コラム

ベルギーのダンス・カンパニー、ローザスが5年ぶりに来日:ライヒ〈ドラミング〉から探るコンテンポラリー・ダンスと音楽の位相

【EXOTIC GRAMMER VOL.37】ダンスとドラミングの位相へ

Drumming 1998 (C)Herman Sorgeloos

 

はしる。 
右腕をのばしてまっすぐ上にあげ、上半身をねじる。
とぶ。とびながら、うしろにそりかえり、両腕をふる。
ハンドスプリングのように跳びながらも、腕はうごきつづける。
片足があがり、しゃがむかとみえるが、すぐに戻って、回転する。
はしる。
はしり、とぶ。とびながらすこし回転する。
腕をふる。大きくまわす。頸もまわる。
髪が揺れ、カーディガンが揺れる。

 

 ベルギーのダンス・カンパニー「ローザス」が5年ぶりに来日する。今回の演目は、1998年に初演された『ドラミング』。スティーヴ・ライヒの同名曲をつかったダンス作品で、日本では以前、2001年の6月にさいたまとびわ湖、そして大分の三カ所で公演がおこなわれている。

 ダンサーがステージをいっぱいにつかい、1人から12人まで、刻々とフォーメーションを変えながら、うごきつづける。ローザスの作品のなかでも特に完成度が高い、大掛かりな作品と言ってもまんざらはずれてはいないだろう。ステージを観たものはきっとまた観たいとおもうだろうし、もし観ていない人が友人にいるなら、きっと観るべきだと言うにちがいない。

 ローザスが初来日したとき、そのダンスとともに、コスチュームが注目されたことも忘れてはなるまい。『ドラミング』も、うごきのみならず、メンバー各人のコスチュームと全体のコーディネイトも作品の大きな要素となっている。スカートやパンツ、ジャケット、そしてカラーや光沢によるアクセント。ホワイトを基調にしながら、オレンジやブラック、着ているものの素材が変わっていることもだ。これらがダンサー各人の身体や振付とを考慮して周到につくられたものであることは言うまでもない。

 ダンスとともにひびく音楽について、ローザスの注目度は高かった。バルトークモーツァルトモンテヴェルディのようなクラシック系、マイルス・デイヴィスジョン・コルトレーンなどジャズ系、ティエリー・ドゥ・メイリゲティ、そしてライヒのような現代音楽系。でも、それはただ音楽がいい、選択のセンスがなかなかだから、というだけではない。ただ音楽をならし、そこにダンスをのせる、身体のうごきは音楽と別個に重ねるというのではない、もっとダンスをつくってゆくなかでの重要な核、身体とうごき、色、空間といったものとしっかり結びついたものとして、音楽はある。

【参考動画】ローザスの98年の公演〈ドラミング〉より

 

 スティーヴ・ライヒの音楽はコンテンポラリー・ダンスにしばしば用いられている。もともとミニマリストの音楽家はパフォーミング・アーティストと一緒にしごとをすることが多かったし、その音楽のかたちがアーティストをさまざまなかたちで触発してきた。そして1982年に結成されたローザスは、その最初の作品『Fase』がそもそもライヒの4つの音楽をもとにしていたし、21世紀のはじめに手掛けられた作品『レイン』(2001)もライヒの《18人の音楽家のための音楽》だった。

 

足は一カ所にとどめて、腕が、上半身が大きくうごく。
ひとりが跳び、瞬間、ほかの腕に支えられ、すぐはなれる。
やわらかく格闘するかのような複数のうごき。
はしる、ひとりが、ふたりが、べつべつに、そしてもっと多くが。

 

 スティーヴ・ライヒが《ドラミング》を完成させたのは1971年。ライヒは1936年の生まれだから30代前半である。その直前、1970年から71年にかけて作曲家はアフリカ、ガーナを訪れ強烈なインパクトをうける。

 全体は4つのパートからなり、はじめの3パートは系統の異なった同種の楽器が組みあわされる。音色がだんだんと移行し、最後には統合される。

 はじめは雨だれのように、ぽん、ぽん、とあいだをおきながら、ひとつ、ひとつ、と革系の太鼓が。そこにべつの音が加わり、さらに加わってあいだを埋め、だんだんメロディーらしきものが浮かびあがってくる。音の数が増殖し、変化する。べつのパターンが生まれる。また変化して少しずつ弱くなってくると、今度は木系のマリンバがはいってくる。革系と木系とが混じりあい、はじめは気づきにくいかもしれない。それが徐々に入れ替わるようにして木系が前面にでて、2つ目のパートにはいる。同様にして、木系から金属系のグロッケンシュピールへと移行。3つ目のパート、最後は音が減ってきて、音と音のあいだが間遠になり、つづく最後の第4パートでは、そのぽつりぽつりとひびく音を他の楽器が引きつぐところから、これまででてきた全楽器が動員され、エンディングをかたちづくる。

【参考動画】ポートランド・パーカッション・グループによる“Steve Reich:Drumming”のパフォーマンス

 

 最初の録音は1974年1月、ハンブルク。これは現在DGから廉価盤でリリースされている(このときのメンバーにはコーネリアス・カーデューの名がある!)。長大な演奏だ。84-5分かかる。

 長らくほかの演奏がなかったのは楽譜がなかったからだ。ライヒは仲間たちと何回も何回も断片をやってみて、作品を練りあげていった。具体的にどうひびくかを確かめながら、つくっていった。いわば口伝的なつくり。試行錯誤についてはライヒ自身の作曲ノートにも記されている。

 

