カウンターテナー藤木大地、ベンジャミンのオペラでサントリーホールデビュー
2019年の「サントリーホール サマーフェスティバル」はサントリー芸術財団の発足50周年を記念、例年以上に多彩なプログラムを用意している。中でも今年のプロデューサー、大野和士が指揮するベンジャミンのオペラ『リトゥン・オン・スキン』の日本初演は大きな話題を呼びそうだ。天使と少年(ボーイ)の2役を歌うカウンターテナー、藤木大地に話をきいた。
「大野さんとオペラ全曲をご一緒するのは初めてです。世界的なオペラ指揮者との共演はもちろん嬉しいですし、この作品を選ばれたこと自体、先見の明というか素晴らしい選択だと思います。ドラマ、オーケストラ、歌手を一体化させてベンジャミンの世界を表出し、お客さんにお届けできるはずです」
「カウンターテナーには2役が与えられ、おそらく1人の歌手の2役を想定して書かれています。1つはエンジェル、もう1つがボーイ。エンジェルは天使ですが、厳密には作品のテーマである中世の写本の縁に書かれた天使です。天使が3人いて聴き手を800年前にタイムスリップさせ、そのうちの1人、カウンターテナーの天使が写本を書く人、つまりアーティストの少年=ボーイに変身。保護者(プロテクター)の妻アニエスと恋におちます。才能を買われ、愛する人を守るために嘘をつき体を張り、自分は命を落とす役です。芸術を通じて自己の意義を探し、学び、経験する……歌手や画家などアーティスト一般に共通するキャラクターです」
「とにかく世界的に高い評価を受けながら、まだ日本で上演されたことのない作品に初めて触れる意義は大きいですね。セミ・ステージ形式上演を経て舞台上演につながり、他の現存作曲家のオペラ上演が増えるような展開になればと思います」
「生きている作曲家がカウンターテナーで何かを表現したいと思っているのは確かでしょう。それはジョルジョ・バッティステッリの《イタリア式離婚狂想曲》、ライマンの《リア》《メディア》、アデスの《テンペスト》など、私がこれまでに歌った作品だけを挙げても、理解できます。ちなみに今年は加藤昌則さんの新作歌曲、杉山洋一さんのギターとのイタリア語歌曲、酒井健治さんの管弦楽との作品など、私が初演する作品も目白押しです。モーツァルトの時代から変わらず、藤木大地も作曲家の創作意欲を刺激する歌手でありたいと願います」
「サントリーホールの大小あわせ、ソロで歌うのは、実は初めてです。記念すべきデビューが『リトゥン・オン・スキン』、喜んでいます。現代音楽イコール難しい、ハードルが高いというイメージは聴衆だけでなく、演奏家の一部にもあります。でも作品や作曲家によって個性は違うし、全体を一括りにしてはもったいない。作曲家の意図を再現できる演奏家をそろえ、作品の良さを伝えるこのフェスティバルの存在は頼もしいです。『リトゥン…』のチケット価格もオペラなのに一般が6,000円から4,000円、学生券は1,000円です。学生さんたちはランチを1食がまんしてでも聴きにきて、音楽の刺激で満腹になってください!」
interview&text:池田卓夫(音楽ジャーナリスト@いけたく本舗)