批評が求められない時代に音楽について書くこと
――メタルと普段の書き仕事は、書き方や読者の想定はやはり違いますか?
西山「武田さんのメタルのライブレポートを読むと、政治系のエッセイで感じる武田さんのめんどくささとは違うものを感じるんです(笑)。音楽誌への憧れがずっとお持ちで、それを意識して書いているのかなと」
武田「音楽やメタルについて書くと、やっぱり政則イズムが染み出ちゃうというか、それを取り外すことが不可能なんです(笑)。『beatleg』で連載をしていたとき、編集長から〈武田くんの文章はプログレメタルみたいだ〉と言われて嬉しかったですね。メタルって、しつこいじゃないですか。終わるのかなと思ったら終わらなかったり、静けさが来たと思ったらまた音数が多くなったり。それが妙に嬉しくて、いまでもよく書くときに意識していますね。〈Aメロ、Bメロ、サビ〉という構成の文章のほうがウケるかもしれませんが、僕の場合、〈この展開はいらないんだけど〉というのをあえて入れ込んでいく」
――武田さんの文章はドリーム・シアター的なんですね(笑)。
武田「いま、音楽についてのテキストって、あまり批評性が求められなくなりましたよね。去年お亡くなりになった渋谷陽一さんの文章は、音楽理論に基づいて論じたものというより、〈自分はこう思った〉という熱量があった。いまは、アーティストがどういうステートメントを出そうとしているかを翻訳するのがライターの仕事になりつつある。そんなのつまらないなと思うことが多いですね。
かといって〈私はこう思った〉と批判したら、そのアーティストのファンが押し寄せて来る時代なので、リスクが高い。僕は以前、『EX大衆』で、自分からは見たいとは思わないライブを見に行って感想を書く連載(〈招待されてないライブレビュー〉)をやっていました。ファンキー加藤や湘南乃風のライブを見て正直な感想を書いていました。もっと茶化したり皮肉ったりする文化があってもいいと思いますが、なかなかいまはその土壌がないですよね」
――テイラー・スウィフトのアルバムについて否定的なレビューを載せるとファンダムから攻撃されるので、ライターを匿名にしていた海外のメディアがありました。
武田「恐ろしい話ですよね、すべてが肯定されなければいけないって。長い目で見ると、ミュージシャンにとってもよくないはず。ただ、そういう環境なので、批判への耐性もなくなっていくはずで、ますます全方位的に大絶賛しまくる状況が強化されていくのかなと」
西山「私はミュージシャン目線でポジティブなところを見つけるのが得意ですし、批判はリスクが大きすぎる現状も理解しています。ただ昔の雑誌でバチバチやっていた状況は見ていたから、本当はそのほうが健全だろうとは思いますね」
日本独自のメタルシーンはアップデートできるのか?
武田「日本のメタル市場って、やはり閉鎖的ですよね。『BURRN!』が作ってきた面も大きいですが、日本独自のシーンがある。独自ではあるけれど、ガードが固いというか。文化としては面白いけど、これから10年、20年とリスナーが同じままでは、この先どうなっちゃうのかなと心配になりますね」
西山「リスナーがいなくなっちゃいますよね。ジャズが先にそうなりつつあるのを見てきたから、同じことになるんだろうなと」
武田「新しいメタルを日本のメディアがどう見せていくかが課題だと思います。そこを諦めてしまった媒体もあるので、寂しいですね」
西山「ジャズ誌がずっとマイルス・デイヴィスを取り上げているのと同じですね。ただ雑誌が新しいアーティストを表紙にしても、売れないんだそうです。若い層が雑誌を買わないので」
武田「一昨年、〈SUMMER SONIC〉にグレタ・ヴァン・フリートが出たとき、スタジアムがとにかくガラガラだったんですよ。海外では大規模なライブをやっているのに……。なんだか申し訳ない気持ちになりました。
とはいえ、先週行ったデフトーンズの東京ガーデンシアター公演は超満員でしたね。お客さんはどこから来たのか、不思議でした。いわゆるメタル雑誌を読んでメタルフェスに来るような客層とは明らかに違っていた」
西山「客層は若かったんじゃないですか?」
武田「若かったですね。おしゃれな人も多くて、ヨレヨレのメタルTシャツを着ている私のようなメタラーはあまりいなくて(笑)。どこでデフトーンズと出会うんでしょうね。去年のトゥールの来日公演の客層も、いわゆるメタラーとは違っていましたね」
――デフトーンズは美メロバンドとして知られていて、レディオヘッドと比べている動画なんかもあります。若いロックファンの間で広く聴かれている印象です。
武田「メタルファンは〈簡単に入ってくんなよ〉と門構えを分厚くしてしまっているところがあるので、そこをどうにかしないといけないですね。メタルTを着ているだけで、ついパトロールを始めちゃうのが悪いところですよね。〈ところで、デフ・レパードを知らないのにそれを着ているわけじゃないよね!?〉みたいな(笑)」