和太鼓、三味線、歌で民謡に取り組むかたわら、細野晴臣坂田明マレウレウ滞空時間などさまざまな人と共演。海外に派遣されることも多かった。その木津茂里がファースト・アルバムを発表した。これまで「つるとかめ」としてのアルバムやミニ・アルバムはあったが、ソロのリーダー・アルバムは今回がはじめて。プロデューサーに青柳拓次を迎え、民謡とオリジナルやカヴァーをバランスよく配した仕上がりだ。

木津茂里 SHIGERI BUSHI Tuff Beats(2014)

 以前、立ち話でご本人にうかがった話では、父方の故郷の新潟の民謡への思い入れはやはり大きいとのことだった。しかし地元で民謡を習い、プロとして活動しているタイプの歌手とちがって、彼女が民謡に俯瞰的に取り組んできた人であることも確かだ。このアルバムでとりあげた民謡にしても、北海道から沖縄まで、地域が広範にわたっている。スティール・パンの演奏に導かれてはじまる冒頭の《トーキョーの夜》は、さしずめそんな彼女の立ち位置を宣言した曲か。

 どの曲も存在感のあるヴォーカルに耳を奪われる。民謡の伝統的な楽器だけの演奏が 《津軽じょんがら節》《八丈太鼓囃子》と少ないのは、伝承の重要性を念頭に置きながら、これからの民謡のありようを探るためだろう。《道南ナット節》《炭坑節》《東京音頭》といった有名曲の滋味あふれる編曲は、21世紀ならではの伝統の更新の仕方を感じさせる。オリジナル曲では細野晴臣と青柳拓次共作の《SHIGERI BUSHI》が、HIS時代の細野の《幸せハッピー》以上にポップな仕上がりで(このアルバムでは後者もカヴァーしている)、彼女にふさわしいテーマ曲。

 南島関連の曲が《島々清しゃ》《永良部百合の花》《十日の村に》と3曲も入っているのは、ナイチャーの民謡歌手としては珍しいが、青柳拓次が現在沖縄在住であることと関係あるのだろうか。大島保克新良幸人といった石垣島出身の人気者が参加し、後者は《十日の村に》という佳曲も提供している。

 待った甲斐のあるデビュー・アルバムだ。