ジャズピアニストでありながらもアツいメタルファンとして知られる西山瞳さんによる連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。今回は、〈メタラーがジャズクラブに行くと……〉という特殊な状況において、西山さんが印象的だったことを綴ってくれました。メタルの名曲のジャズカバープロジェクト、NHORHMで活動する西山さんならではの気づきの数々から、両ジャンルの特徴が浮き彫りになってきます。 *Mikiki編集部

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先日、コロナ禍以降久しぶりに大きなフェスで演奏しました。大阪で毎年ゴールデンウィークに開催されている、〈高槻ジャズストリート〉です。
このイベントは、99年に大阪府高槻市の商店街を中心に始まったもので、私は2001年から参加しています。最初は〈ストリート〉の名のとおり、道端に電子ピアノを置いただけの会場や、建設会社の砂利の駐車場にベニヤ板を置いて電子ピアノを置いただけの会場もあり、手作りの熱意とお祭り感覚が楽しくて参加していましたが、次第に規模が大きくなり、日本でも有数の大規模ジャズフェスティバルとなりました。
2016年からは、ヘヴィメタル楽曲をジャズピアノトリオでカバーするプロジェクトNHORHMで毎年参加しており、このフェスの持っているお祭り感にマッチして非常に楽しい演奏機会となっています。

〈高槻ジャズストリート〉にて

特にとても良い機会になっているのは、メタルファンも気軽に来場してくれること。
ジャズのライブハウスに入るのはなんとなくハードルが高いけれど、野外フェスなら勝手もわかるし行ってみようかということで、毎年メタラーの方がとても沢山来て下さるんですね。

私もわかるんですよ、メタルファンからしたらジャズクラブは流儀がわからなくて、少し不安。真面目で型や流儀を重んじるメタルファンだからこそ、ジャズのライブハウスにはジャズなりの流儀があるんだろう、知らない人が入る場所じゃないんじゃないか、と思うのも自然なことだと思います。
だからこそ、入場無料のチケット要らずで、駅前やグラウンドなど野外会場でも演奏している、オープンな〈高槻ジャズストリート〉のようなイベントには来てもらいやすく、私たちにとってもメタルファンにとっても、良い窓口や出会いの場となってきました。
ジャズフェスで、パンテラやアイアン・メイデン、スリップノットにAC/DCなどが演奏できるのも、随分面白い状況だなこれはと思いながら演奏しています。ジャズフェスで流れるべき曲じゃない(笑)。

NHORHMの2015年のライブ動画。演奏しているのはパンテラのカバー“Walk”

NHORHM
Photo by Atsuya Asada

2015年からNHORHMを始めて、ライブのたびにヘヴィメタルファンとジャズファンが同じ場所に集うという状況が面白いのですが、メタラーがジャズライブハウスに足を運んでくれるなかで発見したこと、印象に残っていること、それはそうなるよねと思ったことを、いくつか紹介したいと思います。

 

ベース、ドラムスを見るのが面白い

音量はメタルから比べるとかなり小さいですが、ジャズはその瞬間瞬間で違う音を選んで弾きますし、役割はそれぞれありますが基本的には全員対等にアンサンブルしています。特にバンドを支えるベースやドラムスも同じことを全く繰り返さないので、かなり手数が多く、その種類もカラフルなので、面白く見られている様子です。
ギター、ベース、ドラムスは、過去にバンドをやっていたり、実際に少しでもプレイしていたりすることがある人も多いですしね。ジャズライブハウスの形状によっては、ドラムを背面から見ることができる作りのお店もあって、繊細な手数の多さに釘付けになっている方も。
私自身は逆に、メタルのライブに行くと、ドラマーが同じパターンを超絶格好良くグルーヴさせているのに身を委ねるのが楽しいし、フルショットで振り切っている演奏がジャズではあまり聴かないものなので、スカッとして気持ち良いですね。

少し話は逸れますが、アングラのライブに行った時、ドラムのブルーノ・ヴァルヴェルデがレギュラーグリップで普通にメタルを叩きまくっているのには本当に驚きました。メタルでレギュラーグリップは珍しいです。

