ソウルやファンクが新たなアイデアとスタイルを獲得したブラック・コンテンポラリーの時代、その気風に乗ってアン・ヴォーグやトニ・トニ・トニを成功に導いたのがフォスター&マッケルロイだ。時代の変わり目を彩った名コンビの功績を、ここで改めて振り返ってみよう。
アン・ヴォーグが14年ぶりの新作『Electric Cafe』を発表した。そこで半数以上の曲を手掛けているのが、彼女たちをサポートし続けてきたデンジル・フォスターとトーマス・マッケルロイ(以下F&M)のプロデューサー・チームだ。そもそもアン・ヴォーグはF&Mがリーダー作『FM2』(89年)を作る際にオーディションによって選ばれた4人であり、つまりF&Mはアン・ヴォーグ(当初はヴォーグ名義)の生みの親ということになる。
カリフォルニア州オークランドを拠点とするF&Mは、タイメックス・ソーシャル・クラブ“Rumors”(86年)をフォスターと共同制作したジェイ・キング率いるクラブ・ヌーヴォーにおける音作りの要として、まずその地位を確立。それ以前にも84年にヴォコーダー使いのエレクトロ・チューンをソーサリー名義で出し、同曲に関与していたフェルトン・パイレート擁するコン・ファンク・シャンの86年曲“Jo Jo”をジェイと手掛けたF&Mであったが、彼らはそれらの曲でのエレクトロなシンセ・ファンクのサウンドをクラブ・ヌーヴォーにも持ち込むことになる。
が、“Jealousy”などのヒットに貢献したF&Mも、マイケル・クーパーを手掛けた87年にはクラブ・ヌーヴォーを脱退。その後、同郷であるトニ・トニ・トニのデビュー作『Who?』(88年)のプロデュースを任され、裏方仕事を増やしていく中でアン・ヴォーグをデビューに導くわけだが、それらがニュー・ジャック・スウィング(NJS)全盛期と重なったこともあり、F&MもNJS系の作り手としてテディ・ライリーらと共に注目を集めることになる。アレクサンダー・オニールなどのタブー仕事も手掛けた彼らはジャム&ルイスの後継者的なポジションを期待されていたのかもしれない。しかし、共に鍵盤とドラム・プログラミングを担当するF&Mは、オークランド・ファンクの伝統を踏まえつつ、デジタルな音色で叩きつけるようなビートを繰り出しながらフル・フォースと並んでヒップホップ時代におけるバンド・サウンドも追求していた。
特に90年代以降、クラブ・ヌーヴォーの元同僚サミュエルのソロ曲“So You Like What You See”をはじめ、アン・ヴォーグの“Hold On”や“My Lovin'(You're Never Gonna Get It)”など、事あるごとにジェイムズ・ブラウン名曲のフレーズやリフ、掛け声を引用しているのもF&Mのトレードマークと言えるだろう。また、ネイション・ファンクタジアの『In Search Of The Last Trump Of Funk』(91年)を聴けば、彼らがPファンク・チルドレンであることもわかる。FMob名義で出したF&Mとしての2作目『Once In A Blue Moon』(93年)には“Be Bop 2 Hip Hop”などでジャズの素養があることも示していた。
が、NJSの向こうを張るようにビート感を強調していたF&Mも、95年にリリースされたテリー・エリスのソロ作『Southern Gal』やアサンテ『Asante Mode』に関わる頃には、ファンクをベースとしつつ、よりオーセンティックなソウル感覚やメロウネスを打ち出す方向にシフトしていく。同時に、アン・ヴォーグ『EV3』(97年)の制作に参加した前後には、〈アン・ヴォーグを成功に導いたクリエイター・チーム〉として、ピュア・ソウル、プレミア、ディヴァインといったガールズ・グループの楽曲もプロデュース。以後アン・ヴォーグとは彼女たちがメンバー交代を繰り返しても付き合いを保ち続け、クリスマス盤も含めアルバムを制作するたびにF&Mが関与してきた。

