天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。今週の話題と言えば、いよいよ現地時間1月26日(日)に開催されるグラミー賞でしょうか」
田中亮太「主催元である通称レコーディング・アカデミーの代表、デボラ・デューガンがこのタイミングで休職処分を受け、団体内のパワハラ/セクハラ問題を告発するなど、相変わらず問題も山積みな感じのグラミーですけど、やっぱり注目してしまいますよね」
天野「授賞式では、複数部門でノミネートされているビリー・アイリッシュとリゾはもちろん、タイラー・ザ・クリエイターやロザリアらがパフォーマンスします。亮太さんはリル・ナズ・Xとビリー・レイ・サイラスの出演が楽しみだとか」
田中「そうなんです。BTSやディプロに加えて、多数のサプライズ・ゲストとあの”Old Town Road”を披露するみたい。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」
1. Pearl Jam “Dance Of The Clairvoyants”
Song Of The Week
天野「アメリカを代表するモンスター・バンド、パール・ジャムの新曲“Dance Of The Clairvoyants”が〈SOTW〉! 3月27日(金)にリリースされる約7年ぶりの新作『Gigaton』からのリード・シングルですね」
田中「年明けからパール・ジャムの新曲を聴けるとは景気がいい! しかもバンドにとって新機軸なサウンドっていうのがうれしいじゃないですか。ブレイクビーツを刻むドラムと、ソリッドでポスト・パンキッシュなギターを組み合わせたファンキーな楽曲になっています」
天野「〈踊れるパール・ジャム〉って新鮮ですよね。少し上ずった声で同じフレーズを繰り返すエディ・ヴェダーのヴォーカルは、あからさまにトーキング・ヘッズのデヴィッド・バーンを意識している感じ(笑)。〈千里眼のダンス〉っていう曲名もなんだかサイケデリックで、意味ありげです」
田中「新作『Gigaton』が俄然楽しみになりましたね。ちなみに彼らは今年結成30周年ということで、活発に動いてくれそう。あとは2003年のツアー以降、実現していない来日公演の開催を願うのみです。先日、〈変わります〉と威勢よく断言していた〈フジロック〉、期待していますよ!」
2. Rosalía “Juro Que”
天野「2位はロザリアの新曲“Juro Que”! 〈2020年期待のアーティスト50〉でも激推ししたスペインのシンガーの、2020年最初のシングルです。レゲトン系の曲を連発していた彼女が、ついに伝統的なフラメンコ・サウンドに回帰。一方で冒頭に〈ロザリア〉とささやくネーム・タグが入っていて、そのヒップホップ・マナーに感動しました」
田中「歌詞は獄中の恋人を恋しく思ったもののようですね。ビデオに英訳詞がついていているので、内容がわかります。そのビデオ、1日足らずで300万回以上再生されているのもすごすぎです……」
天野「すごい人気ですね。この“Juro Que”については、トラディショナルなフラメンコに歪んだエレキ・ギターやエフェクトがかかった歌声が挿入されている刺激的な音作りに注目。まさに伝統と革新の共存。ロザリアは今年のグラミー賞で2部門にノミネートされていて、受賞への期待が高まっています。最優秀新人賞を獲ったら快挙! ファンとして、彼女の受賞を祈っています!!」
3. Pop Smoke “Christpher Walking”
天野「3位はポップ・スモークの“Christopher Walking”。今週はこの曲ばっかり聴いていました。彼のことは去年の10月に紹介しましたが、亮太さん、覚えていますか?」
田中「ちゃんと覚えていますよ! 低くてドスの効いた声が特徴的ですからね。UKドリルから直接影響を受けたブルックリン・ドリルのシーンを代表するラッパーでしたよね。ヒット・ソング“Welcome To The Party”はメディアの年間ベストに結構入っていました」
天野「そうです。今回の新曲に英国のプロデューサーは関わっていないんですけど、うねるベースラインは完全にUKドリルの音。かっこいい。名優クリストファー・ウォーケンにかけた曲名と、彼が主演した映画タイトルにかけた〈俺はキング・オブ・ニューヨーク〉っていうリリックも最高。〈期待のアーティスト50〉では同シーンからファイヴィオ・フォーリン(Fivio Foreign)を紹介しましたが、顔役であるポップ・スモークからも目が離せません!」
4. Hayley Williams “Simmer”
田中「今週の4位はヘイリー・ウィリアムスの“Simmer”。彼女は、2000年代以降のエモ・シーンを代表する人気バンドであり、スネイル・メイルやジュリアン・ベイカーといった若い世代のUSインディー勢にも多大な影響を与えてきたバンド、パラモアのフロントウーマンとして知られていますね」
天野「そうですね。パラモアはアルバム『After Laughter』(2017年)も傑作でした。実は彼女、デビュー以前から、レコード会社を含む周囲からソロでの活動を促されてきたみたいで。でも、バンドにこだわる彼女は頑なにそれを拒否してきたそうなんです。これまでソロでサウンドトラックに楽曲を提供したり、客演したりはしていましたが、この曲でついにソロ活動を本格始動させる、とのこと」
田中「とはいえ、パラモアのメンバーであるテイラー・ヨーク(Taylor York)がプロデュースしていたり、ライブのサポート・メンバーが演奏に参加していたりと、体制はバンドのときとそんなに変わっていないんですよね。ただ、サウンドはかなり違います。あくまでポップな志向性のパラモアに比べて、この“Simmer”はかなりダークで実験的。妖艶な歌声と複雑なビートが絡むさまに、ポーティスヘッドやナイフを想起しました。〈パラモアでは表現できないことをソロではやる!〉という彼女の気概が窺える一曲。今後の活動も楽しみですね」
5. Porridge Radio “Sweet”
田中「今週最後の一曲は、〈PSN〉初登場のバンド、ポリッジ・レイディオの新曲“Sweet”です。バンドの出身地はイングランドの南東部に位置する海辺の街、ブライトン。ブライトンといえば、著書『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』がベスト・セラーになっているブレイディみかこさんが住んでいる街ですよね。著書ではたびたび荒んだ街の様子が描写されていて、ポリッジ・レイディオのささくれだったロックはブライトンならでは、なのでしょうか?」
天野「そうかもしれませんね。このバンドは、フロントに立つ坊主頭のダナ・マーゴリン(Dana Margolin)の不敵な歌声とたたずまい、そして激しいギター・サウンドがとにかく最高。僕はこの曲で、一発で夢中になってしまいました。Stereogumのインタビューでロードの“Hard Feelings / Loveless”(2017年)をまねようとしてこの曲を書いた、というエピソードもおもしろいです。全然似ていない(笑)! 盛り上がっているロンドンのロック・シーンとの同時代性を強く感じさせますし、今年注目のバンドだと思います!!」