©Marco Borggreve

東京オペラシティの同時代音楽企画〈コンポージアム2026〉に、満を持しての登場!

 今年のコンポージアムは5月ではなく、季節を変えて7月に行われる。武満徹作曲賞の審査員は、もう何度も来日しているイェルク・ヴィトマン(1973-)。今やひっぱりだこのドイツの作曲家だが、さらにクラリネット奏者、指揮者としても活躍し、どれも片手間ではなく本業で、しかも世界的に評価が高いというのがすごい。ヨーロッパでも、トップクラスのオーケストラの公演から、室内音楽祭、現代音楽祭まで、演奏家としても作曲家としても欠かせない名前だ。

 本人は、自分をバッハやモーツァルトの時代には普通だった昔ながらのマルチミュージシャンとしてとらえていて、どんなにスケジュール調整が大変でも、演奏・指揮活動は作曲に大いにインスピレーションとエネルギーを与えてくれると言う。そして文字通り、ベートーヴェンやシューマンへのオマージュ作品があるだけでなく、敢えて伝統的な要素を取り払わずに、現代的な語法や個性的なアプローチと組み合わせるのがヴィトマンの音楽の特徴である。

 今回、まだ日本で演奏されていないということで、メインとして取り上げられる、オペラ“バビロン”(2012年初演2018年改訂)の管弦楽曲バージョン“バビロン組曲”(2014年作曲)も、過去と現代の混在が耳にわかりやすい。オペラの台本は人気哲学者ペーター・スローターダイクが手がけ、神の罰ではなく、古代メソポタミア文明の社会の混沌と苦悩にフォーカスを当てた。ヴィトマンはスローターダイクが関心を持たなかった「言葉の混乱」を重視し、7つの場ごとに音楽の形式や語法を変えて表現したという。

 たとえば調性たっぷりの甘美な旋律や、ミュンヘンのビール祭りを彷彿とさせる“バイエルン分列行進曲”などが別の音や旋律と重ねられ、不協和音をなしたり、パロディのように聴こえたりする。また、不協和音と言っても20世紀前半を思わせる部分があったり、あるいは19世紀後半風の厚い管弦楽の豊穣な響きもあったりする一方、管楽器の息とグリッサンドがリズミカルに繰り返されるパッセージ、または静かな部分で立ち現れるアコーディオンとチェレスタの色彩的な使い方などがヴィトマンらしい。バビロンの多様な民族、文化、言語の混乱や軋轢は、現代の状況に当てはまる。オペラ“バビロン”そして今回演奏される管弦楽版“バビロン組曲”は平和的な共存方法を提案しているのだ。

 アコーディオン、チェレスタの色彩的な使い方といえば、ヴィトマンの特徴として、個性的な音色の探求、響きの美しさも挙げられる。今回、前半に演奏される“アルモニカ”(2006年作曲)はそれを表すいい例だ。アルモニカとは、グラスハーモニカ(ケバブを横にした感じで、大小のガラスのお椀の連なりが回っているのを水で濡らした指で押さえて音を出す楽器)の別名で、その名の通り、グラスハーモニカがソリストとしてクロースアップされた協奏曲的な管弦楽作品である。グラスハーモニカのミステリアスな音色に、対をなすアシスタント的なアコーディオン・ソリストや、弦楽合奏などが似たような音色でより添い、そしてハープ、チェレスタ、グロッケンシュピール、クロタル、ピアノなどの高音のキラキラとした音色が交わる。多彩な打楽器の音、管楽器の息のざわめきも壮麗で、クライマックスの大音響の音色の饗宴も爽快。メリハリも効いていて曲の構成も有機的なヴィトマンの代表曲の一つ。

 打って変わって2曲目“アド・アブスルダム(不条理)”(2002年作曲)は雰囲気がまったく異なる。トランペットと小オーケストラのための協奏曲はヴィトマンが若い時の作品。4拍子の速いテンポ(プレスティッシモ!)で、冒頭から16部音符の規則的なリズムがタカタカタカタカと目の回るようなパッセージを繰り広げる。まるで練習曲のように聞こえる部分もあり、疾走感あふれる。楽曲の中ほど、トランペットが少しゆっくり奏でるシンコペーションのメロディはジャズ風でもある。ヴィトマンによれば「最初から最速のため、展開できず」「自分の速さに囚われて息切れし、窒息する」。不条理劇が面白い。

 ヴィトマンが自分で指揮する個展演奏会も楽しみだが、作品や作風について語る長木誠司氏とのトーク、ヴィトマンが選んだ武満徹作曲賞の若いファイナリストたちの作品も気になる。ぜひ3イヴェントともおすすめしたい!

 


イェルク・ヴィトマン(Jörg Widmann)
ドイツ生まれのクラリネット奏者、作曲家、指揮者。いずれの分野でも世界的に活躍している。幼少よりクラリネットを学び、ミュンヘン音楽芸術大学でゲルト・シュタルケに、ジュリアード音楽院でチャールズ・ナイディックに師事。11歳からは作曲も始め、ヴェスターマン、ヒラー、ヘンツェ、ゲッベルス、リームに学んだ。パウル・ヒンデミット賞、ロベルト・シューマン賞、ミュンヘン市音楽賞、バイエルン州マクシミリアン科学芸術勲章など、数々の受賞歴がある。

 


LIVE INFORMATION
〈コンポージアム2026〉イェルク・ヴィトマンの音楽

2026年7月9日(木)東京・初台 東京オペラシティ コンサートホール
開演:19:00

■出演
イェルク・ヴィトマン(指揮)
クリスタ・シェーンフェルディンガー*(グラスハーモニカ)
大田智美*(アコーディオン)
セルゲイ・ナカリャコフ**(トランペット)
東京都交響楽団

■曲目
ヴィトマン:アルモニカ(2006)*
ヴィトマン:アド・アブスルダム(不条理)〜トランペットと小オーケストラのためのコンツェルトシュテュック(2002)**
ヴィトマン:バビロン組曲(2014)[日本初演]

https://www.operacity.jp/concert/calendar/detail.php?id=17674