方は、メロディに大きな変化がないのと、ブルース・ディッキンソンの歌唱の力が大きすぎるので、こちらもピアノで弾いても曲の良い成分は残らないなと判断して、候補から早々に外した経緯があります。

“Fear Of The Dark”は、どこからどう切り取ってもメイデンらしさが残るし、かつメロディもポップで強度があって、今も時々ジャズクラブでのセッションライブで演奏することがありますが、アイアン・メイデンを全く知らないジャズファンからも「良い曲ですね」と言われることが多いんですよ。

 

最新のアルバムは、『Senjutsu』(2021年)。

IRON MAIDEN 『Senjutsu』 Parlophone/ワーナー(2021)

今年のツアーは勿論こちらを予習して行った方が良いと思いますが、全体的にミドルテンポの長い曲が多くて、最初はその雰囲気の重さから丸々通して聴けず、1曲ずつ聴いていましたね。歴史の語り部のような荘厳なナンバーが続きます。

 

アイアン・メイデンの音楽を形容するのに〈ハートの熱さ〉なんて、音楽家として何かもっと他の具体的な言葉があるだろ、と、自分でも思いますよ。

しかし以前、もう亡くなられたジャズの大先輩が、「音楽は全て、愛と勇気だよ」とおっしゃっていたのが印象深いのですが、愛と勇気のない瞬間が1ミリもないのが、アイアン・メイデンだと思うんですよね。

意外と、愛と勇気って難しいんですよ。

演奏中、自分のことで必死になっちゃって、共演者やリスナーなど他人を思いやることを忘れてしまうし、格好良くありたいから間違いたくないし、どこか恐怖心やガードする心も出てきてしまう。

 

アイアン・メイデンのことが好きなファンって、〈絶対にファンのことを考えてくれている〉というバンドへの強固な信頼がありますよね。

それは、音楽やライブパフォーマンスの隅々に、何をどう伝えたいか、どういうビジョンを伝えたいかの思いやり=愛と、それらを100%以上の勇気をもって実践・体現するさまを、常にライブで見せてくれているからだと思うんです。

私自身も、ライブに行ってみると想像の何万倍も素晴らしくて、その一回で心が燃え上がるものがありました。私の心の奥底にいる内なる私が、アイアン・メイデンのライブを渇望している!

本当に、9月が待ち遠しいです。

 


LIVE INFORMATION
■IRON MAIDEN
IRON MAIDEN THE FUTURE PAST WORLD TOUR 2024

2024年9月22日(日)愛知・スカイホール豊田
開場/開演:17:00/18:00
アリーナ前方スタンディング:30,000円(税込/ブロック指定)
指定席:18,000円(税込)
お問い合わせ(キョードー東海):052-972-7466

2024年9月24日(火)大阪・大阪城ホール
開場/開演:18:00/19:00
アリーナ前方スタンディング:30,000円(税込/ブロック指定)
指定席:18,000円(税込)
お問い合わせ(キョードーインフォメーション):0570-200-888

2024年9月26日(木)東京・有明 東京ガーデンシアター ※SOLD OUT
開場/開演:18:30/19:30
お問い合わせ(クリエイティブマン):03-3499-6669

2024年9月28日(土)神奈川・横浜 ぴあアリーナMM ※SOLD OUT
開場/開演:17:00/18:00
お問い合わせ(クリエイティブマン):03-3499-6669

2024年9月29日(日)神奈川・ぴあアリーナMM ※追加公演
開場/開演:16:00/17:00
アリーナ前方スタンディング:30,000円(税込/ブロック指定)
指定席:18,000円(税込)
お問い合わせ(クリエイティブマン):03-3499-6669
チケット一般発売日:2024年3月9日(土)〜

※公演の延期、中止以外での払い戻しはいたしません
※未就学児(6歳未満)のご入場はお断りいたします

企画・制作:クリエイティブマンプロダクション
協力:ワーナーミュージック・ジャパン

公演オフィシャルサイト:https://www.creativeman.co.jp/artist/2024/09ironmaiden/

 

INFORMATION
■西山瞳
2024年1月27日(土)東京・池袋 Apple Jump
出演:西山瞳(ピアノ)/小美濃悠太(ベース)/秋元修(ドラムス)
開場/開演/終演:13:30/14:00/16:30(予定)
チャージ:3,200円

2024年1月28日(日)東京・小岩 COCHI
開演:20:00 ※2セット
出演:西山瞳(ピアノ)/馬場孝喜(ギター)
チャージ:2,800円

2024年2月9日(金)東京・池袋 Apple Jump
開場/開演/終演:19:00/19:30/22:00(予定) ※2セット
出演:西山瞳(ピアノ)/鈴木直人(ギター)
チャージ:3,000円

2024年2月10日(土)神奈川・横浜 上町63
開場/開演:19:00/19:30(1st)/21:00(2nd) ※2セット
出演:西山瞳(ピアノ)
チャージ/学生:3,300円(要1 Drink Order)/2,750円(1 Drink付き/要学生証提示)

