20. Waxahatchee “Fire”


天野「20位はケイティ・クラッチフィールド(Katie Crutchfield)のソロ・プロジェクト、ワクサハッチーによる“Fire”。3月にリリースされた『Saint Cloud』からのシングルです。アルバムはめちゃくちゃ素晴らしくかったですよね。ボン・イヴェール周辺やホイットニーなどを手掛けるブラッド・クック(Brad Cook)をプロデューサーに迎えた心地よいインディー・フォーク/アメリカーナ・サウンドで、リリックの深みなどからすでに多くのメディアが年間ベスト・アルバムの上位に選んでいます」

田中「これまでの作品はラウドなギターが特徴のオルタナティヴ・ロック・サウンドでしたが、今回はすごくフォーキーで落ち着いたムードでしたよね。なかでもこの“Fire”は、ウォーミーなシンセサイザーの音色と、ゆったりとしたビートが効いている楽曲。さりげないソウルっぽさもいいですよね。そして、歌詞がまたいい。アルバム全体は〈アルコール依存症との闘いと克服〉がテーマになっていて、“Fire”では不完全な自分を認めてあげることを歌っています。〈私は木のなかの鳥/完全に見えなくたっていい〉というフレーズが泣けるんです……」

 

19. Beabadoobee “Care”


天野「19位は2020年を代表するニューカマー、ビーバドゥービーの“Care”! この胸キュンなメロディーと甘酸っぱいギター・サウンドを聴くだけで最高の気分になります。清々しい一曲です」

田中「ビーバドゥービーはフィリピンのイロイロ生まれ、英ロンドンで活動するベアトリス・クリスティ・ラウス(Beatrice Kristi Laus)のステージ・ネームです。彼女は、パウフー(Powfu)のヒット曲“death bed (coffee for your head)”でサンプリングされた“Coffee”(2018年)も注目を集めましたね」

天野「“Coffee”はローファイなフォークですが、ビーはそこから一歩踏み出して、グランジ的なギター・ロック、90年代風のノスタルジックなロック・サウンドに振り切れました。ダーティ・ヒット(Dirty Hit)からのデビュー・アルバム『Fake It Flowers』は必聴作です!」

 

18. Doja Cat “Say So”


天野「18位はドージャ・キャットの“Say So”! 上半期のベスト・ソングでは迷った末選外にしてしまったのですが、一年を通してこの曲は存在感を放っていたので、年間ベストに選びました。いろいろな場所で耳にすることが多かった曲ですね」

田中「もともとは2019年にリリースされたセカンド・アルバム『Hot Pink』の収録曲で、2020年に入ってからTikTok発でヒットした楽曲。ディスコ調のビートと太いベースが生むグルーヴ、そしてドージャの甘い歌声が癖になりますね」

天野「中毒性がめちゃくちゃ高いです。ニッキー・ミナージュをフィーチャーしたリミックスは、全米1位を獲りました。忘れちゃいけないのが、インドネシアのレイニッチ(Rainych)が歌った日本語のカヴァー。これがバズったことはすごく印象的で、僕は彼女のカヴァーで“Say So”にハマりました(笑)」

 

17. Taylor Swift “cardigan”


天野テイラー・スウィフトのサプライズ作『folklore』は、2020年を象徴する作品でしたよね。これまでのポップ路線をかなぐり捨てた、とても内省的なインディー・フォーク・アルバムである『folklore』は、静かだけれどとてもセンセーショナルな作品でした。17位の“cardigan”は、同作からのシングルです」

田中「コロナ禍によってロックダウンされた状況で、リモートで制作されたのが『folklore』でしたね。プロデューサーは、テイラー本人とナショナルのアーロン・デスナー(Aaron Dessner)、そして売れっ子のジャック・アントノフ(Jack Antonoff)。この“cardigan”はデスナーがプロデュースだけでなく作曲にも参加していて、繊細な電子音響とアコースティックな音が溶け合った音像は、なんとも彼らしいもの。〈私は古いカーディガンのようだと感じていた〉と過去の恋を歌った切ない歌詞も、胸に迫ります」