RETURN OF SONGSTARS
[ 緊急ワイド ]R&Bに浸る秋と冬
★Pt.1 CHRIS BROWN『Heartbreak On A Full Moon』
★Pt.2 ELIJAH BLAKE『Audiology』
★Pt.3 DEMETRIA McKINNEY『Officially Yours』
★Pt.4 BRIAMARIE『432』
★Pt.5 112『Q Mike Slim Daron』
★Pt.6 ERIC ROBERSON『Earth』『Wind』『Fire』
ディスクガイド
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ブラクストン姉妹関連の作品は総じて完成度が高いが、ラスト・アルバムだというテイマーの本作はもっとも歌が際立った作品ではないか。グラディス・ナイト &ザ・ピップス版“The Makings Of You”のリメイクを含めた名曲引用が相次ぐ明快さと、キーシャ・コールの向こうを張るかのようなエモーショナルなヴォーカルの凄み。オーセンティックであることに気後れせずシンプルに良い曲を紡ぎ出すヴェテランR&B職人たちのセンスも称えたい快作だ。 *林
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セックス・ミュージックを謳う彼らしい濃厚で重厚なスロウ・バラッドを中心としながらも、若手ラッパーへの擁護発言などで器の大きさを示したタンクだけにアンビエントなムードを纏いつつトラップ的なサウンドを強めてきたのは納得のいくところ。冒頭の表題曲やトレイ・ソングズとリュダクリスを招いた“Everything”などでアグレッシヴに攻める内容は〈マチュアなクリス・ブラウン〉としても聴けるものだ。今作では裏声の妖艶さも際立っている。 *林
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プリンスに憧れながらミゲルとウィークエンドの間を行ったような傑作『Days & Nights』(2014年)に続く2作目で、ジル・スコットを相手に繰り広げるウェットなデュエット“Until The Pain Is Gone”をはじめ、冒険的なスタイルとオーセンティックなマナーを両獲りしようとしているあたりは英国的とも言えるか。マックスウェルに美意識を刺激されたような雰囲気もありつつ、美しいハイトーンの歌唱で心地良い黒さを導き出した佳作。 *出嶌
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クリスの前作で“Proof”をコライトしていた経験もある彼は、全米1位を獲得したこのセカンド・アルバムでジンクスを乗り越えたばかり。チェンジング・フェイセズやフェイス、メアリーJ・ブライジ、トゥイートら前作以上に大胆なR&Bリサイクルを凝らし、密室系の薄口なヴォーカルにも濃密な念を注ぎ込んでいる。スウィフDやサウンズ、エイヨー&キーズといったプロデューサー陣の顔ぶれはクリスの新作ともけっこう重なる部分だ。 *出嶌
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過去にも何度かリセットしているキーシャだが、今作は移籍も含まれるのだろう。とはいえ、メアリーJ・ブライジを継ぐ〈生き様系シンガー〉として真正面から歌をぶつけてくるスタイルは不変。レミー・マーとフレンチ・モンタナを迎えた“You”などの先行曲もさることながら、名曲“Love”のエモーションが甦る“Right Time”と“Emotional”が圧巻だ。カマイヤ、トゥー・ショートとオークランド所縁の新旧MCを登場させる終盤の地元愛も彼女らしいか。 *林
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R&Bファンならいまさらイントロデュースされる間柄でもないミント・コンディションのフロントマンだが、〈ヴェテランの新人〉として新たなリスナー層へのアプローチも見せた初ソロ作。アイヴァン&カーヴィンを制作に迎えた音風景はミュージックのようでもあり、青さを保った歌世界は往年のラファエル・サディークのようでもあり、ブリアマリーやグラスパーの好演も光る名品。 *出嶌
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ボーイズIIメンの息子世代とも言えそうなフィリーの4人組で、B2Kあたりからの影響も垣間見える軽やかな身のこなしとトレンドへの柔軟な適応力に新世代らしさを感じる。一方で、“R&B Song”なる表題の曲を歌うだけあってハーモニーの紡ぎ方などには彼らの影響源となる90年代ヴォーカル・グループの作法に則った正統派な一面も。筋肉質のヴォーカルを聴かせる充実作だ。 *林
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リアリティ番組を装った仕掛けでも話題を集めた、相変わらずな性愛路線のアルバム。複数の疑惑で苦境に立たされるR・ケリーのポジションを完全に奪いそうな勢いだが、どんなにエロティックに迫ろうが、トラップやトロピカル・ハウス的なトレンドを咀嚼しつつソウルネスを注ぎ込んだ本作での彼は歌声も含めて折り目正しく清々しい。特にスロウ・ジャムの美しさには息を呑む。 *林
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少年時代を知る者にとってはまぎらわしいジャケだが、三十路を迎えた彼にとっては大昔の青い記憶なのだろう。が、歌詞こそ実年齢に即したマチュアなものながら、声変わり数年後と言ってもいい青臭い歌声には初期の輝きも宿す。リック・ロスやエリック・ベリンジャーとの共演曲も含めて現行トレンドと程良い距離感を保った、歌にフォーカスした良作。スロウ・バラッドも快演だ。 *林
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アトモスフェリック系の意匠が流行りだした頃に頭角を表したことから音の話ばかりされてしまう人ではあるが、いわゆる浮遊系インディー・ポップと似て非なるのは芯のある歌唱とヴォーカル・アレンジ。でも、違いがわからなくても良さが伝わるのは良いことでもあって。クリス・ブラウン“Juicy Booty”に客演したお返しに、ここではクリスが“Hello Ego”に駆けつけている。 *出嶌
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デスティーズ・チャイルド脱退後のソロ活動ではテキサス娘らしくサウス作法でヒップホップ色の濃いサウンドで成功を収めたラトーヤだが、長いブランクを経たこのサードではソフィスティケイトされたアーバン流儀で魅了してくれる。恋人のジョー・ブラックやウォーリン・キャンベルらを従え、不在時に巻き起こったトレンドの音も難なく消化した歌唱のセンスが逞しい。 *出嶌