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【西山瞳の鋼鉄のジャズ女】第22回 映画「ヘヴィ・トリップ」感想――メタラーの真面目さをリスペクトして可愛がる映画!?

メタラーのジャズ・ピアニスト、HR/HMの魅力を綴る

クラシックとユーロ・ジャズからの影響をもとに国内外で活躍中のジャズ・ピアニスト、西山瞳。ジャズ界に身を置きながら、HR/HMをジャズ・カヴァーするプロジェクト・NHORHMでは現在までに4枚のアルバムをリリースするなど、メタル愛好家としても知られており、〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉は、そんな西山さんに〈メタラーのジャズ・ピアニスト〉の視点からHR/HMのおもしろさを綴っていただく連載です。

今回は12月27日(金)に公開を控える映画「ヘヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!」をピックアップ! 巷で話題のこのヘヴィメタル・バンド映画に太鼓判を押す西山さんに、その推しポイントを教えてもらいました。 *Mikiki編集部

★西山瞳の“鋼鉄のジャズ女”記事一覧

 


みなさん、今年はどんなCDを聴きましたか? どんなライヴで感動しましたか?

私は、今年もたくさん新譜を聴きましたが、中でもブラッド・メルドー『Finding Gabriel』が刺さりました。ライヴも色々行きましたがアーロン・ゴールドバーグ・トリオの京都公演が、記憶に残る刺激的なライヴでした。

私は自宅がシネコン徒歩5分圏内ということもあり、映画も気軽によく行っていますが、この年末公開の映画を一足先に観たのでご紹介します。

その名も、「ヘヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!」。
なんとヘヴィメタル映画、しかも〈北欧メタル〉の映画です。狭い!

「ヘヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!」トレイラー

 

ロックの中でも特にメタル系を題材にした映画といえば、1984年の名作コメディ映画「スパイナル・タップ」が昨年6月に日本で劇場初公開になり、私も新宿武蔵野館で、見知らぬ隣の人と一緒に爆笑して観ました。

「スパイナル・タップ」トレイラー
 

そして何といっても、昨年11月には「ボヘミアン・ラプソディ」が大ヒットしましたね。

★参考記事:【西山瞳の鋼鉄のジャズ女】第9回:映画「ボヘミアン・ラプソディ」を観て考える〈バンドのおもしろさ〉

今年は3月にNetflixで「ザ・ダート:モトリー・クルー自伝」が公開となり、メタル界隈で話題になりました。こちらは、ドラッグにセックスに、それはもうヒドい内容の映画でしたが、強烈で本当に楽しみました。というかモトリー・クルーがそもそもおもしろいし、音楽も格好良いし、まあおもしろくなりますよね。こんな滅茶苦茶してて、普通死にますよ。身体が強すぎる。

この映画、とにかく面白かった上に、11月には〈ツアー停止契約書を爆破して復活〉(爆破動画付き)という、映画の続きのようなどこまでがフィクションかわからない事態がまだ続いております。復活発表すぐ後にメタル雑誌「BURRN!!」の表紙になっているところまで、もうなんというか……最高です。

爆破動画
 

★参考記事:【久保憲司の音楽ライターもうやめます】第4回:「ザ・ダート: モトリー・クルー自伝」は「ボヘミアン・ラプソディ」に比肩する家族再生の物語

 

そんな昨今のメタル界隈の映画事情でしたが、2019年の年末、ここにきてまさかの北欧メタルの映画「ヘヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!」が公開ですよ。メタラー以外の誰が望んでいたでしょう。狭い!

「『ボヘミアン・ラプソディ』へのファイナルアンサー」という、「いやいやそれはないやろ」と突っ込まざるを得ない謎のキャッチコピーまで付いていますが、北欧メタルというニッチなお題で、期待していいのだろうか……? ふざけすぎていてメタルを馬鹿にしたような内容だったらどうしよう……?と、疑問が払拭できないまま、一足お先に試写で拝見しました。

フィンランド北部、何もないド田舎の村の地下室で、12年間コピーとリハーサルのみしてきた冴えないヘヴィメタル・バンドが一念発起し、オリジナル曲を作り、ノルウェーの巨大メタルフェスを目指す、という内容。