※編集部注 ジャズドラマーに多いスティックの握り方。左手のひらの上にスティックを置くようにして指で挟む持ち方が特徴
アングラの2021年のライブ動画

レギュラーグリップのジャズドラマー、バディ・リッチの82年のパフォーマンス動画

 

何を着て行ったらいいのかわからないと言われる/こんな格好で来てよかったですかね?と言われる

そうですよね、メタルは黒Tシャツ参戦が基本ですが、ジャズではバンドTシャツとか滅多に無いですからね。それどころかCD以外のグッズを売るのも稀で、そもそもバンドという概念が一蓮托生のファミリーみたいなものではないので、わざわざグッズを作ったりすることは、あまりないと思います。
ジャズでもドレスコードのあるようなお店はまずないので、本当に何でも良いです。フロアでモッシュもしませんし汗をかくこともないですから、本当にお好きな装いで、メタルTシャツでも大丈夫ですよ。

でも服装を気にするのも、めっちゃわかります。
私も、メタルのライブだったら、できたら先に物販に行ってシャツを購入して、トイレで着替えて臨むのがベストかなと思います。
私がNHORHMライブの時に密かに楽しんでいるのは、メタラーの皆さんが推しのバンドのシャツを着込んで来られること。思いっきり見えるようではなくて、ジャズのライブハウスだからきっと少し遠慮されているんでしょうね、シャツの下からちょっと覗いていたり、「僕、実は……」とシャツを開いて見せて下さる。知らなければちょっとあやしい行為ですが、めっちゃ受けています。
逆に、私の方から「良いシャツをお召しで……」と声をかけることもあります。

 

開場時間前に集合、整列、とりあえず最前列席を確保

これに関しては、美しさすら感じます。真面目というか、興業側としても入場が混乱しないこと、前から詰めてくれることは非常にありがたいこと。メタルファンは入場前からライブが始まっている。
実は私はメタルのライブでも最前列に行かない人です。身長が152cmなので、まず押し潰されるし、中途半端に前に行ったら人垣で本当に見えないので、後方の見えやすい場所やスピーカーから遠い壁際を狙って行っています。
ちなみに、とある人気バンドのライブで整理番号1番になってしまって、嬉しいけれど当日までナーバスになってしまったことがありました。入場整理スタッフが「整理番号1番から10番の方〜!」と呼ぶのに合わせて、会場入り口で集結していたファンの中から「死んでこ〜い!」の掛け声が上がりましたが、その時もそそくさと後方の手摺りを確保。チキンですみません。

書いていたら、メタルのライブに行きたくなってきた(笑)。
最近全然行っていないので、そろそろ行きたいなあ。

蛇足ですが、NHORHMを始めてから〈ジャズ〉という単語が入ったイベントやタイトルを見ると〈メタル〉に置き換えて空想する遊びをしており、〈「東京ジャズ」があるなら「東京メタル」はどんなフェスになるだろう〉とか、〈「高槻ジャズストリート」があれば「高槻メタルストリート」はできるかな〉とか、〈「インペリアル・メタル」って響き、格好良いぞ〉などと絶対考えてしまっている自分がいます。

 


LIVE INFORMATION

cafe Beulmans 2nd 十周年感謝祭 昼の部
2022年5月21日(土)東京 成城ホール
開場/開演:12:00/13:00
出演:西山瞳(ピアノ)
料金:4,000円

2022年5月22日(日)東京・小岩 COCHI
開演:20:00
出演:西山瞳(ピアノ)/吉田豊(ベース)
料金:2,800円

Twin Piano! 西山瞳 × 坪口昌恭
2022年5月25日(水)埼玉・蕨 OurDelight
開場/開演:19:00/19:30
出演:西山瞳(ピアノ)/坪口昌恭(ピアノ)
料金:3,600円

2022年5月27日(金)YouTubeチャンネルにてライブ配信予定
配信開始:19:30
出演:西山瞳(ピアノ)
https://www.youtube.com/c/hnofficialm

2022年6月17日(金)東京・池袋 Apple Jump
開場/開演:19:00/19:30
出演:西山瞳トリオ 西山瞳(ピアノ)/西嶋徹(ベース)/則武諒(ドラムス)
料金:3,500円

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RELEASE INFORMATION
西山瞳トリオ、7年ぶりのスタジオアルバム『Calling』発売中!

