Photo by Travis Shinn

ジャズピアニストでありながらも熱心なメタラーとして知られる西山瞳さんによる連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。満を持して今回取り上げるのは、メガデスです。西山さんの〈メタルの原風景〉であるメガデスは、6年ぶりになる待望の新作『The Sick, The Dying... And The Dead!』を2022年9月2日(金)にリリースします。そこで、リリースに先駆けて新作を聴いた西山さんが、その聴きどころや彼らの不変の魅力について、愛を込めて綴ってくれました。 *Mikiki編集部

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昔あんなに聴いたのに、当連載でまだ一度も取り上げていないバンドがあります。
それは、メガデス
『Countdown To Extinction』(92年/邦題 破滅へのカウントダウン)がリアルタイム体験で、とにかくソリッドで攻撃的、ギザギザとこちらを削ってくるサウンドが格好良い。このアルバムも、90年代の私のメタルの原風景として刻まれている音です。

MEGADETH 『Countdown To Extinction』 Capitol(1992)

当時、そこから『Rust In Peace』(90年)、『Peace Sells... But Who’s Buying?』(86年)、『Killing Is My Business... And Business Is Good!』(85年)とディスコグラフィーを遡って聴いていくと、どんどんエッジの立ったアルバムが出てくるんですよ。とっても硬派。そして、怒りを絞り出し、心臓に訴えかけてくるエネルギー。
掘れば掘るほど、どんどん攻撃的になっていくので、ジャズに興味を持つ前に、〈CDを掘ったら面白い、掘って楽しい〉という感覚になったのは、おそらくメガデスが最初だったのではと思います。
一枚ごとにどんどん完成度を高めて『Countdown To Extinction』に至っていることがよくわかるのですが、初期の粗暴で丸裸の音も、とっても惹きつけられる。おそらく初期はレコーディングにかける費用は少ないはずですが、その分、ビジョンとか志と呼ぶようなものが丸裸でこちらを攻撃してくる感じがして、本当にワクワクしました。
最初に出会った『Countdown To Extinction』は、徐々に鍛え抜かれた結果、ポップに聞こえるものになっていたのだなと、当時このアルバムをリアルタイムで聴いている自分を、誇らしくも思えたというか。そんな思い出があります。

そして、今になって聴いてもそれは色褪せることなく、むしろ今聴いた方が良さを味わえるところがあります。NHORHMの1作目を制作する際に、メガデスから一曲は欲しかったので、思い返しながら上記のアルバムたちを聴いていたのですが、今聴いても胸が躍るし、バンドの音色にビジョンが横溢しているというか、音色こそがメガデスだったのかも、なんて思いました。そして、非常に正統派のロックンロールの魂があるように感じました。
ギターに関しても、魔術的な華があって個性的。この連載で鈴木直人さんにインタビューした際に、〈ジャズの人には『Rust In Peace』を勧める〉というくだりがありましたが、納得です。

ちなみに、NHORHMでは“Skin O’ My Teeth”を小田朋美をシンガーに迎え、録音しています。ピアノトリオ編成だと、メガデスのヒリヒリした感じが出ない。これは緊張感のある女性シンガーが良いと思い、同じレーベルでリリースしていて付き合いもあった彼女にお願いしました。

NHORHMの2015年作『New Heritage Of Real Heavy Metal』収録曲“Skin O’ My Teeth”

メガデスの92年作『Countdown To Extinction』収録曲“Skin O’ My Teeth”