バンド名は〈インペイルド・レクタム(直訳すると直腸陥没)〉、ジャンルは〈終末シンフォニック・トナカイ粉砕・反キリスト・戦争推進メタル〉。〈トナカイ粉砕〉だけ、映画を観るまで全く意味がわからないのですが、私がスウェーデンに録音やジャズフェスで行った時、現地のミュージシャンが「うちの国は、人間よりトナカイのほうが多いから」、「トナカイはCDを買ってくれないし」というジョークを頻繁に言っていたので、同じ北欧で、トナカイにはなんらかの思いがあるのだろうと推測します。

バンド映画やロック映画は、仲間と夢を分かち合い、ぶつかり合うなど、うまくいかない状況からの飛躍がもたらす多幸感は何倍にもなり、そうした人間関係や社会的な立ち位置の飛躍のプロセスが楽しく、さらにライヴのシーンでガツーンとぶち上がるのがまた楽しいですよね。

今までのバンド映画、ロック映画といえば、アルコール、ドラッグ、派手な異性関係の3つの描写が必ずありましたが、この「ヘヴィ・トリップ」は、その3つともありません。
逆にあるのは、フィンランドとノルウェーの大自然、トナカイ、お花屋さん、図書館、自転車……。
ナチュラル志向すぎる。真面目か!

アルコールは多少出てくるのですが、一本の瓶をまわし飲みしたり、酒場に置いてあるけどメンバーはほとんど口をつけず、景気の良いアルコール摂取シーンはゼロ。
バンド映画に必ずある、ドラッグ・パーティーのようなシーンもゼロ。
サブキャラが女の子とちょっと遊ぶ描写が多少あるぐらいで、主人公メタラーは、好きな女性に「コーヒーでも飲みにいかない?」しか言いません。なんて健全。真面目か!

そうなんです、この映画はメタラーの〈真面目さ〉をリスペクトして可愛がる映画。私はもうそれだけで「好きっ!」と思いました。ほんと、好きです。
この映画を作っている人たち、メタラーのことめっちゃ愛してるでしょ。
役者も絶妙にナイーヴな顔の人を選んでいて、実際こんな雰囲気のプレイヤーを目指す人、山ほどいると思いますよ。ほんと好きです。

リフを思い付く過程とそのピュアな高揚感もわかるし、メタルに興味のないCDを借りに来た人にステルス布教したり、真顔で真剣に「デス・バン(死のバン)」とか言っていたり(これは観て下さい)、ピンチの時は「これでバンドに箔がつく」とメタル的意味不明なポジティヴ解釈、この真面目さが「あるある!」と大納得。本当に愛おしい。

そして、最高にロックなバンド写真の撮り方があります。最高です。
その写真が出来たのを見たとき、私は不覚にも泣いてしまいました。なぜだ!(メタラー以外、おそらく泣くところではない)

世間では、黒尽くめで、やかましい音楽をして、とんでもないことを歌っていたりして、と思われていますし、実際「DIE〜!」とか「KILL〜!」とか舌を出していかめしい顔で凄んだりしているんですけど、それはメタルという音楽に真面目だから。世界感(設定ともいう)が大事なんですよ。劇場型なんですよ。いまだに世間一般のメタルのイメージは「ザ・ダート」のモトリー・クルーみたいな感じかもしれませんが、あれはモトリー・クルーだからです!

メタルに一生懸命で、知識豊富でメタル図書館みたいなオタクや、シャイで真面目な優しい人がやっていたりする、それを優しい目線で描いてくれた映画でした。

音楽も格好良かったんですよ。
フィンランドといえば、メタル大国。フィンランド発のバンドは、チルドレン・オブ・ボドム、アモルフィス、ナイトウィッシュなど枚挙にいとまがないですが、この映画はなんと、フィンランドのもはや大御所、ストラトヴァリウスのメンバーが音楽を手掛けています。配信でサントラも聴けますよ。

VARIOUS ARTISTS Heavy Trip Sony Music Entertainment Finland Oy.(2018)

クライマックスがまた良いんです。
後半、あまりに飛躍がすぎて、馬鹿馬鹿しすぎて笑っていましたが、最後の最後のシーンは、ちょっとグッと来ちゃって少し泣いちゃいました。

私もよく行く、高円寺のメタルの流れるご飯屋さん(ただし、優しい音量で禁煙)〈高円寺メタルめし〉のマスターも試写で観てらしたので、「泣いたよね?」「泣くところだったよね?」とか話してたんですけど、どうやらお互い行った試写で、他の人は全然泣いておらず、泣くところではなかったみたいです?
たぶん、多くの人からすれば「あほじゃないか……」ということばかりなんですが、それでも彼らに共感し、応援せざるを得ません。
なぜなら、私もメタルを愛する人間だから!
続編作ってくれないかなあ、と、今から期待しています。

メタラーも、音楽映画が好きな人も、「ボヘミアン・ラプソディ」で感動した人も、皆観て!

