“二人の夏”に見る直截的なビーチ・ボーイズ解釈
1. AIDOのテーマ
アルバムの幕開けを飾るのは、浜省が作詞とボーカル(作曲は青山徹との共作)を務めるファンキーチューン。タイトルは前年(1974年)にリリースされたMFSBによるフィラデルフィアソウルの名曲“TSOP (The Sound of Philadelphia)”の邦題(ソウル・トレインのテーマ)を意識しているような気もするが、サウンドはフィリーというよりサンタナmeetsカーティス・メイフィールドのような趣。ワウギターとキーボード、パーカッションが織りなす煽情的なグルーヴが冴えるフロアユースな曲である。なお、アルバム楽曲の作詞はすべて浜省が手掛けているが、作曲とボーカルは曲ごとに異なっている。
2. 初夏の頃
浜省作曲&ボーカルで、前曲からシームレスに繋がりつつも意匠は異なるミドルテンポのバラード。フォーキーな西海岸ロック調のサウンドだが、間奏でバロックめいた荘厳なオルガンが挿入されているのが面白い。なお、浜省が1997年に発表した初期楽曲のセルフカバーアルバム『初夏の頃~IN EARLY SUMMER~』ではタイトルソングとして1曲目に収録。これがまた良いのだ。
3. 春の日に
ギタリストである青山徹の作曲。わずか2分強ながら心躍るオールドタイミーなスウィンギンポップで、間奏のジャジーなギターソロもたまらなくノスタルジック。青山のジェントリーな歌声もまさに春の陽だまりを想起させてくれる。
4. 二人の夏
アルバムと同時にシングルリリースされたデビュー曲にして、浜省のペンによる傑作ナンバー。ビーチ・ボーイズの“Surfer Girl”に着想を得たサマーバラードで、間奏でも“Summer Means New Love”のフレーズを引用しているのがマニア心をくすぐる。ギターの町支寛二と青山のツインボーカルで、甘美なコーラスハーモニーが柔らかく重なっていくさまが美しく、終盤では浜省の低音ボイスも加わってより豊潤な広がりを感じさせる。シングル曲での直截的なビーチ・ボーイズ解釈(しかも日本語オリジナル)としては、大滝詠一や山下達郎にも先んじていたことは特筆すべきだろう。
1987年発表のミニアルバム『CLUB SURFBOUND』(こちらの詳細は以下の過去記事を参照ください)で浜省自身がリメイクしているほか、前述した山下版をはじめ、椎名恵、A.S.A.P.、Something ELse、JINTANA & EMERALDSなどカバーも多数。
5. 君がいれば
キーボードの山崎貴生が作曲とボーカルを担当したメロウなカントリーロックで、センチメンタル・シティ・ロマンス(1975年8月に同名アルバムでデビュー)にも通じる雰囲気。それにしてもシュガー・ベイブ、AIDO、センチという当時の邦楽ロックでは異端ともいえるアメリカンポップス/ロックのエッセンスを持ったバンドが同時期にシーンに登場したことは注目に値する。
6. 愛するお前に
ほとんどの曲が2~3分台というアルバムの中で唯一6分を超える長尺ナンバーで、後半2分はツインギターとキーボードを軸とした即興的インストが繰り広げられている。あくまで憶測だが、この曲はエリック・クラプトン率いるデレク&ザ・ドミノスにインスパイアされているのではないだろうか。憂いを帯びたスライドギターの響きと気だるくレイドバックしたグルーヴは、国産スワンプロックと呼んでもおかしくはない。
