ひとつひとつの音から愛情が伝わるような丁寧に紡がれる演奏。その音色は、優しさに溢れている。松田弦の新作『esperanza』は、昨年に発表された前作『弦想~gen-soul~』の続編としてクラシック・ギターの名曲に取り組んだ意欲作。ブローウェルヴィラ= ロボスアサドらをはじめ、スペイン南米キューバ出身の作曲家の作品を取り上げている。

松田弦 esperanza キング(2014)

 「選曲している段階で、自然とラテン系の作品が多くなっていったので、それであれば、テーマを絞った方がいいかもしれないと思って。ブローウェルは、初めて出場したコンクールで彼の曲を演奏したので、思い入れがあるし、アサドの《カリオカ幻想曲》は、ブラジルをテーマにしているのに内省的な曲調で、いい意味でのギャップがあり、カッコいい曲なので好きです」

 自然豊かな高知の漁師町で生まれ育ち、高校2年でクラシック・ギターを始めた。ストリートでポップ・ソングの弾き語りをしたこともある。その背景とドレッドヘアの印象もあってか、クラシックの堅苦しさのない、自由な清々しさが演奏から感じられる。

 「ギターは、演奏者の個性が出やすい楽器なので、自然に囲まれて育った僕の感性というものが演奏に少しは出ているのでは、というのが期待であり、希望でもあります(笑)。音色に関しては、フランスに留学したことが大きいかもしれないですね。空気の乾燥具合とか、建物とか環境が日本と違うので、それもあって柔らかな音を響かせられるようになったかなと思います。見た目の判断で、情熱的な演奏を期待されることがあるけれど、それは申し訳ないという感じですね(笑)」

【参考動画】松田弦による“Fantasia Sobre Motivos De La Traviata”

 

 気取りがなくて、よく笑い、朗らかな人柄。それが音色に表れていると思う。現在も場所をフランス・ストラスブールからウィーンに移して勉強を続けている。世界中から留学生が集まるウィーンで、その独特の雰囲気などに大いに刺激を受けながら、並行してレコーディングなどの活動を続けている。

 「練習に集中できる環境がまたよくて、収録曲の中には初めて演奏する曲もあるし、《アルハンブラの想い出》のようにあまりにも有名すぎて、避けてきた曲もあります。そういう曲にじっくり取り組むにも、本場ヨーロッパに留学している良さが日々感じられますね」

 《アルハンブラの想い出》を選曲した理由は、クラシック・ギターに馴染みがあまりない人にも興味を持ってもらうため。これまでにも高知の小中学校で無料コンサートを行うなど、ギターの魅力を伝える活動をしてきた。アルバム・タイトルは、スペイン語で“希望”という意味だけれど、いろいろな意味で松田弦のクラシック・ギターへの希望が詰まった作品である。