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Hope Tala “Tiptoeing”


天野「ホープ・タラは西ロンドンを拠点にしているアーティストです。2010年代後半から活動している彼女は、まだアルバムはリリースしていませんが、シングルやEPを精力的に発表しています。ブラジリアンやラテン音楽のエレメントが取り入れられたR&Bを得意にしていて、どの楽曲も90年代の洋楽や渋谷系のにおいがして洒脱なんですよね。昨年彼女がリリースした“All My Girls Like To Fight”は、バラク・オバマの〈2020年お気に入り楽曲リスト〉に選ばれていました」

田中ポール・エプワースがプロデュースした6月の“Mad”に続いて、この“Tiptoeing”もボッサ・ラウンジなアレンジが素敵です。なんとこの曲は、グレッグ・カースティン(Greg Kurstin)がプロデュース。ポール・マッカートニーやアデルなどを手がけ、いまやポップ界の超大物となったカースティンですが、今回は彼のユニット、バード&ザ・ビーを思わせるエレガントさがいいですね。〈つまさき立ち〉を意味するタイトルも洒落ていますし、〈一緒にダンスをしてしまうと恋に落ちてしまうから、ずっとつまさき立ちをしていよう〉というリリックの内容も素敵……」

 

Anjimile “Stranger”


天野「米ダラス出身で、ノース・カロライナで活動するシンガーソングライターのアンジミリことアンジミリ・チタンボ(Anjimile Chithambo)。お父さんはジンバブエのミュージシャンである〈トゥク〉ことオリヴァー・ムトゥクジ(Oliver Mtukudzi)で、彼や初期のスフィアン・スティーヴンスから影響を受けたそうです。アンジミリの音楽を聴くと、そのことがよくわかりますね。ちなみに、ジェンダーアイデンティティーはトランス/ノンバイナリーだと公言しています

田中「アンジミリはデビューアルバム『Giver Taker』(2020年)それに続くEP『Reunion』(2021年)をファーザー/ドーター(Father/Daughter)からリリースしていたのですが、なんと4ADと契約。この新曲“Stranger”をリリースしました」

天野4ADの社長サイモン・ハリデイのインタビューで語られていたとおり、いまの4ADを象徴する新顔と言えそうですね。初期のモーゼズ・サムニーやフリート・フォクシーズの『Shore』(2020年)に参加していたウワデなんかに近いインディーフォークが魅力のアンジミリですが、アフリカ音楽的なパーカッションやチェンバーポップ風のアレンジがいいんですよね。この“Stranger”も、後半のミニマルミュージック的なホーンのアレンジがすごくスフィアン・スティーヴンスっぽい」

田中「〈アーメンと言った/ストレンジャーにならないで/私も同じ人間/小さなストレンジャー/私はもうモンスターじゃない〉というリリックが印象的なこの曲は、『私のトランスアイデンティティーにおいて過去と現在の自分が対立すること』についての歌なんだとか。でも、抱擁感のある歌や清々しく開放的なアンサンブルが温かくて、対立よりも融和を感じさせますね。ゲイブ・グッドマン(Gabe Goodman)とトーマス・バーレット(Thomas Bartlett)のプロダクションが見事で、感動的なアレンジだと思います。今後4ADからどんな作品を発表するのか、注目したいアーティストです」

 

Nukuluk “Feel So”


天野「今週の最後は、サウスロンドン発のヒップホップコレクティブの新曲を紹介。ヌクラクのセカンドシングル“Feel So”です。11月17日(金)にリリースするデビューEP『Disaster Pop』からのリードシングルで、トリップホップ的なディープで浮遊感にあふれたエレクトロニックサウンドにまず耳を奪われますね」

田中「リリース元はブリストルのレーベル、スピニー・ナイツ(Spinny Nights)。同地のサウンド特有の不穏なダークさと海の底に沈んでいくようなディープさが、この曲には漂っています。プロデューサー兼ボーカリストのシド(Syd)によるムーディーで艶っぽい歌唱をメインに、モニカ(Monika)のエキセントリックなラップが差し込まれる、というマイクリレーの展開も魅力的。アーティスト写真を見てもコレクティブの構成員が何人いるのかがわかりませんし、そのあたりのミステリアスさを含めてとても気になる存在です」

天野「ヤング・ファーザーズとか同じブリストルのコレクティブ〈ヤング・エコー〉とかが現れたときに似たわくわく感がありますね。今後も注目していきたいです」