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【10曲目“メタリックロマンス”】

「この曲はもうバンギャたちが涙しますね。メタル女子に聴いて欲しい曲です」

西山「冠さんのファンの方の男女比はどんな感じですか?」

「女性が6割くらいかな、大体半々ぐらいです。前列は、髪留め解いてヘドバンも八の字にしたりぐるぐる回したりする系の人で。この曲でも多分やるでしょうねえ、歌詞もそうですから(笑)」

西山「歌のテクニカルな部分に興味があるんですけど、サビで冠さんが時々混ぜるこういうトーンってどういうところからの引き出しなんですか?」

「この曲は1曲目のパワフルなハイトーンと違い、ちょっと優し目のファルセットで歌ってます。女性の歌なんで、ガツンとやり過ぎず柔らかくしているし、キーもちょうど地声とファルセットの間ぐらいになるようにしてるんです。声の当て方をかえたり声を歪ませたらもっと男っぽくなるんですけど。この曲は弱すぎず強すぎず絶妙なトーンで歌ってます」

西山「ヴォイス・トレーニングはどこかの時点で受けたことはあるんですか?」

「昔ちょっとだけ、素直に声を出すやり方を習いました。初めての舞台の仕事がロングラン公演で、いつもの歌い方じゃ持たないなと思って、長く歌えるやり方を教えてもらいに行きました」

西山「それはスタミナの問題で?」

「んー、スタミナというより歌い方ですね。以前は喉で歌ってた部分があって、すぐ声が枯れてたんです。2~3日連続で歌うともうその週はカスカスみたいな。でも舞台は2~3か月あるのに、これはまずいなって」

西山「それで声が持つようになったんですか? メタルのシンガーって喉潰す人も多いじゃないですか」

「持つようになりましたよ。やっぱりツアーが長かったり体調悪かったりすると、カスカスの時ありますよ。そういう時はなんとかパフォーマンスで誤魔化すしかないですよね」

 

【11曲目“どないやねん”】

「いよいよ終わりの曲です」

西山「この前、雑誌〈ヘドバン〉のクロスレビューでこのアルバムのことを〈人生劇場メタル〉って書いたんですよ。こういう曲があるからそう思うんですよね」

「〈ああしたい、こうしたい、ならば自分の思うようにやればいいんだ〉ってね。散々メタルやっといてこんなんで終わるって、どないやねん!って言われるかもしれないけど、自分の好きなものを集めてメタルにすれば、THE冠になるんやろうと。実はこれもリズムとかの面で難しいことをやってるんですけどね、そんなこと気にせず聴いて欲しいんです。サックス・ソロまであって、遊んでると思っていただければ」

西山「〈カモン! サクソホン〉って言ってサックス来ますからね(笑)」

「〈どないやね~~~ん!〉ですよ」

西山「でも今、皆さん音楽にめっちゃ飢えてるだろうから、こういう中でのリリースってとても嬉しいと思いますよ。全体で特に思い入れのある曲はありますか? 私はやっぱり1曲目(“日本のヘビーメタル”)ですけど」

「やはり1曲目は今回のアルバムを象徴する曲なので、歌詞も音もとにかく熱いです。面白さで行ったら2曲目(“やけに長い夏の日”)かな、ハードロック・ファンが喜ぶような曲で。歌詞の強さとか気持ちの意味でいうと、4曲目の“キザミ”は自分の今の立ち位置を歌っているので思い入れは強いです。1曲目と近いような内容ではあるんですけど、メタルを続ける上での気概が詰まってる曲ですね」

西山「なるほど。あと、やはり歌のことで他にも訊きたいことがあるんですけど、歌い方って年齢によって変化はありました? よくメタルファンの人は、〈声が出なくなった〉とか、〈キーを下げた〉とか、いろんなことを言うじゃないですか(笑)。ジャズだったら、経年変化が良いこととされるんですけど、メタルのリスナーって厳し過ぎるなあと思って」

