出嶌「まあ、例年通りというか、2014年はどうだったかって話だけど……まず全体的には〈DFA〉って感じの年だったんじゃないかと思いますね」
山西「それは何かのクイズなんですか」
出嶌「DFAはNYのね、あれだよ」
北野「そうですよね」
出嶌「まあ、もったいぶることもないけど、〈ディスコ、ファンシー、アトモスフェリック〉みたいな感じやね」
土田「それがキーワードってことですね」
出嶌「まあ、それは言いたいだけなんだけど。グラミーの後のダフト・パンクの騒がれ方が何かすごかったなっていう。その影響で何でもダフト・パンクと比較する流れとかもあったし。なので、ああディスコですか、そうっすよねぐらいの感じだね。実際は単にDはダンスとかでもいいっていうか、EDMもそうだし、E-girls的なものもそうだし、ドメスティックなダンス・ロックものの意味でもいいし……っていうぐらいです。もちろん普通にディスコ、さっき言ったようなトッド・テリエとか……」
北野「クローメオとか」
出嶌「なんかナイル・ロジャースも客演で名前を見るようになったし。テンスネークとかミステリー・ボーンズとか」
山西「でも、その名前が重宝されるっていうのがイマっぽかったりもするんですかね。次のファンシーっていうのは?」
土田「ほぼイコールで〈カワイイ〉みたいな感じですよね、日本だと。去年もカテゴリーにしてましたけど、自分ではファンシーは雰囲気は今年はそんなになかったですね」
出嶌「この3つとも基本はここ数年の続いてるものっていう共通点が一応あって、もう特殊な流行というより一般的なものになったってことだよね。それこそtofuさん流れのものだったり、再脚光を浴びた角松流れのものだったり、広い意味でアイドルを経由して再評価されるようになった渋谷系の孫ぐらいの感じのフューチャー・ポップみたいのだったり……っていうのも、去年からあったといえばあった感じだけど、今年はもう普通になってるから、そんなに取り立ててキーワードとは言えるのかどうかみたいなね」
山西「私もファンシーはいまいちピンとこなかったんですよね」
土田「日本で言うとファンシーはShiggy Jr.みたいな人たちが今年一番大きいんだと思います」
北野「わりとドメスティックな世界の話になってるのかなって」
出嶌「去年もファンシー・ポップ特集とかやって、まあ、勝手に〈カワイイ〉感じの邦楽を括ってたんだけど、場当たり的に言うと、今年はイギー・アゼリアの“Fancy”があったからさ、ああいうカラフルでキュートで影響力のある女性というか。日本のきゃりーさんを置き換えたら、ケイティ・ペリー以降の欧米の流れっていうところでいうと、今はまさにイギーとかがそうだと思うし」
山西「リリー・アレン?」
出嶌「そうそう、あとあれだ、ミーガン・トレイナーのMVみたいな」
山西「“All About That Bass”ですね。USでは今年一番ぐらいのヒットで」
出嶌「マイリーがトゥワークしてたのをもう一歩進んであんまり冴えない子たちがパステルカラーの服着てやってるみたいな……ファンシーやん……っていう。あと、Aはアンビエント、アトモスフェリック、エアリーとか、なんかそういう感じのが今年も多かったと思います。終わり」
山西「まとまった」
出嶌「それは去年からの世の中にあったものの流れということで、個人的にはまたそれぞれ違うと思うけれども」
土田「それでいうと、私はアンビエント、ちょっとダブ・テクノにプラスしてポスト・インダストリアルっぽいものを去年の延長で聴いてたのが2014年ですね」
山西「例えばどのへんが一番ツボ?」
土田「やっぱり最後にアンディ・ストットが出ちゃったので。あとはちょっと変なビート。この間も言ってたフェッズみたいな、なんて言えばいいんですかね、あれは何なのかがちょっとよくわからない。ちょっと奇妙なビート感のある……」
出嶌「以上を踏まえて、土田さんの今年を漢字一文字で表すと?」
土田「いきなりですね……〈浮〉」
北野「それはなぜですか?」
土田「浮遊感の〈浮〉。音響的な〈響〉でもいいんですけどね。音響っぽいものや、アブストラクトなものをよく聴いたので」
山西「アブストラクトもAですね……そのAの部分って出嶌さんも言ってましたけど、ここ数年続いてる流れじゃないですか!? 今年っぽいAの特徴ってあるんですか? インディーR&Bみたいなのが今年も多かったと思うんですけど、音は去年から違ってたりするんですか」
土田「どうなんだろう。邦楽の原稿に出てくる機会は去年よりも多かったかな。ただアーティスト単位では小谷洋輔さんとかNORD……パッて浮かぶのはその2組ぐらいですけど」
出嶌「っていうより、もともとそういう持ち味のシンガー・ソングライターの人っているよねみたいな前提もあるし、ライとかジェイムズ・ブレイク以降の……内省的だったり密室的な表現がどう呼ばれるかっていうだけの話だからね」
