クラシック音楽の間口を優しくスタイリッシュに広げるコンピレーション・アルバム。そんな長年の常識を根底から覆すような、衝撃の1枚が登場した。『女ひとり寿司』『文化系女子という生き方』など数々のヒット作で知られる著述家・湯山玲子がプロデュースする『爆クラ!』だ。日本を代表する作曲家・湯山昭を父に持つ彼女は、幼い頃から様々なジャンルの音楽に触れて成長。近年は西麻布のライヴハウス「新世界」を拠点に、毎月約1回のペースで、当盤のタイトルと同名のイヴェントを主宰している。
「『爆クラ!』は『爆音クラシック!』の略で、毎回多彩なゲストを招き、テーマに合わせた音楽をかけながらトークをするイヴェントです。過去にお招きしたゲストは、坂本龍一さん、冨田勲さん、島田雅彦さん、西村智実さんなど各界の第一線で活躍されている方々ばかり。トークの内容も音楽に止まらず、エロス、脱原発、美少年など実に多種多様です。JBLのクラブ仕様スピーカーの豊かな音量を通じて、“音楽を語り、人と共有する喜び”を全身で感じていただくことを目的にしています」
そうした経験を基に新たなテーマと切り口で編まれた当盤のタイトルは、『爆クラ! Vol.1/RAVE CLASSICS-クラブ耳がハマるクラシック』。湯山によると、「爆クラ!」の原点になっているのが、この“クラブ耳”だという。
「1999年にニューヨークの今は無きクラブ・トワイロで体験した、巨匠DJジュニア・ヴァスケスの8時間にも及ぶロングプレイ。彼が創り上げる一期一会の壮大な音響で踊る中で、私はヴァスケスのDJプレイの音響と構造がクラシックの交響曲とそっくりなことに気づいたんです。そして、この長いセオリーを何の苦もなく追いかけ続けるクラブ・ファンは、クラシック音楽の良さもコア・ファンと同じくらい深く楽しめるのではないかと思って。音楽室のJ.S.バッハやワーグナーの肖像と、上半身裸で陶酔して踊りまくるゲイのマッチョが重なって見えた瞬間でした(笑)」
豪華2枚組の当盤に並ぶのは、クラブとクラシックの意外なまでの同一性を解き明かす全16曲。ショスタコーヴィチの交響曲第8番で幕を開け、レスピーギ、バルトーク、ミヨー、ヒナステラ、ケージ、ブルックナー…と音楽史を自在に往来し、最後は黛敏郎の「涅槃交響曲」で締め括るという、今までにはなかったマニアックかつ斬新な選曲になっている。また、演奏もインバル、ブロムシュテット、若杉弘といった往年の名盤から、バッティストーニやカルミナ四重奏団の話題の最新盤まで、日本コロムビアが誇る優れた音源を惜しげもなく使用しているのが嬉しい。
「クラシック音楽の入門CDって、女性や子供に向けてわかりやすい内容にすることが多いですが、私はそれを一切否定したところで選曲しました。コンピレーションなので、もちろんクラシックの啓蒙と紹介ではあるのですが、切り口はあくまでフラットに。クラブ、レゲエ、テクノなど、クラシック以外の音楽や文化に一家言を持つ方々にそのセンスで自由に触れて欲しいですね。人類最強の文化遺産であるクラシック音楽に、こんな快楽や面白さがあることを感じ取っていただけたら嬉しく思います」
彼女のそんな願いは、音だけでなく、楽友・鈴木淳史との対談を収録した約30000字の超ロング・ブックレットという形でも結実。「泣きのハウスのど真ん中(バーバー)」「エヴァンゲリオン的音楽(バルトーク)」「なかなかイカせてくれません(ブルックナー)」といった各曲の対談に付された見出しを一読するだけでも、サブカルチャー・ファンの好奇心を刺激してやまないことだろう。このジャンル横断的なクラシック聴取の提案は、当盤が“Vol.1”であることからも想像がつく通り、“Vol.2”以降も鋭意企画中。次回作の予定は“官能/エロクラ”だというから、さらなる饒舌と新境地に乞うご期待!
▼関連作品
1月発売予定の湯山玲子著 「男をこじらせる前に 男がリアルにツラい時代の処方箋」(角川書店)
LIVE INFORMATION
新ニッポン無責任時代 大忘年会12130
○12/30(火) 13:00開場/23:00終演
(再入場可/入場時にリストバンド着用)
会場:ザ・ガーデンホール(恵比寿ガーデンプレイス内)
○出演:Charisma.com/奇妙礼太郎/スクーターズ with 星野みちる/フーレンズ/ホフディラン/マレウレウ/LITTLE CREATURES…and more!
○キュレーター:信藤三雄/湯山玲子