サンプリング・ソースの宝庫として、誰もが耳馴染みのありそうなブレイクビーツを輩出したインクレディブルなレーベル、プライド。決して長くない活動のなかで生まれた永遠に終わらないグルーヴの遺産を、今回のリイシューをきっかけに再確認してみよう!!

 プライドといえばかつての年末の風物詩でもあり、奇しくも金子達仁の著書が話題になっているタイミングだが……もちろん高田やヒクソンの話をしたいわけではない。恐らく断片的でも耳にしたことがないという人はいないであろうインクレディブル・ボンゴ・バンド“Apache”を生み、70年代を代表するファミリー・グループのシルヴァーズを輩出したことで知られるレーベル、それがプライドだ。活動期間こそ72~74年と短いものの、以降の音楽シーンにとんでもない影響を与えたその2つの功績はいまも色褪せることはない。

 もともとプライドは映画製作/配給会社のMGM(メトロ・ゴールドウィン・メイヤー)のレコード部門で生まれたレーベルである。当時のMGMレコーズで代表を務めたマイク・カーブは、後にカーブを設立したり、カリフォルニア州副知事も務めたりする音楽業界の重鎮。10代の頃に自主レーベルを設立して音楽面から映画産業に入り込み、マイク・カーブ・コングリゲイションを率いての活動も行いながら、60年代末にはMGMやヴァーヴの社長に昇り詰めていた若きエグゼクティヴであった。そんな男の指揮下でプロデューサーとして働いていたのが、プライドを設立するマイケル・ヴァイナーである。ワシントンDC出身の彼もまた早くから娯楽産業を志していた野心家で、MGM入社後はカーブの仕切るサミー・デイヴィスJrの全米No.1ヒット“The Candy Man”に助力。それらの実績も踏まえて72年に誕生したのがプライドだった。

 初期のカタログは映画サントラからロックの廉価コンピまでバラバラだったが、サントラ『The Thing With Two Heads』(邦題は「Mr.オセロマン 2つの頭を持つ男」というヒドさ!)を分岐点にプライドの色はソウル/ファンクへと傾いていく。アイザック・ヘイズによる「Shaft」などブラックスプロイテーション映画とソウル系の音楽が相乗効果でヒットを生んでいた時代らしい判断だが、そのサントラに並んでいた名前こそ、プライドからリリースを重ねていくジェリー・バトラー、シルヴァーズ、ビリー・バトラー&インフィニティ、オリー・ナイチンゲール、そしてインクレディブル・ボンゴ・バンドであった。

 劇伴を起源とする点からもわかるように、インクレディブル・ボンゴ・バンドは実体のないスタジオ・プロジェクトで、ボンゴを叩くキング・エリソンら西海岸の腕利きミュージシャンたちがヴァイナーの指揮下で束ねられたものだ。そのライブラリー・ミュージックにも近いグルーヴィーなインストがヒップホップ勃興期のDJたちに〈発見〉され、やがてサンプリング・ソースの鉱脈としてリアルタイムな評価以上の人気を得るに至っている。その代表例が先述した定番ブレイクビーツ“Apache”だったのは言うまでもないだろう。

 そうした後世の評価はボンゴ・バンドに限られたものではない。アイドル人気を博した兄弟姉妹グループ=シルヴァーズの飛躍を受け、その末弟にあたるフォスター・シルヴァーズが発表したデビュー曲“Misdemeanor”(72年)はR&Bチャート7位/全米22位というヒットを記録。こちらもまたサンプリングの定番として現在も愛されているし、その後のシルヴァーズ家の活躍はR&Bシーンを大きく変革するものとなった。

 74年にMGMを離れたプライドはアトランティック流通で巻き直しを図るものの、その年で活動を停止。なかなかCD化が進まなかったこともあってレーベル単位で注目が集まる機会は少なかったわけで、ぜひ今回の大挙リイシューを通じて、誇らしきグルーヴの遺産を味わっていただきたい。 *出嶌孝次

関連盤を紹介。

 

プライドに見い出されたシルヴァーズ、その後進への影響

 “Apache”が定番ネタという意味で後世に影響を残したとしたら、本人たちがブレイクして影響力を発揮していったのがシルヴァーズだと言えるだろう。ジャクソン5やファイヴ・ステアステップス、MGM所属のオズモンズといったファミリー・グループと活動時期も重なった彼らだが、もともとメンフィス出身の兄弟姉妹4人で活動を始めた50年代末にはまだ幼児~小児だった。LA移住後に兄弟は増えるも父親が出奔してしまい、貧しいなかでレコード・デビューの機会を窺っていた彼らは、曲作りに才を発揮した長兄のリオン・シルヴァーズ3世を軸に実力を磨き、やがてタレント・ショウでMGMの目に留まることとなる。そうしてプライドから世に出たのが6人組のシルヴァーズだった。

