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感情を動かす〈ワールドミュージック〉を探して

2003年にガブリエルは、「Growing Up: Live」という『Up』というアルバムのライブDVDを発売した。そのDVDでは、『So』の“In Your Eyes”をウズベキスタンの歌手セヴァラ・ナザルハンと共に歌っている。ガブリエルは、今でも世界中の面白い音楽家や美術家を紹介しているのだ。ナザルハンは、リアル・ワールドとWOMADフェスティバルによってウズベキスタン初の世界的なスターとなった。

PETER GABRIEL 『Growing Up: Live』 Real World(2019)

僕がやっている現在のグループのメンバーには、ウズベキスタン初の外国人としての同国の文化大使に任命された駒﨑万集がいる。ナザルハンが流行らせた“Yallajonim”という曲も、僕たちのレパートリーにしている。ほかのメンバーには、日本に住んでいる、ペルシャ伝統歌唱で歌う歌手のAminと、中東パーカッショニストとして引っ張りだこになっている立岩潤三がいる。今年の12月には、北区芸術振興財団による〈北とぴあ国際音楽祭〉で〈ユーラシア草原の響き〉というコンサートをグループで開催する。こうした僕たちの活動は、ガブリエルが始めたWOMADの影響を引き継いでいるのだ。

その〈夢枕2026年公演『ユーラシア草原の響き:イラン、ウズベキスタン、タジキスタン、ウイグルの音楽 ー 現代と唐時代の音楽』〉は、北とぴあつつじホールにて12月12日に行う。現在のイラン、中央アジアの音楽、日本伝統音楽のルーツとも言えるシルクロードの音楽、そして正倉院に保存される唐代の宮廷音楽を、アコースティックバンドにアレンジし、さまざまなジャンルの奏者が共に織りなす、他にはない音楽の響きになる。ガブリエルの『Up』でベースを弾いたダニー・トンプソンはイギリス民謡の演奏で伝説的になったプレイヤーだが、トンプソンが僕のアルバム『Songs From A Eurasian Journey』で演奏した唐時代の宮廷音楽のバンドバージョンも、この日に演奏する。ライブについては〈北とぴあ国際音楽祭2026〉のページで情報が見られるので、ぜひチェックして欲しい。

ガブリエルのWOMADやワールドミュージックの取り入れ方で僕が特に感心したのは、彼はエキゾチックなサウンドを求めていたのではなく、本当に人間の気持ちを動かせられる音楽を探していたということ。一般的には、本来のフィーリングから離れた〈変わった音〉を〈民族色〉として探している人が多すぎる。これは、下手すると人種差別にもつながる。

僕のステップファーザー(義父)はイラン人、母は日本人、そして僕はアメリカで育った。エキゾチックな人間として扱われるのはどういう気持ちかを、僕は分かっている。そういうことを何回も、自分の作品でテーマにしてきた。日本では、欧米とは別な差別がある。それは、肌の色ではなく、文化に対する差別だと感じる。日本には〈村〉のような文化があって、自分たちと違うバックグラウンドから来た人を嫌うのだ。海外で育った、別の言語で育った日系の人たちは、みんなそれを感じていると思う。

 

ピーター・ハミルのDIY精神を拡大したガブリエル

昨年、ピーター・ハミルはアメリカのラジオ番組で、彼が制作に携わり、完成に協力した他のアーティストの楽曲の中から、自身で最も満足している数曲を披露した。その時に、ガブリエルの“Digging In The Dirt”、ロバート・フリップの“Chicago”と共に、僕の“Air”や“Song To Fallen Blossoms”をかけた。

僕がミュージシャンの生き方について最も多くを学んだのは、ピーター・ハミルだった。彼は、1970年代初頭から、ミュージシャンとして生計を立てるためには、自分の機材を揃え、レコーディングの技術を学び、自身のレーベルを立ち上げ、最後まで全てを自分1人でこなせるよう勉強しなければならないと感じていた、と語ってくれた。1986年に彼に会った時、彼は自宅でアルバムを録音していたが、1990年代にはイングランド南西部の都市バースでスタジオを借り、毎日午前10時から午後5時までそこで作業していた。彼は自ら音源をプレス工場に送り、CDを段ボール箱に詰めて世界中のディストリビューターへ発送するまで、全てを1人でこなしていた。そして、可能な限りライブは、主に週末に組んでいた。彼のレコーディングとミキシングの腕前は驚異的だった。プロと同等のレベルに達していたのだ。ガブリエルのスタジオとレーベルは、それを拡大し、より多くの投資を投じてメジャーのレベルに引き上げたものだった。

2023年の『i/o』は、1986年の『So』以来、ガブリエルにとって初めてUKアルバムチャートで1位を獲得した作品でもあった。『i/o』は、『So』以来ガブリエルの最も素晴らしいアルバムだと僕は思う。彼は今年、『i/o』の続編である『o/i』を発表する予定だ。『i/o』について詳しく書いた記事がMikikiのこちらのページで読めるので、ぜひ読んで欲しい。