ここしばらくは表立った活動のなかったF&Mだが、今回のアン・ヴォーグ『Electric Cafe』にもメイン・プロデューサーとして参加。彼らが手掛けた表題曲のタイトルは、かつてエレクトリックな音を作っていたF&Mが現代版のエレクトリック・サウンドを提示したから……と深読みできなくもない。が、それ以上に、参加した制作陣の多くが、トニ・トニ・トニ時代に彼らと組んだラファエル・サディーク、サムシン・フォー・ザ・ピープルのソース、マッケルロイをメンターとするEDM系プロデューサー・デュオのモダン・フューチャーと、F&Mの弟分とも言えるオークランド出身の仲間たちであることは注目に値するだろう。『Electric Cafe』はF&Mの輝かしいキャリアと影響力の大きさを味わうためのソウル喫茶と言えるのかもしれない。 *林 剛
F&Mの制作曲を含むスウィングアウト・シスターのベスト盤『The Best Of Swing Out Sister』(Fontana)、マッケルロイとネオン・フューチャーがプロデュースしたビッグ・フリーダの2014年作『Just Be Free』(Queen Diva)。

EN VOGUE
変わらぬ美意識に圧倒される14年ぶりのニュー・アルバム!!!
90年代に活躍したR&Bグループのリユニオンや音楽的な再利用/再評価が相次ぐ昨今、そのパイオニア的な存在が帰ってきた。ニュー・ジャック・スウィングやヒップホップが台頭してきた時代の変わり目に、クラッシーな佇まいとサンプリングを多用したサウンドを融合することで伝統的なヴォーカル・グループの形態をモダナイズしてみせたアン・ヴォーグは、SWVやTLC、エクスケイプ、デスティニーズ・チャイルドといった後続の登場を促し、つまりは90年代R&B隆盛の礎を作り上げたレジェンドである。最近も“Giving Him Something He Can Feel”が21サヴェージ“Thug Life”でネタ使いされたり、昨年UKで大ヒットしたジェイムズ・ハイプ“More Than Friends”が“Don't Let Go(Love)”のリメイクだったりしたわけで、いわゆるジャンル内の影響力以上に時代を代表するヒットを数多く残した大物と言ってもいいかもしれない。
ただ、21世紀に入って彼女たちが勢いを失ったのは、メンバーの出入りに伴う活動状況の不安定さも作用していた。もともとテリー・エリス、シンディ・ヘロン、マキシーン・ジョーンズ、ドーン・ロビンソンの4人で89年に結成されるも、97年にドーンが脱退(ソロでのアフターマス入りを経てルーシー・パールを結成)。商業的に躓いた4作目『Masterpiece Theatre』(2000年)の後にはマキシーンも脱退し、『The Gift Of Christmas』(2002年)にのみ参加したアマンダ・コール在籍時を経て、2004年の5作目『Soul Flower』ではダークチャイルドでソロ・デビュー歴のあったローナ・ベネットを迎えてのトリオ編成になった。それ以来14年ぶりの新作となる今回の『Electric Cafe』でも顔ぶれは変わらないが、その間にはシンディの産休とマキシーン再加入、ドーン再合流によるオリジナル4名の復活、ドーンの再離脱などが続き、改めて現編成に戻ったのは2012年のことだ。近年はマキシーンが勝手にアン・ヴォーグを名乗ったり、2011年に契約したラフタウンから訴えられたり、いろいろ泥沼だった時期もあった(クラシック・ラインナップの都合に翻弄されてきたローナがいちばん不幸なのは確かだが……)。