「キーに厳しいです(笑)! あんなんね、20代で売れた、例えばオジーでも誰でもいいですけどバンドのヴォーカルが、60歳超えて同じ声で歌えるわけがないんですよ。皆さんいつまでも中学高校で聴いたイメージがずっと続いているんでしょうけど、それは難しい。海外アーティストなんて数年に1回しか見られないから分からないんですよ。緩やかな衰えを(笑)。いつもCDで聴いてる20代の声と今現在の60代の声を聴き比べたら、そら違うやろって。僕ももう20代の時の歌い方はできないですし」

西山「やっぱりキーは下がってくるものですか」

「地声の幅は流石に下がってきますが、例えば低音を太く響くように出したりとか、若い頃では出せなかったトーンを出したりとか。そこは20代のSo what?(※95年にデビューした冠の最初のバンド)の頃の高音は出ないかもしれないけど、歌い方を変えれば20代より幅広く歌えますから。昔は高い声こそ格好良いと思っていたけど、今は高い部分と低い部分とメリハリがついた方が格好良いし、どっちも出た方がいいな」

西山「普段はどういう練習をされているんですか? ツアー前の体づくりとか、ツアー中のリハとか」

「ツアー前は練習します。歌いやすい低いキーの曲からやって、超絶シャウトみたいなのはライブの時まで取っておく。全部歌ってると喉が消耗するので。それ以外はサウンドチェック程度ですね」

西山「バンドの皆さんも年齢は近いですか?」

「そうですね。5~6歳の幅はあるんですけど、はたから見たらおっさんしかいない。メタルバンドだと中堅ですかね。昔で言ったら50歳ぐらいのメタルバンドなんて、おじさんすぎておっかねーと思ってたけど、今こんなんですよ。〈ぴえん〉とか言うてますから(笑)」

西山「日本でも年上の方も沢山おられますもんね。冠さんより下の世代はどうですか? メタルメタルって言いまくってる人ってどれぐらいいますか?」

「HER NAME IN BLOODは〈俺たちはメタルだ〉って言うてます。Phantom Excaliverも真面目ふざけでメタルって言ってる。僕の〈戦う魂 貫く心〉(“最後のヘビーメタル”より)っていうフレーズを〈僕らも使っていいですか?〉って言うから、いいよって答えたら、今はまるで自分のように使ってますよ(笑)。でも、まだまだ年下のメタルバンドはそんなにはいないんで、〈我こそは!〉っていう人たちはどんどん出てきてもらいたいですね。楽しくなるでしょうね~」

西山「メタルのシーンは10年ぐらい前から広がってますか?」

「そうですね。90年代っていうのは、ミクスチャー・ロックとかグランジに影響されてメタルが消えてしまった時代だった。メタルがグチャグチャになって、僕はそれぐらいの時にデビューしたので、そこから考えたら今は〈こんな幸せな時代はないな〉と思いますよ。当時はヘビーメタルという言葉を出すのもちょっと……でしたけど、でも、メタルファンはずっと生きてるんですよ。あの時は身を潜めながらメタルファンやってる人もいっぱいいた。昔はメタル好きだったのに、ある時から〈ラウド好き〉って言ってね。そう言っておけばパンクもハードコアもミクスチャーも入ってるからって誤魔化して。逆にメタルメタルって言ってるやつがいなかったから、いい続けたら一人勝ちできるんじゃないかと思って。そういう意味もあって、『傷だらけのヘビーメタル』とか『帰ってきたヘビーメタル』とか『最後のヘビーメタル』とか勝手に言ってるんですけど、そろそろ皆も言ってよって思ってます」

西山「メタルって言葉を言い続けること自体、大事なことなんですね」

「言い続けてたら〈ああメタルの人やな〉〈メタルの変なおじさん〉って徐々に徐々に浸透してきましたよね(笑)。そんなんでいいんです。何年かに1回、聖飢魔IIがブレイクして、SEX MACHINEGUNSがきて、BABYMETALがきて、何年か周期で爆発はするんですよ。その爆発を期待して僕はメタルを守り続ける。常に薪をくべている感じですよ(笑)。そんな僕みたいなやつがいてもええんちゃうかなと思ってます」

 


くべられましたよ、薪を。
私の魂に。
強く!!