 


CINEMA INFORMATION

映画「へヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!」
プロデューサー:カイ・ヌールドベリ/カーレル・アホ
監督:ユッカ・ヴィドゥグレン/ユーソ・ラーティオ
原作:クリスティン・ルーネンズ 「Caging Skies」
音楽:マイケル・ジアッチーノ
出演:ヨハンネス・ホロパイネン/ミンカ・クーストネン/ヴィッレ・ティーホネン/マックス・オヴァスカ/マッティ・シュルヤ/ルーン・タムディ/他
配給:SPACE SHOWER FILMS(2018年 フィンランド=ノルウェー 92分)
©Making Movies, Filmcamp, Umedia, Mutant Koala Pictures 2018
heavy-trip-movie.com
12月27日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほかにてロードショー!

 


PROFILE:西山瞳

1979年11月17日生まれ。6歳よりクラシック・ピアノを学び、18歳でジャズに転向。大阪音楽大学短期大学部音楽科音楽専攻ピアノコース・ジャズクラス在学中より、演奏活動を開始する。卒業後、エンリコ・ピエラヌンツィに傾倒。2004年、自主制作アルバム『I'm Missing You』を発表。ヨーロッパ・ジャズ・ファンを中心に話題を呼び、5か月後には全国発売となる。2005年、横濱ジャズ・プロムナード・ジャズ・コンペティションにおいて、自己のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデンにて現地ミュージシャンとのトリオでレコーディング、『Cubium』をSpice Of Life(アミューズ)よりリリースし、デビューする。2007年には、日本人リーダーとして初めてストックホルム・ジャズ・フェスティバルに招聘され、そのパフォーマンスが翌日現地メディアに取り上げられるなど大好評を得る。

以降2枚のスウェーデン録音作品をリリース。2008年に自己のバンドで録音したアルバム『parallax』では、スイングジャーナル誌日本ジャズ賞にノミネートされる。2010年、インターナショナル・ソングライティング・コンペティション(アメリカ)で、全世界約15,000エントリーの中から自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門で3位を受賞。コンポーザーとして世界的な評価を得た。2011年発表『Music In You』では、タワーレコード・ジャズ総合チャート1位、HMV総合2位にランクイン。CDジャーナル誌2011年のベストディスクに選出されるなど、芸術作品として重厚な力作であると高い評価を得る。2014年には自己のレギュラー・トリオ、西山瞳トリオ・パララックス名義での2作目『シフト』を発表。好評を受け、アナログでもリリースする。2015年には、ヘヴィメタルの名曲をカヴァーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』をリリース。マーティ・フリードマン(ギター)、キコ・ルーレイロ(ギター)、YOUNG GUITAR誌などから絶賛コメントを得て、発売前よりメタル・ジャズ両面から話題になり、すべての主要CDショップでランキング1位を獲得。ジャンルを超えたベストセラーとなっている。同作は『II』(2016年)、『III』(2019年)と3部作としてシリーズ化。2019年4月には『extra edition』(2019年)もリリース。

自己のプロジェクトの他に、東かおる(ヴォーカル)とのヴォーカル・プロジェクト、安ヵ川大樹(ベース)とのユニット、ビッグ・バンドへの作品提供など、幅広く活動。横濱ジャズ・プロムナードをはじめ、全国のジャズ・フェスティヴァルやイヴェント、ライヴハウスなどで演奏。オリジナル曲は、高い作曲能力による緻密な構成とポップさの共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。

 


LIVE INFORMATION

12月14日(土・昼)東京・成城学園前 Beulmans
西山瞳(ピアノ)、市野元彦(ギター) デュオ

12月20日(金)東京・池袋 Apple Jump (tel 03-5950-0689)
西山瞳(ピアノ)、maiko(ヴァイオリン)デュオ

12月28日(土)兵庫・伊丹 STAGE(072‐777‐3818)
西山瞳(ピアノ)、萬恭隆(ベース)、白石美徳(ドラムス)トリオ

12月29日(日・昼)京都 NAM SALON(075-741-8576)
西山瞳(ピアノ)ソロ

★ライヴ情報の詳細はこちら

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