平日の贈り物♪ランチタイムコンサート Vol.49
西山瞳&橋爪亮督ジャズ・コンサート

2024年2月16日(金)栃木・宇都宮 栃木県総合文化センター サブホール
出演:西山瞳(ピアノ)/橋爪亮督(テナーサックス)
開場/開演:11:30/12:00
入場方法:1,000円(全席自由)
栃木県総合文化センタープレイガイド:028-643-1013

西山瞳 × maiko DUO TOUR
2024年2月22日(木)Livehouse Bird
開場/開演:19:30/20:00
出演:西山瞳(ピアノ)/maiko(バイオリン)
前売り/学生:3,500円/2,500円(当日それぞれ500円up)

2024年2月23日(金)兵庫・神戸 gallery zing
開場/開演:19:00/19:30
出演:西山瞳(ピアノ)/maiko(バイオリン)
チャージ/当日:3,500円(税込3,850円)/4,000円(税込4,400円)

2024年2月24日(土)京都 NAM HALL
開場/開演:12:30/13:00
出演:西山瞳(ピアノ)/maiko(バイオリン)
前売り/予約:3,500円/2000円(当日券は+500円)

★詳細やその他のライブについては西山瞳のオフィシャルサイトへ

 

西山瞳 『Dot』 MEANTONE(2023)

リリース日:2023年11月22日(水)
品番:MT-12
価格:3,190円(税込)

TRACKLIST
1. Turtledove タートルダブ
2. Dot ドット
3. The Rider ザ・ライダー
4. To Return トゥ・リターン
5. Tidal タイダル
6. Red and Yellow レッド・アンド・イエロー
7. Pigeons ピジョンズ
8. Baroness バロネス
9. Lighthouse ライトハウス
(全曲 西山瞳作曲)

■メンバー
西山瞳 ピアノ、作曲 Hitomi Nishiyama piano,compose
西嶋徹 ベース Toru Nishijima bass
則武諒 ドラムス Ryo Noritake drums
鈴木孝紀 クラリネット Takanori Suzuki clarinet (on 2, 3, 5, 6, 9)
橋爪亮督 テナーサックス、フルート Ryosuke Hashizume tenor sax, flute (on 2, 3, 5, 6, 9)
maiko バイオリン maiko violin (on 2, 3, 5, 6, 9)

2023年7月12-14日 群馬県高崎市 TAGO STUDIO TAKASAKIにて録音
録音、ミックス、マスタリング:松下真也(Piccolo Audio Works)
FAZIOLI F278使用
ピアノ技術:越智晃(Fazioli Japan Co., Ltd.)
アートディレクション:平岡直樹(yuu)

 


PROFILE: 西山瞳
79年11月17日生まれ。6歳よりクラシックピアノを学び、18歳でジャズに転向。大阪音楽大学短期大学部音楽科音楽専攻ピアノコース・ジャズクラス在学中より、演奏活動を開始する。卒業後、エンリコ・ピエラヌンツィに傾倒。2004年、自主制作アルバム『I’m Missing You』を発表。ヨーロッパジャズファンを中心に話題を呼び、5か月後には全国発売となる。2005年、〈横濱JAZZ PROMENADE ジャズ・コンペティション〉において、自身のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデンにて現地ミュージシャンとのトリオでレコーディング、『Cubium』をSpice Of Life(アミューズ)よりリリースし、デビューする。2007年には、日本人リーダーとして初めて〈ストックホルム・ジャズ・フェスティバル〉に招聘され、そのパフォーマンスが翌日現地メディアに取り上げられるなど大好評を得る。以降2枚のスウェーデン録音作品をリリース。2008年に自己のバンドで録音したアルバム『Parallax』では、スイングジャーナル誌日本ジャズ賞にノミネートされる。2010年、〈インターナショナル・ソングライティング・コンペティション〉(アメリカ)で、全世界約15,000のエントリーのなかから自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門で3位を受賞。コンポーザーとして世界的な評価を得た。2011年発表『Music In You』では、タワーレコードのジャズ総合チャートで1位、HMVの総合2位にランクイン。CDジャーナル誌2011年のベストディスクに選出されるなど、芸術作品として重厚な力作であると高い評価を得る。2014年には自身のレギュラートリオ、西山瞳トリオ・パララックス名義での2作目『Shift』を発表。好評を受け、アナログでもリリースする。2015年には、ヘヴィメタルの名曲をカバーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』をリリース。マーティ・フリードマン(ギター)、キコ・ルーレイロ(ギター)、ヤング・ギター誌などから絶賛コメントを得て、発売前よりメタル・ジャズの両面から話題になり、すべての主要CDショップでランキング1位を獲得。ジャンルを超えたベストセラーとなっている。同作は『II』(2016年)、『III』(2019年)と3部作としてシリーズ化。2019年4月には『extra edition』(2019年)もリリース。自身のプロジェクトの他に、東かおる(ボーカル)とのボーカルプロジェクト、安ヵ川大樹(ベース)とのユニット、ビッグバンドへの作品提供など、幅広く活動。〈横濱JAZZ PROMENADE〉をはじめ、全国のジャズフェスティバルやイベント、ライブハウスなどで演奏。オリジナル曲は、高い作曲能力による緻密な構成とポップさが共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。