ESSENTIALS
ステイプル・シンガーズの名作たち

初期の編集盤は体裁を変えてあちこちから出ているのでどれでもいいが、こちらはヴィー・ジェイ時代の音源をメインにしたお手軽な編集盤。ミシシッピ・ブルース・スタイルの簡素な演奏に朗々と声を重ね、まだメイヴィスを前に出していないヴォーカル・アレンジの違いもあって、当時のハーモニーが味わい深く楽しめる。シャープ時代の“This May Be My Last Time”(54年)を筆頭に、まだ未整理な部分もあるプリミティヴな振る舞いが熱い。 *出嶌

50年代半ば~60年代初頭に地元シカゴのヴィー・ジェイに残した主要シングルから成るアルバム。古い讃美歌をアレンジした表題曲や“Don't Knock”などのロカビリー調、ミシシッピ州クラークスデイルでのライヴ実況音源“Too Close”のようなデルタ・ブルース風など、イントロからポップスのギターが響く素朴な曲に彼らのルーツが見て取れる。メイヴィスの歌唱も堂々としている。 *林

THE STAPLE SINGERS 『Freedom Highway: Complete』 Epic/Legacy(1965)
65年4月にシカゴの教会で行ったライヴの実況盤を、MCなどを加えた完全版で復刻したもの。エピックでのフォーク・ゴスペル集大成的な内容で、〈セルマの行進〉を受けた表題曲やジョーン・バエズも歌った公民権運動のアンセム“We Shall Overcome”といったプロテスト・ソングが鮮烈だ。メイヴィスが力を込めて歌うゴスペル古典“Precious Lord, Take My Hand”にも引き込まれる。 *林

THE STAPLE SINGERS 『For What It's Worth: The Complete Epic Recordings 1964-1968』 Real Gone(2018)
こちらは上掲のライヴ盤(の通常エディション)を含むエピック時代のアルバム6タイトルを3CDにパッケージしたお手軽なボックスセット。社会状勢を反映して同時代のプロテスト・フォークやソウル勢の音楽性ともリンクし、トラディショナルなゴスペルのみならずボブ・ディランやインプレッションズのカヴァーなどが楽しめるのもこの時期ならでは。メイヴィスのソロも収録されている。 *出嶌

THE STAPLE SINGERS 『The Staple Swingers』 Stax(1971)
父+3姉妹の新体制で初めて臨んだスタックスでの通算3枚目。前2作でのスティーヴ・クロッパーに代わって副社長のアル・ベルがダイレクトに采配し、マッスル・ショールズで録音。フォーク色が後退してソウルを押し出すことで全体のノリはより快活になった。PIZZICATO FIVEのネタとしても知られる“Heavy Makes You Happy(Sha-Na-Boom Boom)”はこちらに収録。 *出嶌

THE STAPLE SINGERS 『Be Altitude: Respect Yourself』 Stax(1972)
スタックスでの2大ヒットを含むアル・ベル制作の名盤。ルーサー・イングラムらの作で自尊心を煽る“Respect Yourself”とレゲエ調の“I'll Take You There”が際立つが、マッスル・ショールズのリズム隊とメンフィスのホーン隊が援護した土臭くもモダンなソウルはどれも快曲で、メイヴィスの包容力のある歌声が誇り高く響き渡る。バイデン候補が選挙ソングに用いた“We The People”も収録。 *林

THE STAPLE SINGERS 『Be What You Are』 Stax(1973)
本作もマッスル・ショールズ勢との録音。作家陣にはバンクス&ハンプトンらスタックスの精鋭が名を連ね、前作ヒットの続編的な“If You're Ready(Come Go With Me)”やテリー・マニングのマリンバがカリビアンな雰囲気を引き立てる“Touch A Hand,Make A Friend”など、ポジティヴな躍動感が心地良い。ビル・ウィザース“Grandma's Hands”のカントリー風カヴァーも収録。 *林

THE STAPLE SINGERS 『City In The Sky』 Stax(1974)
『Be Altitude: Respect Yourself』以降の制作体制とムードを受け継いだアルバムで、ゴスペルの高潔さと時事的なメッセージを、より世俗に寄った形で表現している。クラヴィネットが活躍する“City In The Sky”や疾走感のあるアップ“Washington, We're Watching You”などファンク/ダンス要素が強まるもカントリー風味のバラードは健在だ。メイヴィスの歌は抑え気味。 *林

THE STAPLE SINGERS 『Let's Do It Again』 Curtom/Omnivore(1975)
「一発大逆転」の邦題で知られるブラック・シネマのサントラ。同郷のカーティス・メイフィールドによる制作で、大ヒットした表題曲やファンキー・ソウル“New Orleans”など、メイヴィスの包容力のあるハスキー・ヴォイスはカートム・サウンドと好相性を見せ、セクシーな雰囲気さえ漂う。ギル・アスキーとリッチ・テューホのアレンジは実に精緻で、スコア然としたインストも快演。 *林

THE STAPLES 『Pass It On』 Warner Bros./Omnivore(1976)
新たにワーナーと契約。スタックス時代のイメージ払拭を狙ったのか、ステイプルズと改名して都会的に新生を図った一作だ。そのままカーティス・メイフィールドが全面プロデュースにあたり、この時期の彼らしい温かみに溢れたエレガントなナンバーが並んでいる。ディスコ気分の流麗なアップも、モロに“Let's Do It Again”の二番煎じな“Love Me, Love Me, Love Me”も絶品。 *出嶌

シャイ・ライツを離れてワーナーと契約したユージン・レコードが制作。カートム盤に参加した演奏陣と一部ダブるが、フェニックス・ホーンズらを迎えてトム・トム84がアレンジした楽曲は、オリビア・ニュートン・ジョン版で有名なバラードも含め、モダンで優雅な70sシカゴ・ソウル然としている。アレサの妹キャロリンがペンを交えた“Let's Go To The Disco”ではディスコに接近。 *林

THE STAPLES 『Unlock Your Mind』 Warner Bros./Omnivore(1978)
前2作から一転してメンフィス味とゴスペル色に揺り戻し、ジェリー・ウェクスラーとバリー・ベケットにプロデュースを委ねたステイプルズ名義の3作目。パワフルなリズム&ブルースの“Handwriting On The Wall”やディープな“Don't Burn Me”もあれば、軽やかなステッパーズの表題曲もあって、硬軟のスタイルを折衷した感じでもある。この後メイヴィスのソロ作を最後にワーナーを離脱。 *出嶌

THE STAPLE SINGERS,MAVIS STAPLES 『This Time Around』 Stax/Ace(1981)
ファンタジーが買収したスタックスの音源を未発表曲も含めて編纂。素材はアル・ベル制作でマッスル・ショールズ勢と録音した70~72年頃の楽曲だが、名義が示すようにほぼメイヴィスのソロと言ってよく、オーヴァーダブやリミックスが施されて音も整理されている。フィリップ・ミッチェル作“Trippin' On Your Love” はモダン・ソウルやハウスの文脈で人気を集めたミディアムだ。 *林

名義を元に戻すも商業的に苦戦した80年代、20世紀フォックスからプライヴェート・アイに移籍しての2枚目。前作『Turning Point』同様に80年代ブラコンで活躍したギャリー・ゴーツマン&マイク・ピッキリロをプロデューサーに据え、トーキング・ヘッズのカヴァー“Life During Wartime”も交えてコンテンポラリー路線を模索するが、これがグループ名義でのラスト・アルバムとなった。 *出嶌