西山瞳トリオ 『Calling』 MEANTONE(2021)

リリース日 :2021年9月15日
品番:MT-10

価格:2,970円(税込)
紙ジャケット仕様

TRACKLIST
1. Indication インディケーション(作曲:西山瞳)
2. Calling コーリング(作曲:西山瞳)
3. Reminiscence レミニセンス(作曲:西山瞳)
4. Lingering in the Flow リンガリング・イン・ザ・フロウ(作曲:西山瞳)
5. Etude エチュード(作曲:西山瞳)
6. Loudvik ルードヴィック(作曲:西山瞳)
7. Drowsy Spring ドロウジー・スプリング(作曲:西山瞳)
8. Folds of Paints フォールズ・オブ・ペインツ(作曲:西山瞳)

All Composition & Produce Hitomi Nishiyama

録音日:2021年3月30、31日 Studio Dede
録音/ミックス/マスタリング:吉川昭仁

■メンバー
西山瞳(ピアノ)
佐藤“ハチ”恭彦(ベース)
池長一美(ドラムス)

 


PROFILE: 西山瞳
79年11月17日生まれ。6歳よりクラシックピアノを学び、18歳でジャズに転向。大阪音楽大学短期大学部音楽科音楽専攻ピアノコース・ジャズクラス在学中より、演奏活動を開始する。卒業後、エンリコ・ピエラヌンツィに傾倒。2004年、自主制作アルバム『I’m Missing You』を発表。ヨーロッパジャズファンを中心に話題を呼び、5か月後には全国発売となる。2005年、〈横濱JAZZ PROMENADE ジャズ・コンペティション〉において、自身のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデンにて現地ミュージシャンとのトリオでレコーディング、『Cubium』をSpice Of Life(アミューズ)よりリリースし、デビューする。2007年には、日本人リーダーとして初めて〈ストックホルム・ジャズ・フェスティバル〉に招聘され、そのパフォーマンスが翌日現地メディアに取り上げられるなど大好評を得る。以降2枚のスウェーデン録音作品をリリース。2008年に自己のバンドで録音したアルバム『Parallax』では、スイングジャーナル誌日本ジャズ賞にノミネートされる。2010年、〈インターナショナル・ソングライティング・コンペティション〉(アメリカ)で、全世界約15,000のエントリーのなかから自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門で3位を受賞。コンポーザーとして世界的な評価を得た。2011年発表『Music In You』では、タワーレコードのジャズ総合チャートで1位、HMVの総合2位にランクイン。CDジャーナル誌2011年のベストディスクに選出されるなど、芸術作品として重厚な力作であると高い評価を得る。2014年には自身のレギュラートリオ、西山瞳トリオ・パララックス名義での2作目『Shift』を発表。好評を受け、アナログでもリリースする。2015年には、ヘヴィメタルの名曲をカバーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』をリリース。マーティ・フリードマン(ギター)、キコ・ルーレイロ(ギター)、ヤング・ギター誌などから絶賛コメントを得て、発売前よりメタル・ジャズの両面から話題になり、すべての主要CDショップでランキング1位を獲得。ジャンルを超えたベストセラーとなっている。同作は『II』(2016年)、『III』(2019年)と3部作としてシリーズ化。2019年4月には『extra edition』(2019年)もリリース。自身のプロジェクトの他に、東かおる(ボーカル)とのボーカルプロジェクト、安ヵ川大樹(ベース)とのユニット、ビッグバンドへの作品提供など、幅広く活動。〈横濱JAZZ PROMENADE〉をはじめ、全国のジャズフェスティバルやイベント、ライブハウスなどで演奏。オリジナル曲は、高い作曲能力による緻密な構成とポップさが共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。