土田「いま誰もジェイムズ・ブレイクって名前は出さないですもんね……」
山西「いまはライが例に出される代表ですね」
出嶌「それでまたトリップ・ホップって言葉がまた浮上してきてるじゃない? この話はこの辺にして……北野くんの漢字一文字は?」
北野「僕はリスナーとしては……いまさらなんですけど僕のなかでEDM元年だったなっていうのがあって。アヴィーチーとかアフロジャックとかハードウェルとか……そういうのを改めてちゃんと聴いてめちゃくちゃ楽しいなって感じておりまして。なので僕の一文字は欲望の〈欲〉です。EDMもそうですけど、ヒップホップでも例えばKOHHさんは自分の思ってることを丸出しに言ってるような感じだと思うんですけど、そういう音楽が増えてる感じもするんで。欲望に身を任せて踊りたいEDM、ストレートな物言いのヒップホップも含めて〈欲〉っていう漢字が何となく思い浮かびました」
出嶌「言ってることはわかるけど」
土田「〈直〉とか?」
北野「そうですね、考えます」
山西「今年の自分のリスナーとしての方向性からはズレますが、担当ジャンル的なところに重点を置くと、轟音の〈轟〉。EDMもそう言えるのかな。音圧の凄いのが多かったっていうのと、グランジのリヴァイヴァル・ブームも〈轟〉だし、あと今年はガレージ/サイケ・ロックのバンド多かったんですよね。そういうのも〈轟〉だったし、インディー界隈だと、去年のポスト・インダストリアルやダークウェイヴの流れを受けてトライ・アングル周辺のレーベルからメタル・バンドのリリースがあったりとか、載せきれてないんですけど、あそこらへんも〈轟〉だった。〈ポスト・インダストリアル〉も〈ダークウェイヴ〉も、キーワードだけ見ると去年から引き続き……って感じでも、音のトレンドは緩やかに変わってきているなっていうのは思ってて、それが何かっていったら、音がデカイ」
出嶌「みんなまとめてくるね」
山西「出嶌さんのも聞きたいんですけど」
出嶌「個人の〈個〉だね。何と言うか……個々が好きに楽しんでいて、それが一番いいんじゃないかなっていう意味の〈個〉。アーティストごとの個性とかはもちろんだけど、リスナー個人個人にその人数分だけの楽しみ方、追いかけるものだったり、トレンドだったりがあってほしいなっていうのを今年は何度か思ったかな」
山西「これは突っ込むと暗くなる話ですか?」
出嶌「ひとまず先に進めましょう」
北野「では、山西さんは2014年にリスナーとしてどんな音楽を楽しんだか……」
山西「仕事でいろいろ聴かせてもらっているけど、それとは別の話で、〈聴くものの趣味は変わらないな〉って思う年でした。去年の座談でも〈いちばんよく聴いた音楽はレゲエ〉と言っていて、一昨年もそうで、残念ながら今年もそうでしたね。そのなかでおもしろかった作品は、ムンゴス・ハイファイの新作だったり、ムンゴスとプリンス・ファッティのスプリット盤だったり、PART2STYLEのコンピですね。もともとUKのサウンドシステム文化が好きだということも前提としてありますが、それでも〈自分はこのへんが好きなんだな〉って改めて思いました。ムンゴスは〈OUTLOOK〉などでも来日しているんで、わざわざ私が〈普段レゲエを聴かなくてもUKのベース・ミュージック好きは聴いてね〉と言うまでもないですが、それでももっと広く評価されてほしいなって感じてます。あとはソカもそうなんですけど、日本盤が出ていないから、よそのメディアで作品を紹介している場面も目にすることがないですし。そこはちょっと悔しいですね」
出嶌「一部のレゲエとかソカは紹介の仕方で見え方も変わってくると思うけどね」
山西「そうですね。いま流行っているようなデジタル・ソカとか、それに似たテイストのダンスホールは、どちらかというとレゲエ好きよりもウルトラ系のファンが聴いたらハマるものだと思ってますし。ターゲットをそっちに向けたら、日本でも俄然トレンディーなものに見えてくるのかも。そことハマるから、ブンジ・ガーリンがUSでメジャー・デビューしたんだと思ってるし、ショーン・ポールも海外ではレゲエだと思って聴かれていないんじゃないの?とか」
土田「個人的に海外のレゲエは全然追っていないんですけど、DAISHI DANCEさんのミックスなどを聴いてると、ダンスホールっぽいものとハウスがブレンドされている曲もけっこうありますよね。聴いててシンプルに楽しいって思えるような」
山西「そうなんですよ。いまのダンスホールって、〈Coolie Dance〉や〈Diwali〉が流行った頃と同じような可能性を凄く秘めていると思ってるんですよね。みんなが〈ダンスホール・レゲエ〉と聴いてイメージする音と実際の音とでは、良い意味で凄い距離があると思う。だから、誰に向かって言っているのかわからないけど、2014年を振り返るこの良いタイミングに、ついでに聴いてみてほしいなって思います……って感じですかね、私のリスナーとしての1年は」
