20世紀初頭にクロアチアの女性作曲家が紡いだ魅惑のメロディ
ドラ・ペヤチェヴィッチ(1885-1923)はクロアチアの生んだ女性作曲家で37年の短い生涯に約100曲の作品を遺した。近年その存在とロマンティックな作風が静かに認識され始めている。
クロアチアに学び、日本とクロアチア双方で演奏活動を展開するピアニスト安達朋博(1983年生まれ)はキャリア初期からクロアチア音楽、とりわけペヤチェヴィッチの作品を愛し、演奏会で披露してきた。作曲者の故郷に招かれて公演した実績もある。安達は2015年9月28日のリサイタルでペヤチェヴィッチのピアノ協奏曲の日本初演を実現。今回当日のライヴ録音がリリースされる。ピアノ協奏曲は3楽章構成、約30分の作品。ブラームスのピアノ協奏曲第1番やグリーグのピアノ協奏曲風の質感の響きで「いかにもロマン派」な旋律があふれ、ピアノパートには激しいパッションも漲る内容。ピアニストには流麗さと旋律に溺れない構築力が求められるが、安達は彫りの深いタッチで緊張感を保ちつつ、作品の持つ華やかさと叙情味をたっぷり汲み出し、動きの速いところでは俊敏さと歌心を巧みに並立させている。
本アルバムには同じ演奏会で取り上げられたペヤチェヴィッチの大オーケストラのための序曲、ピアノとオーケストラのための協奏的幻想曲が併録されている。序曲はブラームスの悲劇的序曲を思わせるがっしりした骨格。所々女流らしく(?)なよやかな情感が浮かぶ。協奏的幻想曲はサン=サーンスのピアノ協奏曲第2番やリヒャルト・シュトラウスのブルレスケを連想させるメリハリのきいた作品。ピアノ協奏曲より完成度が高く、演奏もよりこなれている。共演の井上喜惟指揮、ジャパン・シンフォニアは演奏機会の少ないしかも各パートの出し入れの難しい作品をしっかり把握、輪郭の明瞭なサウンドに詩情をすっきり織り込んで演奏全体を引き締めている。単なる作品紹介以上の濃い魅力が詰まった1枚。後期ロマン派好き、美メロ愛好家のマストアイテム。