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統制されない多様な生命が同時に、自由に存在

――“Ants”は“Arrakis”の序章として作曲されたとのことで、まとめて伺います。“Arrakis”というタイトルは映画「DUNE/デューン 砂の惑星」からでしょうか。

「そうです。後から思いついたので深く考えてないんですけど。砂漠のイメージは抱いていました。

“Ants”は長く演奏するつもりはなかったんですが、同時に違うスケールで音を出してほしい、それでアドリブしてほしいという指示の関係で、短い時間で収まりませんでした。エオリアンを鳴らしている人もいればイオニアンを鳴らしている人もいて、全員に違うモードを指定しています。そのうえで自由に弾いてもらっていますね」

――“Ants”は、仄暗いところから暖かいところに向かう早春のようなの気配があって惹かれます。タイトルはどういった意図でつけられましたか。

「みんなが違うことをやりながら生きてるよ、ということですね。様々な生命が同時に存在しているという。連帯や統制されたものではなく、小さな生き物がいっぱいいる感じ。“Arrakis”と頭文字を揃えたのもあります。

“Arrakis”は風呂敷を広げているというか、ビジョンを大きく描いている、そのままビッグバンドに書いてもいいかなという曲で。“Ants”の小さな目線から“Arrakis”の大きな目線に至ることは意識しました。地上の小さなところから宇宙的なところに行く感じです」

――“Arrakis”は、〈テナーサックスの故 井上淑彦氏の作曲した“East Plants”が好きで、いずれこのような曲を書きたいと以前から思っていた〉とのことでした。

「森山威男カルテットのレコード(1983年リリースの『East Plants』)に収録されている曲です。オリエンタルな曲はアメリカのジャズの歴史上、結構ありますよね。それを日本でやっているものを聴くと、アメリカ人の演奏に比べて無理している印象を受けることが多くて。でも、“East Plants”は自然にアラビックな曲で、井上さんもご自分のセッションで頻繁に演奏しておられて、私も一緒に弾かせてもらったことがあります。

やっていると楽しいんですよね。スタイルとしてオリエンタルとかアラビックな空気を出そうとするのではなく、そういうコースを用意しておくと自由になれるんだと感じました。そういう曲を書けたらいいなとずっと思っていたんです」

 

互いを理解していないとできない繊細な音色が呼応する表現

――次の“Raindrops”は、アルバムで唯一のトリオ曲ですね。〈このプロジェクトは音列よりもテクスチャーで即興演奏したいので、テクスチャーを大事にするテーマのメロディを書いた〉とのことですが、〈テクスチャー〉についてご説明いただけますか。

「例えば、同じドの音が2回続いてそれぞれの音色が変わるみたいな、繊細な音色=テクスチャーに呼応し合うことでもアンサンブルを進めたいと思っています。演奏が立体的に聞こえるためにどうするかと考えたとき、ボキャブラリーによる音楽の進行というよりも、表現による音楽の進行に思い至ったんです。

テクスチャーのインプロビゼーションは、互いを理解していないとできないと思うんですね。相手の声色に合わせるのが大事なポイントだと思います」

――明確な旋律が出てくるんだけど、全体的な雰囲気は抽象的で、良い意味ではっきりした印象が残らない曲だと感じます。

「ドビュッシーを意識したところはあります。次の“Cobalt Blue”に繋げたかったので、そこに向かって一回へこむような曲を、(編成的にも小さめの)ピアノトリオでやりたかったんです」

――その“Cobalt Blue”ですが、〈管弦のアレンジは一般的なホーンセクションアレンジと、ルーズに指定して個人判断に任せた部分を同居させている〉とのことで。

「ベースとピアノが同じオスティナート(反復される音形)を弾くバンプ(導入部的に演奏される短い反復)があるんですけど、そこは、管弦の3人には〈このあたりの音を吹いてください、あとは自由意志で変化をつけて〉と、大体の音符を書いておいて選んでもらっています。音符をしっかり書いておいても良かったのですが、事故的な厚みや萎み、ランダムなブレスがあった方が面白いと思ったので。

このトリオ+3プロジェクトのコンセプト、ピアノトリオのまわりで木管が鳴っていることを具現化しようとした最初の曲で、これがワークしたから調子に乗って進められました」

――最後が“River”ですね。〈調性もリズムも、若干の歪みを感じるように書いている〉とのことです。

「書き始めたときは、はじめに聞こえてくる調性が実は違ったと後からわかる、という曲にしようと思っていたんですね。最初に出てくるトーナリティは全体からしたら5度調だった、というように聴き手を煙に巻く曲を書きたかったんです。リズムも、ドラムだけはハーフでとるなど。それで行けるように計算しました」

――最初の拍子は15拍+17拍=32拍(4×8)みたいな感じでしょうか。

「全体的にはそういう感じですね。ドラム以外はこうやって(手拍子で1拍カウントを繰り返す)とっているだけで、そのなかでメーターが変わっていきます

それは、例えば歌詞がついている曲の自然なメロディの流れにおいて、そのくらいタメが必要だったからですね。数字的なものというより、フィジカルにそれが気持ちいいからそうした、それが最後にドラムと帳尻が合うようにしたということです」

※後からお送りいただいた譜面では、4/4、4/4、3/4、4/4、3/4、4/4、3/4、4/4、3/4拍子と表記されていた