何人もがステージをおなじように、しかし個々にあわせようとすることなく、大きくまわってゆく。
はしり、とぶ。
こちらで3人、むこうで4人、後方でもっと多く、がそれぞれにおなじようなうごきを何度かくりかえし、分かれてゆく。

 

 ライヒの《ドラミング》におけるそれぞれの楽器の入りや交代、変化は、かならずしもダンスの『ドラミング』と重なるとはかぎらない。重なってしまってはあまりおもしろくなくなってしまうだろうけれども、音楽とダンスがずれるところはまた、音楽/ダンスという異なった表現のずれであると同時に、ライヒの音楽におけるずれをそのまま反復しているとみることもできる。音楽のずれ、ダンスのなかにあるずれ、そしてその両者のずれが重なって、渦を巻く。観るものは、そのときどきでそのずれを視覚的に、聴覚的に、ときには個別に、ときには全体のグルーヴとして体感する。公演は生演奏ではなく録音がつかわれるのだが、音楽家が演奏するという視覚性がないぶん、ダンサーも観客も、そのうごきに気を散らすことなく、ダンスそのものに集中できる利点もある。

 『ドラミング』も初演から17年、前回の日本公演からでも14年経っている。カンパニーのメンバーもこの間にかなり入れ替わり、今回はじめて踊るというダンサーもいるという。そこがまたおもしろい。おなじカンパニーでおなじ演目でありながら、細胞は変化していて、大括りには“おなじ”にみえるかもしれないが、変化している。変化がある。固定した作品ではなく、ヒトがやることであらたなかたちになるもののおもしろさがここにある。

 

ななめにうごくもの。円を描くもの。異なった円を描くもの。
ひとつのステージのなかに異なった時間がある。
歩く。
歩くものがおり、走るものがおり、走りながら跳ねるものがおり、交差する。
白いパンツが、黒いパンツが、スカートが。

 

 2007年からローザスはカンパニーの主要作品についてのドキュメントを書籍として販売するようになった。現在までに7つ。もっとも新しい、2014年に刊行されたのが『Drumming & Rain: A Choreographer's Score』。多数の写真、図表、メンバー、コレオグラファーでローザスの芸術監督のアンヌ=テレサ・ドゥ・ケースマイケル自身のメモ、新聞や雑誌の記事、等などからなり、ほぼ200ページ。3枚のDVDもついていて、『ドラミング』と『レイン』のコレオグラファー用スコアが、実際に踊っている映像やケースマイケル自身のコメントとともに、収められている。

 この資料をぱらぱらみていくと、オウムガイの図に矩形と黄金比を書きこんだ図があったり、長方形をずらして重ね、いくつもの正方形や線で分割したりする図があったり。たとえ細かいところまで読んでいなかったとしても、どれだけアンヌ=テレサがライヒの音楽をもとに緻密に作品をつくりあげているのかがよくわかる。音楽作品の構造と、それをステージという二次元、身体のうごきという三次元と多元化してゆくにあたって、たとえば黄金律やフィボナッチ数列によりつつ、しかしヒトの身体というナマモノと実際に客席その他のところから「みられる」具体的な現実があるところで作品化されていることがわかる。

 今回は公演に加えて、ローザスのオリジナル・メンバー、池田扶美代によるワークショップもおこなわれる(作品出演の予定はない)。それも『ドラミング』に用いられているうごきなどにもとづいたものという。もしこれを受けていたら、どれだけ実際のステージがおもしろくなることか!

 ただ公演があるというだけではなく、さまざまに予習ができるというのは、とても大きいことだ。それも作品がある歳月を重ねた歴史を持っているからともいえる。こうした作品、こうした機会を持てることがこれからどれだけあるか、自分の生がどれだけあるかを想像して、ひとつのステージへと足をむけたい、とおもう。こんな時代だからなおのこと。

 

DANCE INFORMATION

ローザス「ドラミング」

○4/16(木)19:00開場/19:30開演 
○4/17(金)19:00開場/19:30開演 *ローザスメンバーによるアフタートークを予定
○4/18(土)13:30開場/14:00開演
会場:東京芸術劇場プレイハウス
振付:アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル
音楽:スティーヴ・ライヒ<ドラミング>
衣装デザイン:ドリス・ヴァン・ノッテン
出演:ローザス・ダンサーズ
www.geigeki.jp

 

WORK SHOP INFOMATION

池田扶美代氏による〈ドラミング ワークショップ〉
■マスターズ クラス 4/10(金)18:00~21:00
■ビギナーズ クラス 4/11(土)/12(日)18:00~21:00
応募締切:3/9(月)
応募方法・詳細:下記URL
www.geigeki.jp/performance/event093/

 

Rosas(ローザス)

 

本拠地ブリュッセル・王立モネ劇場やカイシアターはもとより、ロンドン・サドラーズ・ウェルズ・シアター、パリ市立劇場やオペラ座、NYのBrooklyn Academy of MusicやLincoln Centerなど、世界のリーディングシアターで上演を続けるダンスカンパニー。毎年1-2作品の新作を発表し、1989年の初来日以来、すでに日本でも複数回、来日公演を行っている。www.rosas.be

 

寄稿者プロフィール

小沼純一(こぬま・じゅんいち)

文章を書いています。教えたりもしています。食事制限しています。ちょっとしたわけありです。つらいとはじめはおもったけど、だいぶ慣れました。世のなかにある既存の食品は怖いと気づく日々です。編者をやっている『柴田南雄著作集』、2巻がでました。国書刊行会刊。入手しづらかった文章がたくさんはいっています。乞ご好評。

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