 J5人気が絶頂の頃だけに少年の歌声をキーにした狙いは明白だが、そこに青年の男声や女声も入り交じる個性が彼らをバブルガムには終わらせなかった。また、最初から自作曲メインだったことを思うと、リオンの才能は周囲も認めていたのだろう。弟フォスターのデビュー・ヒット“Misdemeanor”もリオンの作で、同曲の印象的な導入部はDOC“It's Funky Enough”やシャイン“That's Gangsta”、ゲーム“Bompton”など多くのヒップホップ名曲に転用されてきた(日本では小沢健二の手掛けた渡辺満里奈“バースデイ ボーイ”が微笑ましい)。

 やがて弟妹も加えて9人組に拡大したシルヴァーズは、プライド離脱後の75年に“Boogie Fever”が全米1位を記録して一気にブレイク。一方、78年に脱退したリオンはソーラーでプロデューサーとして活躍し、80年代前半にはシャラマーやウィスパーズ、ダイナスティらを手掛けて一世を風靡している(近年はファンクの偉人としてデイム・ファンクとも共演)。そこまでをプライドの功績と呼んでしまうのは乱暴だが、その原点がどこにあるのかは明らかだろう。 *出嶌孝次

関連盤を紹介。

 

ESSENTIALS
プライドの名品たち

THE SYLVERS The Sylvers Pride/OCTAVE(1972)

タイミング的にジャクソン5~オズモンズ旋風を受ける形で登場した若き兄弟姉妹の初アルバム。メンバーのリオン3世が大半でペンをとり、ジェリー・バトラーとケグ・ジョンソンが制作、デイヴ・クロフォードとジェリー・ピータースがアレンジを手掛けた曲は歌も含めてキッズ感を売りにせず、大人びた哀感さえ漂わせる。“Wish That I Could Talk To You”と“Fool's Paradise”はプライド時代の代表曲。グラス・ハウス曲の瑞々しいカヴァーも良い。 *林

 

JERRY BUTLER,JERRY PETERS Melinda Pride/OCTAVE(1972)

邦題を「残酷欲情軍団」という映画のサントラ。初期インプレッションズでリードを担当したシカゴ・ソウルの大物ジェリー・バトラーが、後にEW&Fらも手掛ける鍵盤奏者/編曲家のジェリー・ピータースと組んで手掛けている。大半は後者による豊穣なインストで、艶やかなサックスの彩る“Melinda Title Theme”やシタールが幻惑的な“Melinda Latino”などは特に絶品だ。エレガントな意匠を纏ってまろやかに響くバトラーの歌唱曲もいい。 *出嶌

 

THE INCREDIBLE BONGO BAND Bongo Rock Pride/OCTAVE(1973)

マイケル・ヴァイナーとペリー・ボトキンJrの旗振りの下、招集されたジム・ゴードン(ドラムス)やキング・エリソン(パーカッション)、ディーン・パークス(ギター)らが熱演を繰り広げた初作。幕開けの“Let There Be Drums”から“Apache”“Bongolia”……と、まさに驚異的なボンゴがブレイクで暴れ回り、ファンキーなカッティング、グルーヴィーなオルガンなどが一体となってパーカッシヴに空間を彩る、最高のパーティー・インスト集だ。 *出嶌

 

BILLY BUTLER & INFINITY Hung Up On You Pride/OCTAVE(1973)

プライドではシルヴァーズやサントラ『Melinda』に関わったジェリー・バトラーを兄に持つビリーが、ヴォーカル・グループのインフィニティを従えて放ったアルバム。地元シカゴとメンフィスでの録音で、ファルセット・リードが炸裂するスウィート・ソウルで幕を開け、以降、甘く切ないバラードと活気漲るアップを繰り返しながらスリリングなハーモニーを繰り広げる。なお、メンバーのラリー・ウェイドはテリー・キャリアーの相棒でもあった。 *林

 

FOSTER SYLVERS Foster Sylvers Pride/OCTAVE(1973)

シルヴァーズ家の六男、フォスターのソロ・デビュー作。サンプリングの定番ネタである兄リオン3世作の“Misdemeanor”を筆頭にキッズ感丸出しで歌うフォスターがめざしたのは明らかに当時のマイケル・ジャクソンだが、やや背伸びして歌うあたりも愛らしい。制作はジェリー・ピータースとケグ・ジョンソン。ジェイムズ&ボビー・ピュリファイ、ミラクルズ、ポール&リンダ・マッカートニーなどの名曲カヴァーでは大人のハートも射抜く。 *林

