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常識を破壊した作品

そして実際、彼のもとで制作された第4作は、従来のスタジオ作とは比べものにならないほどの完成度とスケール感を伴った作品に仕上がった。あくまでシンプルかつストレートなロックンロールを身上としていたキッスが、その奇抜さやキャラクター性に見合ったバラエティと物語性に富んだ作品づくりに成功したのはこの時が最初だったし、多様な楽曲が網羅されたこのアルバムが生まれたからこそ、彼らのライブもストーリー性のあるものになった。『Destroyer(地獄の軍団)』というタイトル自体も象徴的だが、彼らはこの作品によって、それ以前の自分たちの常識を破壊したともいえるのではないだろうか。

アルバムの冒頭には、その後ライブでもオープニングの定番となっていく“Detroit Rock City”が収録されている。従来以上にメタリックに研ぎ澄まされたこの曲では、当時エズリン自身がたまたま口笛で吹いていたというメロディが、そのままギターソロに採用されている。この曲の導入部分から始まるドラマは、過去のツアーの際に公演会場の外で自動車の人身事故が起きたことにちなんだものだとされている。また、彼らが初期から他の都市以上にデトロイトで高い人気を得ていたこと、『Alive!』の収録現場として同都市が選ばれた理由がそこにあったことはよく知られているが、この曲はまさしくキッスからデトロイトに対する返礼でもあった。

その他にも、前述の“God Of Thunder”や、聖歌隊のコーラスを従えながらジーンが歌うドラマティックな“Great Expectations(地獄の遺産)”、代表曲のひとつになった“Shout It Out Loud(狂気の叫び)”など、このアルバムにはキャラクターの際立った多様な楽曲が並んでいる。そうした中でも異色といえるのが、ピーターの歌唱によるピアノバラード、“Beth”だろう。結果的に、このアルバムから生まれた最大のヒット曲は、全米チャートで最高7位まで上昇したこの曲ということになる。この記録は、その後のキッスの歴史の長い歴史の中でも破られていない。蛇足ながら付け加えておくと “Shout It Out Loud”は最高31位、“Flaming Youth”は74位に終わっている。

1976年3月15日にアメリカでリリースされた『Destroyer』はすぐさま85万枚のセールスをあげ、ほどなくプラチナディスクを獲得。全米アルバムチャートでは最高11位を記録し、“Beth”の想定外の大当たりが、このアルバムのヒットを息の長いものにした。また、本作に伴う大規模で長期間に及ぶ全米ツアーでは、彼らの地元であるニューヨークの殿堂、マディソン・スクエア・ガーデンでの公演も実現。さらに同年8月20日にはカリフォルニアのアナハイム・スタジアムにおいて、テッド・ニュージェント、ボブ・シーガー、ユーライア・ヒープをスペシャルゲストに招きながら、キッス史上初のスタジアム公演も行なわれている。

 

バンドの運命を変えた怪物アルバム

こうした成果を眺めてみただけでも、『Destroyer』がこのバンドの運命を大きく変えることになったのは間違いない。なにしろ本作レコーディング開始当時の彼らは、月額の家賃が200ドル程度のアパートメントに暮らしていたというのだ。本作の成功がポールにもたらしたのが、彼にとって初めてのクレジットカードだったという逸話は、どこか微笑ましくもある。このアルバムの最後に収められている“Do You Love Me”の歌詞には〈おまえはクレジットカードと自家用ジェットがお気に入り〉という一節が登場するが、この曲をレコーディングした時点での彼の財布には、まだそれが入っていなかったのである。

キッスはのちに『Music From “The Elder”』(1981年)、『Revenge』(1992年)でもエズリンとタッグを組んでいる。そこにはキッス側の、新たな『Destroyer』的作品を求めようとした思惑も透けて見える。また、本作は2011年と2021年、つまり発売35周年と45周年のタイミングにリマスターを経てリイシューされているが、45周年記念のデラックスエディションにはポールの歌唱による“God Of Thunder”の原曲や、アルバムから漏れた楽曲のデモ音源なども聴くことができる。そして発売から実に半世紀を経たこの怪物アルバムは、いまだに聴く者をわくわくさせ、ロックおやじを少年に戻してしまうのである。