薪をくべているのはシーンに対してだけでなく、聴いた一人一人の心にも薪をくべてらっしゃいますからね、確実に。

私は最初に書いたとおり、コロナ禍の仕事キャンセル地獄で参っていたところ、この『日本のヘビーメタル』を聴いて、〈まだ立ち上がれるんだ!〉という気持ちになれました。

聴いて楽しむだけではなく、怒っていい、悲しんでいい、自分のことを哀れんでもいい、そんな豊かな感情を爆音で増幅してくれる。なんというか、愛ですよ、愛。

そして、『日本のヘビーメタル』という大看板は、アルバム1枚聴き終わった時には当然の大看板だと納得できるものだと思います。

これは本当に皆さん聴いて頂きたい。大傑作の人生劇場メタルです!

 


PROFILE:西山瞳

1979年11月17日生まれ。6歳よりクラシック・ピアノを学び、18歳でジャズに転向。大阪音楽大学短期大学部音楽科音楽専攻ピアノコース・ジャズクラス在学中より、演奏活動を開始する。卒業後、エンリコ・ピエラヌンツィに傾倒。2004年、自主制作アルバム『I'm Missing You』を発表。ヨーロッパ・ジャズ・ファンを中心に話題を呼び、5か月後には全国発売となる。2005年、横濱ジャズ・プロムナード・ジャズ・コンペティションにおいて、自己のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデンにて現地ミュージシャンとのトリオでレコーディング、『Cubium』をSpice Of Life(アミューズ)よりリリースし、デビューする。2007年には、日本人リーダーとして初めてストックホルム・ジャズ・フェスティバルに招聘され、そのパフォーマンスが翌日現地メディアに取り上げられるなど大好評を得る。

以降2枚のスウェーデン録音作品をリリース。2008年に自己のバンドで録音したアルバム『parallax』では、スイングジャーナル誌日本ジャズ賞にノミネートされる。2010年、インターナショナル・ソングライティング・コンペティション(アメリカ)で、全世界約15,000エントリーの中から自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門で3位を受賞。コンポーザーとして世界的な評価を得た。2011年発表『Music In You』では、タワーレコード・ジャズ総合チャート1位、HMV総合2位にランクイン。CDジャーナル誌2011年のベストディスクに選出されるなど、芸術作品として重厚な力作であると高い評価を得る。2014年には自己のレギュラー・トリオ、西山瞳トリオ・パララックス名義での2作目『シフト』を発表。好評を受け、アナログでもリリースする。2015年には、ヘヴィメタルの名曲をカヴァーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』をリリース。マーティ・フリードマン(ギター)、キコ・ルーレイロ(ギター)、YOUNG GUITAR誌などから絶賛コメントを得て、発売前よりメタル・ジャズ両面から話題になり、すべての主要CDショップでランキング1位を獲得。ジャンルを超えたベストセラーとなっている。同作は『II』(2016年)、『III』(2019年)と3部作としてシリーズ化。2019年4月には『extra edition』(2019年)もリリース。

自己のプロジェクトの他に、東かおる(ヴォーカル)とのヴォーカル・プロジェクト、安ヵ川大樹(ベース)とのユニット、ビッグ・バンドへの作品提供など、幅広く活動。横濱ジャズ・プロムナードをはじめ、全国のジャズ・フェスティヴァルやイヴェント、ライヴハウスなどで演奏。オリジナル曲は、高い作曲能力による緻密な構成とポップさの共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。

 


LIVE INFORMATION
現在私のライヴは5月半ばまで全てキャンセルしており、この後のスケジュールも情勢を見て判断します。
ライヴはしばらくありませんが、6月10日にソロアルバムが出ます。予約も始まっていますので、こちらぜひチェックして頂けると嬉しいです。

★ライブ情報の詳細はこちら

西山瞳 ヴァイブラント MEANTONE RECORDS(2020)