没後30年、武満を直接知る世代と知らない世代の演奏家が会するコンサート
作曲家、武満徹が亡くなって30年が経つと知らされた。ということは、その年、1996年に生まれた人たちは今年30歳になるということ。〈芸術は長く、人生は短し〉。坂本龍一が好んで引用したヒポクラテスの言葉を思い出した。この30年、世界は彼の音楽を果たしてどれくらい聴いたのだろうか。 この9月、かつて彼が吉田秀和賞の審査員を務めた水戸芸術館では、新たに始めた講座(9/5)の第1回に彼の音楽を取り上げる。その後〈武満徹の肖像〉(9/26)と題された演奏会、さらには伶楽舎が同館で続けてきた今昔雅楽集の第4回(10/4)では“秋庭歌一具”を取り上げる。
ここで紹介するのは〈武満徹の肖像〉。コンサートでは室内楽を中心に初期の代表作から晩年まで、歌を交えながら回顧する。彼は西洋音楽に憧れて「長い間、西洋の鏡しかのぞきませんでした」と語ってきた。シャンソンを聴いて音楽の美しさの虜になった彼は、クラシックの古典や現代の音楽だけでなく、ジャズやポピュラー、映画音楽を貪るように聴いた。とりわけジャズを好み、作曲法への影響を機会のあるたび記してきた。彼の作品の、特にコンサートのために書かれた作品のどこにジャズの影響があるのか判然としなかった。ジョージ・ラッセルのリディアン・クロマチック・コンセプトに影響を受けたと公言していたが、なんだか雲をつかむような印象しかなかった。このコンサートで取り上げられる作品を聴き直していて、ピアノ作品“遮られない休息”を耳にしていたとき、ビル・エヴァンスの無伴奏のピアノ・ソロの佇まいが聴こえた。エヴァンスが68年に録音した“アローン”のピアノのスタイルを思い出したのだ。しかし影響といっても武満がこのピアノ曲を書き始めたのは52年。エヴァンスのあのスタイルが聴こえてくるずいぶん前のことだった。50年代のジャズ・ピアノにはなかったスタイルだった。二人に共通するフランス音楽を介しジャンルを超えて響き合ったということなのか。あくまで個人の印象にすぎないが“ピアノ・ディスタンス”は晩年の菊地雅章と響き合ったというのは言い過ぎなのだろう。
西洋の鏡しか覗いてこなかった彼が東洋の鏡を覗くようになったのは偶然観た義太夫節がきっかけだったという。太棹三味線と節、語り口に驚いたという。日本の伝統楽器、琵琶と尺八のために書いた作品には“エクリプス”、この二つの楽器と管弦楽のために書いた“ノーヴェンバー・ステップス”がある。それに10月に演奏される雅楽アンサブルに書いた“秋庭歌一具”。こうした作品は東洋の鏡に向き合った結果だった。しかし西洋楽器のために書かれた作品にも沈黙や呼吸法、さわりといった東洋の要素は潜んでいるだろう。プログラムにあるチェロとピアノのための作品“オリオン”には義太夫の三味線と節のような関係、運動が認められないだろうか。この曲には西洋の鏡に映った東洋の所作が見えるような気がする。
シャンソンと義太夫節。彼に決定的な影響を与えた音楽は、偶然だろうが、歌だった。口ずさむこと、素朴に歌うことは、抽象的な、論理的な整合性に閉じこもりがちな作曲から彼を解放してきたのだろうか。彼の書く歌にはいつも素朴な、歌うことの喜びが感じられる。プログラムはそんな歌を聴いて、93年に書かれた“ビトゥイーン・タイズ”で締めくくられる。武満を直接知る世代と知らない世代の演奏家が会するコンサート。武満徹という鏡になにが映るのだろう。
LIVE INFORMATION
講座 片山館長とめぐるシリーズ
第1回 武満徹をめぐる
~武満徹没後30年記念企画~
2026年9月5日(土)茨城 水戸芸術館 コンサートホール ATM
開場/開演:13:30/14:00
https://www.arttowermito.or.jp/hall/lineup/article_4784.html
武満徹の肖像
~武満徹没後30年記念企画~
2026年9月26日(土)茨城 水戸芸術館 コンサートホール ATM
開場/開演:15:30/16:00
https://www.arttowermito.or.jp/hall/lineup/article_4783.html
伝統芸能のススメ[雅楽]
今昔雅楽集 四、秋庭歌一具
~武満徹没後30年記念企画~
2026年10月4日(日)茨城 水戸芸術館 コンサートホール ATM
開場/開演:15:30/16:00開演(15:45プレトーク)
https://www.arttowermito.or.jp/hall/lineup/article_4759.html