 

THE SYLVERS The Sylvers II Pride/OCTAVE(1973)

シルヴァーズの2作目。引き続きケグ・ジョンソンと前作でアレンジを手掛けたジェリー・ピータースがプロデュースを担当し、リオン3世の作となる美しいスロウや勇壮なファンクなどを後期ジャクソン5的な青さと哀感を醸しながら歌っていく。女声リードの曲は後のローズ・ロイス的な趣も。エヴァリー・ブラザーズで有名な“Let It Be Me”をスウィートに歌い、ビートルズ“Yesterday”をアカペラで披露するなど、ハーモニーの粋も際立つ。 *林

 

OLLIE NIGHTINGALE Sweet Surrender Pride/OCTAVE(1973)

この70年代サザン・ソウル名盤もプライド発だった。オリー&ザ・ナイチンゲールズとしてスタックスから世俗デビューしたオリーがソロ転向して出したアルバム。メンフィスの名匠ジーン・ミラーの制作で、ハイやスタックス周辺の腕利きによる滋味豊かな演奏を受けてハイトーンに熱を込めて歌うオリーは、冒頭のフィリップ・ミッチェル作“Here I Am Again”から素晴らしい。ボビー・ウーマックやブルック・ベントン作の名曲カヴァーも上々だ。 *林

 

THE INCREDIBLE BONGO BAND The Return Of The Incredible Bongo Band Pride/OCTAVE(1974)

前作の演奏メンバーたちに加え、リンゴ・スターやニルソンらの参加も噂されてきたセカンド・アルバム。ギターや鍵盤、ホーンが主役となるロッキッシュな局面が多く、アタックの強い展開がなくなってスカッと突き抜ける痛快さが後退したぶん、いま聴くと奇妙なドラッギーさが味わいどころに思えてくる。モッタリした冒頭の“Kiburi”からどこかサイケな濁った空気も漂ってくるのがおもしろい。ワビサビ系の“Pipeline”なども不思議な感覚だ。 *出嶌

 

JIMMY SMITH Black Smith Pride/OCTAVE(1974)

ブルー・ノートやヴァーヴで活躍してきたオルガン・ジャズの名手が、プライドに唯一残した熱気溢れるジャズ・ファンク・アルバム。ジェリー・ピータースが共同プロデュースを担当し、インクレディブルなオルガン野郎の集中力を『Root Down!』(72年)にも比肩するダンサブルな開放感へと高めていてカッコ良し。MG'sやバリー・ホワイト、ティミー・トーマスのカヴァーのほか、ボンゴ・バンドも上掲作で演奏している“Pipeline”が聴きモノ。 *出嶌

 

THE SYLVERS The Sylvers III Pride/OCTAVE(1974)

プライドでの最終作となるサード。マイケル・ヴァイナーとペリー・ボトキンJr.のインクレディブル・ボンゴ・バンド一派のプロデュースということで冒頭の“I Aim To Please”から男臭いファンクをかまし、曲もリオン3世だけでなく兄弟や母親らがペンをとるなど前2作からの変化は明らかだ。メンバーの成長と共にアイドル性は薄まり、個々のキャラも明確に。が、ファンク~ディスコを勢い良く乗りこなす瑞々しさはシルヴァーズならではだろう。 *林

 

NEW CENSATION New Censation Pride/OCTAVE(1974)

ヴァン・マッコイによるヴォーカル・グループ仕事。白人と黒人からなる男女混成グループ唯一のアルバムで、主にシャウター系の男性とハイトーン系の女性がリードで歌う。“The Hustle”的な作法はまだ登場せず、実直なスロウ・バラードやフィリー風のダンサーを披露するあたりは同じマッコイ絡みのプレジデンツに近いか。テンプス的なファンク・ソウル“Come Down To Earth”は同じくマッコイ絡みのチョイス・フォーも歌うことになる。 *林

 

FOSTER SYLVERS Foster Sylvers Featuring Pat & Angie Sylvers Pride/OCTAVE(1974)

フォスターのソロ2作目だが、歳の近い姉2人(パトリシアとアンジー)の存在を明らかにした表題は年少組の結束を示すものだろう。前作同様ジェリーとケグが制作にあたり、HB・バーナムがアレンジに参加した本作は、スティーム、ソニー&シェール、プレスリー、マッコイズ、マーヴィン・ゲイなどの名曲を屈託のない表情で歌った企画性の強い一枚。ボビー・ブルーム“Montego Bay”はアッシャー“Good Kisser”での引用も記憶に新しい。 *林

