
短冊CDの愛おしいイビツさ――8cm CDを回すDJディスク百合おんの証言
まずはディスク百合おんさんから。短冊CDど真ん中世代で、お母様が新星堂でバイトしていたことから、幼い頃から音楽に親しんでいたという百合おんさん。最初に買ったCDはポケットビスケッツの“YELLOW YELLOW HAPPY”だという百合おんさんが、いかにして現在の〈短冊CD DJ〉として目覚めたかをお聞きしました。
「自分の音楽活動は元々はライブが主軸だったんですけど、10年くらい前に、DJ急行さんという方が〈ナイトパチパチ〉という、90年代のJ-POPにスポットを当てたDJイベントを企画されたんです。そこに盛り上げMCとして自分も誘ってもらい、じゃあDJも!となったのがきっかけですね。初心者だし、まずはちゃんと音源を集める所から始めようと思い、リサイクルショップで中古CDを掘るようになりました。
それである店舗で、短冊CDのワゴンセールと出逢うんですよ。今でこそ中古屋さんでも、リバイバルで短冊CDの専用のコーナーがあったりしますが、その頃は、短冊を最も見なくなって来た時期でした。だから短冊CDがズラッと並んでる姿を、そのワゴンセールで久しぶりに見たんですよね。それが自分的にセンセーショナルで、J-POPにハマっていた〈あの頃〉の記憶が呼び起され、そこで〈短冊CDだけでDJしたら斬新だし、自分の気持ちもしっかり入るかも!〉と閃いたんです」
当初は〈なんで短冊CD?〉と周囲からも不思議がられたものの、独自のスタイルに手応えを感じていた百合おん氏。クラブに持ち込まれた短冊CDの数々は、同世代からは〈懐かしい!〉とノスタルジックに、若い世代からは未知のワクワク感を刺激し、徐々にDJとしての評判も上がっていったとか。
「そこから選曲やプレイも徐々に安定してきて、フロアも盛り上がるようになり、回を追うごとに、いい時間を任せてもらえるようになりました。元号が平成から令和になったのが大きかったですね。短冊CDが平成アイテムとして注目されたのもあり、オファーも増え、お客さんにも伝わりやすくなりました」
8cm CDでプレイする苦労(12cmサイズに変換する専用アダプターが必須であること、CDJ読み込み時のトラブルなど)はあるものの、百合おん氏はあくまで、このスタイルにこだわっています。
「やっぱり短冊CDでのDJは楽しいですね。背表紙を見ながら短冊CDを選んで、アダプターを装着し、CDJに挿入するまでの所作が独特で、〈それがいい!〉と褒められたりします」
そんな百合おん氏に〈短冊CD≒90年代J-POPならこの曲!〉という曲を選んでもらいました。
「H Jungle with tの“WOW WAR TONIGHT ~時には起こせよムーヴメント~”が、自分の中ではしっくり来ますね。最盛期のリリース、ダブルミリオンの超ヒット曲、小室哲哉とダウンタウンの夢のコラボ、企画の発端となった『HEY!HEY!HEY!』、時を越えて愛され続ける歌詞、世界一売れたジャングル……。話題に事欠かない、当時の空気が凝縮された一枚だと思います。〈短冊CDの日 2024〉というイベントに合わせて、復刻リリースもされました。
あと、最近聴いて度肝を抜かれたのは、大黒摩季“ら・ら・ら”のカップリングとして収録されている“恋はメリーゴーランド(English Version)”ですね。壮大なイントロからのアグレッシブなビートは必聴です。凄まじいアレンジながら、しっかりとポップスになっていて、人生で聴いたJ-POPの中でも最高峰だと思います。CDでしか聴けないバージョンなんですが、入手しやすいと思うので、是非、聴いて欲しいです」
百合おん氏以外にも、短冊CD DJは存在する。20~30代の後追い世代もいれば、東京以外にも熱いシーンはあるようで……。
「関西の短冊CD DJクルー〈放課後短冊倶楽部〉の一人、ジェノサイド今井さんは面白いですね。2006年に製造されたTASCAMのCD-DJ1というトップローディング型CDJを持ち込んでプレイするのですが、なんとそのCDJがアナログターンテーブルと接続できるんです。連動させて、スクラッチを駆使しながら短冊CDをかけるという。短冊CDでプレイをするだけでも熱いのに、過去の名機と組み合わせてるのが最高です」
百合おん氏をここまで夢中にする短冊CDは、一体、何が魅力なのでしょうか?
「難しいですね……! 紙ジャケットは劣化しやすく、サイズ感も独自で収納もしずらい、再生するのもハードルが高いし、短冊CDってメディアとしては全然完璧じゃないですね。だけど、音楽界が盛り上がっていて、自分が多感だった時期に、様々なタイトルがリリースされたせいか、思い入れがあり、なんだか魅力的に見えてしまうという……。
数々の短冊CDジャケット撮影をした写真家の平間至さんが、短冊CDのことを〈時代に咲いた徒花〉と評しておりまして、非常に納得しました。じゃあ、黒歴史で〈なかった事〉にしたいものかと言うと、そうできない時代でもあり……。うーん、自分は、完璧なものには、夢中にならない性分なんですよ。だから、短冊CDの〈イビツさ〉に愛おしさを感じているのかもしれませんね」
最終的には「棚にハマらない(ハマらせづらい、陳列に手間がかかる)」という理由から、徐々に撤退していった短冊CDの命運を考えれば〈イビツさ〉こそ短冊CDの本質であり魅力というのは、まさに言い得て妙かも知れません。短冊CD以外にもナードコアやデジカメなど、レトロでマニアックなカルチャーに精通するディスク百合おんさんならではの視点で、短冊CDの面白さを語っていただきました。