土田「それって2014年のジャズの状況にも通じるかもしれないですね。きっかけ次第と言いますか」
出嶌「いろんなものが実は近いものだってことを、グラスパー以降は見せやすくなったってことだよね」
北野「はい、では僕の2014年なんですけど、さっき言ったEDMを聴いていたのは通勤時間とか外で聴くことが多くて、家にいる時は自分が90年代に聴いていたような曲を聴くことが多くて」
山西「例えば?」
北野「宇多田ヒカルのファースト・アルバムとか。ジェネイ・アイコのページでシャーデー『Love Deluxe』が引き合いに出されていたんで、〈そういえば最近聴いてないな〉と思って久しぶりに聴いてみたらズッパマリして(笑)」
出嶌「なんで笑ったん?」
北野「そういうものをよく聴いていて。tofubeatsだったり、いまの作品でも普通に同じ流れで聴けるなっていうのがあって。そこが、今年はシンクロじゃないですけど、そういう感じがあっておもしろかったです」
出嶌「その90年代っぽいものっていうのはどういうもの?」
北野「Shiggy Jr.も僕は90年代っぽいと思ったんですが、メロディーが立っているポップスというか……何か説明しにくいんですけど……花澤さんや中島愛もそうかなって。それが例えば、花澤さんの作品でいうと谷村有美みたいな90年代のガール・ポップとか……古内東子の昔の曲といまの音楽と繋がって聴けるなって思っていました」
出嶌「ファンシーやん」
山西「〈90年代〉っていうのはアーティストもライターさんもわりと最近みんな引き合いに出しますよね。いろんなジャンルで。私が言うのは主にグランジ・リヴァイヴァルとかそのへんなんですけど、20年代前半、ヘタすると10代後半の子たちが言ってるんですよね。それを考えるとリアルタイムでは聴いてないんじゃないの?みたいな話をライターさんとこの前もしていて」
出嶌「まあ、CDがめちゃくちゃ出てリスナーの母数がめっちゃ増えた時期だと思うから、後から触れられる機会も多いだろうし。あと、90年代って言ってもいろいろだから、あんまり括ると乱暴な感じもするけどね」
山西「でも、何か、宇多田さんは2000年代の幕開けっていうイメージがありますよね。浜崎あゆみもそうですけど、これからの時代を引っ張っていくイメージというか」
北野「はい。では、出嶌さんが今年聴いてたものはどういうものですか?」
出嶌「ほんまのプライヴェートとしては別に聴くのは全然変わってないから、増える一方なので大変だよ。みんな大変やと思うねんけど。それでも音楽が〈押さえるもの〉になりすぎるとつまらないってのがあるし、聴いてそれぞれがどう思ったかとかがバラバラになるのが音楽の良いところであって……何かええ話っぽい。やばい。それこそ自分たちが若い頃見たいに〈○○を聴いてたらカッコイイ〉ってのはもうないから、そういう何かを満たすために音楽を使うみたいな考え方が、ホントになくなったんで、自分的には良かったです」
山西「自分の好きなものをいっぱい聴くってことですね。出嶌さんの聴き方は」
出嶌「まあ、最後はそうなるんじゃないの、ってだけだけど。だから今年も楽しかったですよ、いい作品いっぱいあったし。例えば何って言われたらあれなんやけどさ。でも仕事やってなかったらわざわざ省みなかったやろうなっていうのは、今年はテクノ、テクノというかテクノ的なものだったり。それは土田さんが好きな感じとも繋がるんだけど。っていうか、悪いものってあんまりなくない?」
山西「ないですね」
出嶌「っていうところで、みんなにそれぞれ良い作品100枚を選んでもらって、集計したものが今回掲載してる100枚になってるんだけど、見てみてどうですか?」
山西「予想通りの部分も大きいですね」
出嶌「これはみんな個々にバランス取った感じで選んだの?」
土田「全然バランス取ってないです。バランスを取ると、よく見るチャートになりますよね」
山西「私は個人ベストがあるってのは踏まえてのものなんですけど、担当している洋楽でこれは落としちゃいけないだろうっていうのは入れるっていうのがバランスを取った部分で、プラス個人的にも楽しく聴けましたってのもありますかね」
出嶌「まあ、こうやってわーってあるのを見ると、毎年思うけど良い作品が多かったっていうね。普通に考えたら100枚聴くだけでも大変やもんな。だから皆さんもこの100枚のなかに聴いてないものがあったら、この100枚だけでもぜひ聴いてみてくださいねっていうことです」
山西「まとめですか」
土田「まとめましょう」
北野「ちょっと待ってください、僕の今年の漢字は……」