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2021年のソウル復刻&発掘タイトル、私的ベスト10はこれだ! 選・文/林 剛

ARETHA FRANKLIN 『Aretha』 Rhino(2021)

伝記映画/ドラマ、ライヴ・ドキュメンタリーの公開でアレサ・イヤーとなった2021年。映画「リスペクト」の公開に合わせて発表されたこの4CDボックスは、黄金のアトランティック期(再発が遅れていた同社後期の曲も!)を中心に、ゴスペルを吹き込んだ初期のJVB、ジャズやブルースを歌ったコロムビア、クロスオーバー化したアリスタ、そして晩年の音源まで、名曲で辿る女王のストーリーだ。別テイクやデモ、TVや式典における伝説の名演も収録。約5時間の長編ドラマを見終えた気分になる。

 

SOUTH SHORE COMMISSION 『South Shore Commission』 Wand/OCTAVE(1975)

セプター/ワンドの再発で胸躍った一枚。シカゴ出身のグループがフィラデルフィアとLAで録音した唯一のアルバムは、長らくCD化が待ち望まれていた。インスタント・ファンクが演奏したバニー・シグラー制作の豪奢なフィリー・ダンサー“Free Man”がガラージ・クラシックとして知られ、これを含めたシグマ・スタジオ録音曲がアップ、スロウともに際立つ。が、ディック・グリフィ制作のスロウでデビュー前のキャリー・ルーカスが歌うのも興味深い。シングル版や別テイクなどのボーナス音源も充実。

 

HODGES,JAMES,SMITH & CRAWFORD 『Early Years and Unheard Pearls 1970-1973』 Kent(2021)

メンバーの姓を冠した女性トリオで、たまにキャロリン・クロフォードが加わることもあったグループの初期録音集。元モータウンのミッキー・スティーヴンソンが主宰したピープルやMピンゴでのシングル、ラヴ・ン・スタッフ名義でプライドに吹き込んだリオン・ウェア作のアーシーな曲が並び、大量の未発表音源の中には表題に反して70年代中期頃の録音と思しきモダンな曲もある。ロニー・マクネア制作の“I'm In Love”など、同時期のシュープリームスやシスターズ・ラヴに負けず劣らずの快演揃いだ。

 

NAT TURNER REBELLION 『Laugh To Keep From Crying』 Philly Groove/Chrysalis Catalogue(2021)

〈ナット・ターナーの反乱〉を名乗ってブラック・パワーを誇示したグループがフィリー・グルーヴなどから出した曲を発掘音源も含めて収録した編集盤。デルフォニックス加入前のメイジャー・ハリスも歌った楽曲はフィリー・ソウル大流行前夜の熱気を孕んだ無骨なファンクやソウルで、フィリー・ダンサーの原型的なアップも登場。2019年に出された限定アナログの装丁や曲順を変更して一般流通となったこれは、7月に中心人物のジョセフ・ジェファーソンが他界したことで、彼の追悼作にもなった。

 

RON HENDERSON & CHOICE OF COLOUR 『Hooked On Your Love: Rare Tracks』 Pヴァイン(2021)

76年のチェルシー原盤作が人気を集めるグループの、70年代から80年代初頭の音源を整理し直した日本企画の編集盤。チョイス・オブ・カラー名義で72年に出した軽快なダンサー、ロン・ヘンダーソンのソロ名義で78年に発表したスウィートなスロウなどの既発シングルは流石に良く、初公開の音源も一部デモっぽい曲があるもののフィリー・ソウル風やモダンなミディアムなど完成度の高い曲が多い。掠れたバリトン系ヴォーカルも実に味わい深く、70年代ソウルの旨味が凝縮されている。

 

SEGMENTS OF TIME 『Segments Of Time』 Sussex/OCTAVE(1972)

サセックスの国内再発では、オハイオ出身のヴォーカル・グループが72年に発表した唯一のアルバムが遂にCD化。エンチャントメントを手掛ける前のマイケル・ストークスが制作したデトロイト録音盤で、ファンキーで勇壮なサウンドや社会意識の高いメッセージも含め、サイケデリック・ソウルをやっていた同時期のテンプテーションズを意識していたのだろう。熱っぽいリードや重厚なハーモニーもテンプスに近いが、より躍動感がある。サセックス仲間のデニス・コフィと思われるギターも加勢する。

 

PASTOR T.L. BARRETT & THE YOUTH FOR CHRIST CHOIR 『I shall Wear A Crown』 Numero(2021)

ダニー・ハサウェイらに影響を与えた、シカゴはサウスサイドの牧師にして聖歌隊のリーダー。70年代に発表した作品は過去にも単体で復刻されていたが、スタックスやTK系列のゴスペル・レーベルから出されたアルバムも含めてニュメロがボックス化。近年、“Father Stretch My Hands”がカニエ・ウェスト、“Like A Ship”がリオン・ブリッジズにリメイクされるなどして再評価熱が高まる中での解説書付きの復刻は意義深い。モダンなシングル曲と教会でのサーモン実況を収めた編集盤も熱い。

 

ROBERT COTTER 『Missing You』 Tiger Lily/Wewantsounds/OCTAVE(1976)

税金対策レーベル発となる作品の復刻が目立つなか、76年にタイガー・リリーから発表されたこれも初CD化。マイルドな掠れ声で歌うNYロングアイランド出身のシンガーによるデビュー作で、2曲をシックの前身であるビッグ・アップル・バンドが演奏している。“Love Rite”と78年にノーマ・ジーン版が登場する“Saturday”がそれで、ナイル・ロジャースのギターやバーナード・エドワーズのベースはまだ個性が薄く、音自体もローカル然としているが、シックのブレイク前夜というだけで興味が湧く。

 

NETWERK 『I Need You』 Rams Horn/Past Due(2021)

84年に極少プレスでオランダにて発表された際は〈NETWORK〉と表記されていたが、当初予定していたスペルに直して正規CD化。エムトゥーメイに参加したハワード・キングとレイモンド・ジャクソン、BB&Qバンドにいたケヴィン・ロビンソンらによるNYのスタジオ・プロジェクトで、デイム・ファンク以降に再評価されたようなブギー・ファンクが連発される。“Cover Girl”ではジョニー・ケンプが快唱。今回は8曲の未発表音源が加わり、キャミオなどに通じるソリッドなファンクをおかわりできる。

 

VARIOUS ARTISTS 『Satisfaction Guaranteed: The Sound Of Philadelphia Volume 2』 United Souls(2021)

名門フィラデルフィア・インターナショナル(PIR)の創立50年を記念する企画の一環としてUKでスタートしたボックス・シリーズ。PIR原盤のアルバムをオリジナルの品番順に8枚ずつCDで収め、当時を象徴する2曲から成る12インチや豪華解説本などを同梱したセットだ。最新版となるこの第2弾には、オージェイズやビリー・ポールらの名盤に加え、T・ライフが率いたスピリチュアル・コンセプトの73年作も収録された。異彩を放つフィリー流サイケ・ロックな同作は初CD化。これだけでも食指が動く。