ただ、そんな時代も含め、彼女らを一貫して支えてきたのがグループの生みの親であるフォスター&マッケルロイだ。近年はもうアン・ヴォーグ仕事でしか名前を見ないF&Mだが、もともとエレクトロを出自に80~90年代のトレンドを作り上げてきた当事者だけに、流行が何周もした現代と自分たちのスタイルの接合点を見い出すのは容易だったのかもしれない。そう思えるほど、『Electric Cafe』で聴けるのは無理なくモダンな現役の音作りだ。そんなF&Mを中心に旧知のソースやデム・ジョインツらが制作陣に名を連ね、一瞬ダイアナ・ロスを挿入する遊びも麗しい“Deja Vu”の60年代マナーや、ニーヨもペンを交えたドラマティックな“Rocket”、小気味良くファンキーな“Reach 4 Me”など、持ち前のハーモニーを活かす多様な楽曲が満載。これからもレジェンドの威信を見せつけてくれることを期待したい。 *出嶌孝次
関連盤を紹介。
『Electric Cafe』参加アーティストの作品を一部紹介。
FMとファミリーの関連作

ジェイ・キングを首謀者とするR&Bユニット。ビル・ウィザーズ“Lean On Me”のゴーゴー調カヴァーが大ヒットした初作だが、“Jealousy”や“Why You Treat Me So Bad”といった無機質とも言えるエレクトロなシンセ・ファンクのサウンドはまぎれもなく音作りの要となったF&Mのセンスだ。ラストの“Pump It Up(Lean On Me)”ではオークランド・ファンクのルーツも垣間見える。 *林

90年代にはミュージシャンシップを発揮してネオ・ソウルへの道を拓いていくオークランドの才能集団だが、88年の初作『Who?』(廃盤)の時点ではまだF&Mにプロデュースを仰いでいた。いきなりR&Bチャート首位に輝いた“Little Walter”は、当時のアイドル性も反映して躍動するNJSナンバー。そこから“Born Not To Know”“Baby Doll”など4曲連続でのTOP10獲得はF&Mの功績だ。 *出嶌

ジャム&ルイスに憧れていたF&Mによるタブーでの初仕事。ネクスト・シェレール的な歌姫の2作目で全面制作を任されたF&Mは、同時期に手掛けていたトニーズのドウェイン・ウィギンスをギタリストとして起用しながらテクノ・ファンクなサウンドでキャシーの力強い美声を出迎えている。JB風ファンキー・ビートの“Men Have To Be Taught”はアン・ヴォーグを予感させる一曲。 *林

アン・ヴォーグのデビュー作。JBを意識したビートの“Hold On”、カイリーがペンを交えていた“Lies”、そして“You Don't Have To Worry”というR&Bチャートを制した3曲をはじめ、ここで展開されるF&Mサウンドは、いま聴くとヒップホップ・ソウルの先駆けのようにも思える。〈歌うために生まれてきた〉と謳う彼女たちの颯爽としたヴォーカル&ハーモニーも当然魅力的だ。 *林

ジャム&ルイスがメインで制作したアレックスの本作にてF&Mは1曲だけ提供。その“Midnight Run”は、マーヴィン・ゲイ“I Want You”風のメロディーを組み込んだF&M流ビートのミディアム・ファンクで、バック・ヴォーカルにはサミュエルとアン・ヴォーグのマキシン・ジョーンズというF&M一派が参加。アレックスが歌うとF&MのJBマナーがより浮き彫りになる。 *林

JB“The Payback”のギター・リフを引用した“My Lovin'(You're Never Gonna Get It)”とアレサ・フランクリン曲リメイク“Giving Him Something He Can Feel”のR&B No.1ソングを生んだ2作目もF&Mの全面制作。エレクトロ感は後退し、ファンキーでゴージャスな仕上がりに。ブラック・ロックな“Free Your Mind”にはF&MのPファンク(ファンカデリック)好きも反映された? *林

