(C)Chris Hartlove

 

「“フォー・ハンズ”のテーマはダンスです」

 右手の故障により40年間両手で演奏することができなかったレオン・フライシャー。この間は治療に専念しながら左手の演奏や指揮、教育活動などに多くの時間を費やしてきた。その彼が見事に復活を遂げたのは2004年。直後にリリースされた『トゥー・ハンズ』は世界中で大きな話題を呼んだ。J.S.バッハのカンタータ《主よ、人の望みの喜びよ》から始まり、シューベルトのピアノ・ソナタ第21番で幕を閉じる構成で、演奏は純粋で敬虔で清涼。あまりの美しさに胸が熱くなるほどだ。この記念碑的名盤がリイシューされた。

LEON FLEISHER トゥー・ハンズ シューベルト:ピアノ・ソナタ第21番 バッハ:主よ、人の望みの喜びよ 他 Sony Classical(2004)

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 同時に登場した新譜がピアニストの妻キャサリン・ジェイコブソンとの共演による『フォー・ハンズ~ブラームス:ワルツ集《愛の歌》&シューベルト:幻想曲』で、喜びに満ちた空気がただよう。

 「ブラームスの《愛の歌》には特別な思い出があります。1960年にルドルフ・ゼルキンとの連弾&歌手4人と収録したことがあるからです。このときゼルキンは、こうしなさいとはいわず、“もう一度弾いてみよう”というだけでした。それが30回も続いたのです。繰り返すうちに次第に音楽が深みを増し、異なる物が聴こえてきて演奏が濃密になった。私は音楽とひたすら向き合い、純粋な気持ちで演奏することの大切さを学んだのです」

LEON FLEISHER,KATHERINE JACOBSON FLEISHER フォー・ハンズ ブラームス:ワルツ集「愛の歌」シューベルト:幻想曲 ヘ短調 他 Sony Classical(2015)

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 今回の演奏は愛妻との共演で、集中力に富む演奏の奥にこの上ない歓喜の表情が見てとれる。

 「ブラームスもシューベルトもラヴェルも、そして友人であるボルコムの作品も、舞踊の要素が含まれています。まさにこのアルバムはダンスがテーマなのです。シューベルトの《幻想曲》は4手のための作品の金字塔ともいえる曲で、情感の豊かさと甘美さとあふれる詩情が特徴。ラヴェルの《ラ・ヴァルス》は傑作中の傑作ですね。今回はガーバン編曲の版を用いていますが、彼は2台ピアノ用の音符をほとんど変えずに4手用に編曲している。とても楽しんで演奏できるアレンジです」

 最後を彩るウィリアム・ボルコム(1938年~)の《グレイスフル・ゴースト・ラグ(優雅な幽霊のラグ)》は、ラグタイムが根底に流れる親しみやすい曲。ボルコムはフライシャーと長年の友人で、ダリウス・ミヨーに師事していたことがあるという。

 「ボルコムはゲイリー・グラフマンと私のために協奏曲を書いてくれたこともあり、その斬新でボーダーレスな作風はとても創意工夫に満ちています」

 現在は指揮活動が多いが、両手の演奏も楽しんで行っている。その愉悦の表情を音から受け取りたい。

レオン・フライシャーによるブラームス〈ピアノ協奏曲第1番〉のパフォーマンス映像