物凄く大きな音のロックが聴きたくなった時に、かといって本当に鼓膜が破れてしまいそうなタガの外れたノイズではなく、しっかりとメロディーがあり、そこに多少の甘さも存在する、大音量のポップ・ミュージックを聴きたい時に、ダイナソーJrを聴くと、これこそ自分がいま唯一聴くべき音楽である、という気分になる。
特にライヴ・パフォーマンスにおいては破壊的な音響を生み出す彼らだが、アルバムなどの音源で聴くと――こちらで音量を調節できるという事情があるにせよ――その圧縮されたディストーション・ギターの純粋に気持ち良い部分だけを受け取ることができる。新作『Sweep It Into Space』(Jagjaguwar/BIG NOTHING)を聴いていただければ言わんとすることはわかってもらえると思う。
DINOSAUR JR. 『Sweep It Into Space』 Jagjaguwar/BIG NOTHING(2021)
まずはとにかく1曲目の“I Ain't”の冒頭のギターを聴いてほしい。ここにあるのは最前衛の音楽的実験ではないが、バンドとギタリストのJ・マスキスが40年近くかけて磨き上げた、ノイジーなアメリカン・ロックの最良の部分がある。そしてドラムとベースが走り出した後には、そのまま彼らにしか生み出せない音響的快楽に溢れる45分のトリップが始まっていく。
今作では共同プロデューサーとしてカート・ヴァイルが名を連ねており、“I Ran Away”では素晴らしいリード・ギターも披露している。ダイナソーにしろ、このカート・ヴァイルにしろ、その音楽的な影響の少なからぬ部分をニール・ヤングから受けており、時折登場するフォーキーなムードと美しいメロディーが生み出す調和は、彼らがヤングからの血脈を受け継ぎつつ、前進させていることを証明している。
なお、この新作は前作に続いてジャグジャグウォーからリリースされるのだが、このレーベルは今年で設立25周年を迎える。こう言ってしまうと身も蓋もないが、現代のインディペンデントな音楽の中で間違いのない作品を聴きたいなら、まずはジャグジャグウォーから届く作品をチェックすべきだ。
ボン・イヴェール、アンノウン・モータル・オーケストラ、シャロン・ヴァン・エッテン、モーゼス・サムニー、エンジェル・オルセンら錚々たる面々の作品を残してきた同レーベルのカタログを振り返ってみると、作品それぞれのユニークな素晴らしさに、改めて感動させられる。いずれのアーティストの作品にも、誰かの〈人生の一枚〉たり得る強度が存在していて、レーベルとしてそんな作品を届け続けるというのは、離れ業である。
インディーがクールな存在でなくなって久しいし、多くのメジャーなポップ・アクトも先進性に溢れた独創的な作品を生み出している昨今だが、それでもなお、インディーなレーベルだからこそ生み出せる作品群をジャグジャグウォーはリリースしてきているし、ダイナソーJrの『Sweep It Into Space』もまさにそんな作品の一つだ。
【著者紹介】岸啓介
音楽系出版社で勤務したのちに、レーベル勤務などを経て、現在はライター/編集者としても活動中。座右の銘は〈I would prefer not to〉。