
aus + the humble bee
最高に整う入浴のために必要な音はどんなもの? 日英を代表する電子音楽〜アンビエント作家が共作した、温泉のためのアルバム!!
ausによる新作『Chalybeate』は、2024年に群馬・伊香保温泉で行われた入浴イヴェント〈いかほサラウンディング/アンビエント音泉〉のために彼が制作した音楽を、英国を代表するアンビエント音楽家のハンブル・ビーがミックスしたアルバムだ。ausは伊香保の温泉街に1か月滞在し、取材やフィールド・レコーディングを実施。そこで録ったさまざまな音源を元に、当地の8つの旅館にある露天風呂で流すために制作された楽曲が収められている。厩を起源に持つ旅館のための“specular ochre”では馬のいななきを、“blushing copper light”では芸妓文化の残る伊香保の芸妓が弾く三味線の音をサンプリングするなど、サイトスペシフィックな手法で作られ、心地良いドローン・アンビエント・サウンドに仕上げられた。
「反響音も強いですし、お風呂によって音響の具合も全然違う。環境にフィットするように、各旅館で録音した環境音の周波数を操作して音階を立ち上げ、それを元にシンセサイザーの音を作ったりもしました」(aus:以下同)。

音楽を聴くために温泉に入る人はいないだろう。レコードを聴くことやコンサートに行くことなど能動的な聴取ではなく、たまたま入った露天風呂で音楽が流れている、という状況で、いかに違和感なく心地よく入浴できるような曲を作るか。
「聴く者の感情を過剰に揺さぶる音は求められません。また、楽曲を最初から最後まできっちり聴くわけではないから、構成に凝っても意味がない。自分の作品では作家性を前に出しますが、今回はそれを抑えるべきだと考えました。温泉場はいろいろな音で満ちていますし、音楽が環境音と一体化することも前提になってくる。だから、なだらかに音が変わっていくドローン的なものになりました。制約は多かったですが、だからこそおもしろいし、やりがいがありましたね」。

リリースするにあたり、最終的な仕上げをハンブル・ビーことクレイグ・タターサルに任せたのは、長い制作期間で自身が深く関与しすぎたこともあり、作品に客観性を持たせるためだった。
「全部で300分ぐらいの音源をまるまる渡して、ミックスしてもらいました。伊香保のお湯は鉄分が多くて錆色に近いんですが、クレイグの使うテープ・ループもざらついた錆っぽい風情があるので合うかなと。元の音源は露天で聴こえる環境音に合うように透き通った音を使いましたが、ミックス後の音はまるで温泉の中に浸けたような、ざらついてくぐもった仕上がりになっていて、感嘆しました」。
〈いかほサラウンディング/アンビエント音泉〉は12旅館に規模を拡大して2025年も行われた。そこでausが作った音楽もアルバム化の予定があるという。そのほか、さまざまなコラボレーションやオリジナル音源を同時進行で制作中。2023年に15年ぶりのアルバム『Everis』を発表して以降、ausは解き放たれたようにリリースを重ねている。音楽性も従来の端正なエレクトロニカからポスト・クラシカル、アンビエント、箏奏者との共演など幅広い。
「すべてを自分でコントロールしなきゃ、という気持ちは薄れていますね。そうでないと、この作品は作れなかった。ペトロールズの長岡亮介さんと共作させてもらった『LAYLAND』もそうでしたが、他者のアイデアを取り込むほうがおもしろいものが出来る。自分一人で全部考えていると、そこ止まりなんで」。
以前よりも柔軟になり、開けてきたaus。今後も期待できそうだ。 *小野島 大
ausの近作を一部紹介。
左から、2025年作『Eau』(FLAU/EM)、2024年作『Fluctor』(FLAU)、長岡亮介との2023年のコラボ作『LAYLAND』(ENNDISC/FLAU)