PUNK NOT PUNK
[ 緊急ワイド ]ポスト・パンクの鼓動が、ふたたび
暗黒の煌めきが世界を覆う。我々は不気味なビートに身を預ける以外、なす術はないのか……
LONELADY
焦燥感と攻撃的な雰囲気を愛する孤独な女
マンチェスターを拠点に活動するローンレディ。彼女の名が多くの人に知られたきっかけは、2006年のデビュー・シングル『Army/Intuition』だろう。ラプチャーなどを旗頭にポスト・パンク・リヴァイヴァルが盛り上がるなか発表されたこの両A面シングルは、R.E.M.からの影響を色濃く反映したものだった。そのR.E.M.について当人はこう語っている。
「初期のR.E.M.を聴いた時、〈これだ!〉って思ったの。ヴォーカルのマイケル・スタイプを観た途端、あのミステリアスな雰囲気に魅了されてしまった。それから、ピーター・バックの複雑なギター・プレイにも大きな影響を受けたわ。ニルヴァーナやホールも好きだったけど、私にはそういう音楽が作れなかったから」。
こうしたR.E.M.に対する敬愛は、2010年のファースト・アルバム『Nerve Up』でも明確に表れている。同作リリース後、彼女はストレンジャー・ソンという地元のバンドでギターを弾いたり、さらにはコリン・ニューマン(ワイアー)の妻であるマルカ・スピーゲルの2012年作『Every Day Is Like The First Day』に客演するなど、課外活動を盛んに行っていた。なかでも特に興味深いのは、ジャー・ウォーブルとのコラボ盤『Psychic Life』(2011年)だろう。本名のジュリー・キャンベル名義で参加した彼女はアンニュイなヴォーカルを披露しており、アルバム自体もダブを基調にしたディスコ・ポップなサウンドが光る良作だ。
「『Psychic Life』は、すべての作曲をジャー・ウォーブルが手掛けたの。私はヴォーカルを担当しただけ。演奏のスタイルも即興が多くて、ローンレディでの入念かつ段階的で、手の込んだ作業とは全然違ったわ。対照的と感じられるプロジェクトに関わることができたのは良いことだった」。
このような道程を経て登場した作品こそ、セカンド・アルバムとなる『Hinterland』だ。前作でも見られたインダストリアル・ミュージックの荒涼感をさらに強調。ファンク、ダブ、ディスコなどが織り成すパンキッシュなサウンドを特徴としている。そこから連想できるのは、スロッビング・グリッスル、ギャング・オブ・フォー、オー・ペアーズといった名前。実際にギャング・オブ・フォーからの影響は強いようで、それは熱のこもった以下の発言からもわかるだろう。
「私のギター・プレイに大きな影響を与えたアルバムは、ギャング・オブ・フォーの『Entertainment!』。初めて聴いた時は興奮が収まらなかった。あの硬質で破断的なギター・サウンドが大好きなの!」。
また、インダストリアル・ミュージックについても、次のようなコメントを残している。
「キャバレー・ヴォルテールやスロッビング・グリッスルなどのインダストリアル・ミュージックを聴くと、地元マンチェスターを連想するわ。コンクリート、焦燥感、攻撃的な雰囲気――そういうものを愛しているのよ」。
とはいえ、本作にあからさまな攻撃性はない。特に歌メロはキャッチーとも言えるほどで、デビュー当時のマドンナやカイリー・ミノーグを想起させる。
「意識的に80sフィメール・ポップのような音にしようとしたわけじゃないわよ。私はむしろ70年代後期の音楽に興味がある。でも、元プリンス&ザ・レヴォリューションのウェンディ&リサは素晴らしいと思う。キャッチーでメロディックな音楽を作るというのは私にとって大切なこと。私が好きな音であればOKで、別に複雑なサウンドを作ろうとしているわけではないの」。
ちなみに本人はみずからの音楽を〈Wilderness Energy(=荒野のエネルギー)〉と形容している。〈孤独な女〉を名乗る彼女らしい表現だと思うが、どうだろう?