レジーナ・ベルのフィリー・ソウル名曲カヴァー集にてF&Mは4曲を制作。スタイリスティックスの“Hurry Up This Way Again”、オージェイズ“Let Me Make Love To You”、デルフォニックス“Didn't I(Blow Your Mind This Time)”などの名バラードを、音数を絞ったオーセンティックなスタイルでアレンジし、レジーナの深い歌を引き出している。ギターにマーロン・マクレインが参加。 *林

90年代も半ばを過ぎて、R&Bシーンの最前線からは徐々に退いていく一方、重鎮的なステイタスによって仕事の幅は広げていったF&M。意外やスウィング・アウト・シスターの“Heaven Only Knows”も手掛けた96年には、UKアーバン・ポップの人気ヴォーカリストに招かれて2曲を制作していた。特に“If I Could”は抑制の効いたグルーヴで粘るファンクネスを醸造していく佳曲だ。 *出嶌

90年代のF&M関連ワークスにてスタジオ経験を積んできたオークランドの制作ユニットで、アーティスト・デビューしてのこの2作目からは“My Love Is The Shhh!”が大ヒットに。その中心メンバーで現在ニーヨの片腕的な存在となっているカーティス“ソース”ウィルソンはアン・ヴォーグの4~5作目にも参加し、今回の新作にも駆けつけている。 *出嶌

表題は3作目であること以上に3人での再出発を込めたもの。キャリア最大のヒットとなったドーン・ロビンソン在籍時の先行シングル“Don't Let Go(Love)”でのオーガナイズド・ノイズをはじめ、ベイビーフェイスやデヴィッド・フォスターら外部の制作陣が大挙参加。F&M関与の6曲中ではスムースなファンク“Let It Flow”のクールネスがトリオの新たな一体感を示す出来映えに。 *出嶌

これは番外編。ジェイ・キングを中心にF&M脱退後もメンバーを入れ替えつつ活動し、解散や再結成を経てきたクラブ・ヌーヴォーの現時点での最新アルバムだ。ここでは別掲のデビュー作でリード・シンガーを務め、F&Mと共にグループを離れてソロ・デビューしていたサミュエルが復帰している。エリック・ヤングやラリー・ダンらを迎えた西海岸ブラコンの正統深化型ともいえる一枚。 *出嶌
掘り出し物だらけのリイシュー

今月は本編がいつもより新しめのものなので、こちらもまずは90年代モノから。リイシューというかブートで出回っていた音源の正式な蔵出しですが、911の『The Pressure』(Pヴァイン)を大推薦。これはテディ・ライリーの後見したヴォーカル・グループがシングル“Cutie”(94年)に続いて出すはずだったアルバムで、ブラックストリートやメン・オブ・ヴィジョンらに通じる〈あの感じ〉がいま味わえるだけでも、90年代リアルタイマーならずとも濃い口のR&Bファンなら感涙を抑えきれないはず。大半はテディの右腕でもあったメンバーのウォルター“ムーチョ”スコットが手掛けており、結果的にブラックストリートのインタールードに転用された“Misery”のフル尺や、ガイが披露した“Rescue Me”のオリジナルなども含め、Gファンクの影響も濃いスムースなR&Bが堪能できます。最高!

続いてはJAPANESE SYNCHRO SYSTEMのオマージュでもお馴染みな70年代のレア・グルーヴ名品、強盗殺人の罪でカリフォルニアの刑務所に収監されていたアイク・ホワイトの76年作『Changin' Times』(LAX/Trio/OCTAVE)です。囚人に演奏させる企画から見い出された彼は鍵盤とギターを演奏して歌うマルチ・ミュージシャンで、プロデュースはグレッグ・エリコが担当。定番ネタの“Love And Affection”などファンキーな演奏もハードボイルドな歌モノも良い感じです!

ラストは最近増えてるプライヴェート・プレス作品でポジティヴ・フォースの83年作『Positive Force Featuring Denise Vallin』(Pヴァイン)を。デニス・ヴァリンなる女性が歌うメロウなモダン・ソウル~AORリスナー向けの名品です。 *出嶌孝次