 

VARIOUS ARTISTS kickin presents Pride 70s Groove: DJ's Choice 1972-1974 OCTAVE(2017)

黒田大介がDJ目線で選曲したコンピということで、“Apache”や“Misdemeanor”“Kiburi”といった定番ブレイクスが並び、結果的に純粋なレーベル・サンプラーとして楽しめる一枚。ウィリー・ヘンダーソンが72年に手掛けたヘティ・ロイドによる2曲のファンキー・ソウル、マイク・カーブ制作でジーン・ペイジが優雅なアレンジを施したレディ・リー“Simple Things”(72年)というシングル・オンリーの楽曲も聴けるのが嬉しい。 *出嶌

 

不朽のブレイク“Apache”の広がり

 もともとヒップホップ勃興期にNYのDJらによって〈発見〉されてBボーイ(ブレイクダンサー)のアンセムとして愛され、近年では〈高校生ラップ選手権〉でOPテーマに使われていたことも記憶に新しい、インクレディブル・ボンゴ・バンドの“Apache”。シュガーヒル・ギャングのラップ・リメイク(81年)を筆頭に数百曲でサンプリングされ、ブレイクビーツの定番中の定番となった。流石に定番化しすぎて90年代以降のリサイクル例はそう多くないが、ナズ“Made You Look”(2002年)、ジェイ・Z&カニエ ・ウェスト“That's My Bitch”(2011年)のように、そのビートを使う行為自体が正統性の演出や意志表明となる、〈意味のあるネタ〉としての地位も盤石だ。

 一方、90年代にその汎用性を見い出したのはドラムンベースやビッグ・ビート、IDM方面の送り手たちで、エイフェックス・ツイン“Heliosphan”(92年)で確立されたアーメン・ブレイクと比肩するほどの需要は、今年出たquarta330の“Resonate 3”でも確認できたところだ。さらに別の階に移動すれば、フィジェット・ハウスの礎となったスウィッチ“A Bit Patchy”(2005年)での超絶モロ使いも思い出深い。 *出嶌孝次

関連盤を紹介。

 

年末年始に聴き込みたいリイシュー

LEROY HUTSON Anthology 1972-1984 HOSTESS/Acid Jazz(2017)

 前号お休みしたので掲載が遅くなりましたが……まずはリロイ・ハトソンの編集盤『Anthology 1972-1984』(Triumph/Acid Jazz)を紹介。90年代に再評価されて以降は別格扱いの人ではありますが、エレクトラ音源を除く選曲の時点で表題がやや謎。タヴァレス版で世に出た“Positive Forces”(77年録音)、初出時には88年録音とされていたブラコン仕立ての“Now That I Found You”という未発表曲もありつつ、ブギーな蔵出し曲は他にもあるだけに有難味は薄めかも。20年近く廃盤状態なオリジナル・アルバム復刻への布石と思っておきたいところです。とはいえ、入門盤としては普通にオススメの名曲選です!

 

MINNIE RIPERTON Perfect Angel:Deluxe Edition Capitol/Universal(2017)

 メロウな70年代の産品では、ミニー・リパートンの74年作を2CDで復刻した豪華盤『Perfect Angel: Deluxe Edition』(Capitol/Universal)も必聴。故人の生誕70年に合わせた企画で、オリジナルに変名で参加していたスティーヴィー・ワンダーの貢献ぶりがさらにわかるというか、彼とのデュエット版による“Take A Little Trip”をはじめ、バックや歌唱の異なる別ヴァージョンの数々が新鮮かつ貴重でしょう。

 

MAXAYN Reloaded: The Complete Recordings 1972-1974 SoulMusic(2017)

 一方、マクサーンの『Reloaded: The Complete Recordings 1972-1974』(SoulMusic)はカプリコーンに残したアルバム全3枚をパックしたお値打ち品。ザッパの下で修行したアンドレ・ルイスの鍵盤とパワフルな女性リードのマクサーンを軸に、ローリング・ストーンズのカヴァーも含むアーシーな初期からパーティーな躍動感を強めていく後期に至るまで、どれもファンキーで魅力的ですね。

 

JACKIE MOORE I'm On My Way: Expanded Edition Columbia/BBR(2017)

 で、最後はジャッキー・ムーアの79年作の増補版『I'm On My Way: Expanded Edition』(Columbia/BBR)を推薦。ダンス・チャートNo.1の“This Time Baby”を輩出したディスコ時代の作品なので、当時のリミックスを追加しての復刻は嬉しい限り。そうでなくてもボビー・イーライがフィリーの品格を注ぎ込んだ名作です! *出嶌孝次