情熱的なワルター、気品高いエネスコ。〈演奏の時代〉の響きに酔う。

 ワルターやエネスコが活躍した〈両大戦間〉は、まさに〈演奏の時代〉の黄金期であった。時代様式はロマン主義から表現主義へと移りゆく〈熱い〉時代にあり、1925年にマイクロフォンを用いた電気録音が始まったことで、彼らの演奏が良い音で残されたのも、まさに天の配剤と言うべきである。

 〈ダイレクト・トランスファー〉シリーズは、こうした往年の名演奏を、保存状態の良いレコードからほぼそのままCDへ移したもの。針音こそ残るものの、楽器の音色、響きの豊かさ、音楽のエネルギーが驚くほどリアルに再現されるのが特長だ。

BRUNO WALTER, VIENNA PHILHARMONIC ORCHESTRA 『ワルター&ウィーン・フィル(HMV録音集成)(1936-1938)』 キング(2026)

 『ワルター&ウィーン・フィル(HMV録音集成)』は、今年生誕150年を迎えた名指揮者ワルターによる魅惑の名演を、CD 3枚に収めたもの。冒頭のハイドン“軍隊”から、おっとりとしたテンポによる優美そのものの表情、柔らかな管楽器、冴えた弦の響きに陶然とさせられる。今ではほとんど聴けなくなったこの情緒こそ、〈常に微笑みを忘れず〉と評されたワルターの個性であり、芸そのものである。

 “アイネ・クライネ・ナハトムジーク”は、優雅な表情、瑞々しいリズム、美しい響きのいずれをとっても、いまだにこれを超える演奏は現れていない。ワルターの情熱的な一面に触れるには、ブラームス“交響曲第3番”がよい。これほどブラームスの美しい旋律を熱っぽく歌い抜いた演奏はほかになく、有名な第3楽章のロマンティシズムなど、誰しも胸を締め付けられるに違いない。

GEORGE ENESCU 『ラ・フォリア、詩曲~エネスコ名演集』 キング(2026)

 『ラ・フォリア、詩曲~エネスコ名演集』は、大作曲家でもあったエネスコのヴァイオリン演奏をCD 2枚に復刻したもの。ヘンデル“ヴァイオリン・ソナタ第4番”での、気品高く、かつ涙のにじむような歌は、まさにエネスコならではの高邁な音楽世界である。一方、自作自演の“ヴァイオリン・ソナタ第3番”では、ルーマニア人としてのアイデンティティが作品にも演奏にも横溢している。

 こうしたエネスコの複雑な個性は、情熱が内燃するシューマン“ヴァイオリン・ソナタ第2番”における凄絶な名演に結実する。ワルターの3枚組が第2次大戦前の束の間の夢だとすれば、エネスコの2枚組は、両大戦を生き抜いた芸術家の苦闘の軌跡そのものと言えるのかもしれない。