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2022年のソウル復刻&発掘タイトル、私的ベスト10はこれじゃ! 選・文/出嶌孝次

MARY WILSON 『Mary Wilson: The Motown Anthology』 Real Gone(2021)

シュープリームスの看板を守り続けた〈非センターのレジェンド〉の、2021年の逝去を受けて編まれるも延期を経てようやく登場したモータウン時代のアンソロジー。グループ時代の別ミックス曲が聴けるのはもちろん、ハル・デイヴィスが制作した同社で唯一のソロ作『Mary Wilson』(79年)がここで初CD化となったのも単純に嬉しかったです。ヒラリー・クリントンやポール・マッカートニーもコメントを寄せたパッケージの作りも豪華で、こういう丁寧なブツがもっと欲しいところ。

 

JERMAINE JACKSON 『Come Into My Life』 Motown/Music On CD(1973)

マイケル・ジャクソンとホイットニー・ヒューストンの双方に関わりの深い人物といえば……ということで、この人をリマインドする機会も多かった2022年(?)。モータウン時代のソロ作はサブスク含めて大半が聴けないままでしたが、こちらのソロ2作目がついに初CD化。前後に出たジャクソン5『Skywriter』や『Get It Together』と比べてもジェントル系と野生味の間で焦点が絞れてない印象の一枚、なれど青く乾いた歌声の魅力はスタンダードでもサイケ・ソウルでも素晴らしい。

 

EL DEBARGE 『El DeBarge』 Motown/ユニバーサル(1986)

PJモートンやアイズレー・ブラザーズの新作にも顔を出し、健在ぶりを届けてくれた2022年のエル・デバージ。こちらは初リイシューとなったソロ・デビュー作で、AORテイストの“Someone”も含めて、クロスオーヴァーが求められた時代ならではの、洗練されたソフト&マイルドな名唱が気楽に楽しめる佳作に。主に80年代の作品を山ほどリイシューした〈Throwback Soul〉シリーズでしたが、こういう普通の作品が普通に手に入ることこそが素晴らしいです。

 

THE EIGHT MINUTES 『An American Family』 Perception/BBE/OCTAVE(1972)

パトリック・アダムスの急逝とは関係なく、彼も運営に携わっていたパーセプション/トゥデイのリイシューがたまたま進行していた2022年。そのなかで初CD化となったこちらは、2家族の兄弟姉妹を軸にしたシカゴの8人組キッズ・グループによる唯一のアルバムで、ブラック・アイヴォリーのカヴァーなどの美味なトラックが並んでいる。パトリックが共同制作を担った爽やかなアップのシングル“Looking For A Brand New Game”(73年)のボーナス収録も嬉しかった。

 

ORAN “JUICE” JONES 『Juice』 Def Jam/ユニバーサル(1986)

〈Throwback Soul〉シリーズではティシャーンやチャック・スタンレーといった初期デフ・ジャム作品が聴きどころでしたが、なかでも“The Rain”で知られるスウィートなシンガーのデビュー作は大きな収穫でありました。ストリート感の演出方法もその後のヒップホップ感とは異なるエレクトロ寄りで、それが逆に気分を出しています。ミラクルズのカヴァーも美味。初期のデフ・ジャム産品ではアリソン・ウィリアムスやブルー・マジックの名盤たちも続いてほしかったところですが……。

 

STEVE ARRINGTON 『Dancin’ In The Key Of Life: Expanded Edition』 Atlantic/Iconoclassic(1985)

近年はデイム・ファンクらとの絡みでも名を馳せるレジェンドが、前線バリバリだったスレイヴ~ホール・オブ・フェイムを経て放った初ソロ名義作の拡張リイシュー。解放感に溢れたアッパーかつパワフルなダンス・トラックが中心で、CCMの範疇にあると言われれば納得の青天井なポジティヴィティに溢れています。なお、本リイシューを出したアイコノクラシックなる復刻レーベルからはスレイヴの『Show Time』(82年)も初CD化されていました。

 

STARPOINT 『Object Of My Desire: The Elektra Recordings (1983-1990)』 SoulMusic(2022)

この類の手軽な全まとめボックスも増えてきましたが、メリーランドが生んだファンク・バンドによるエレクトラ時代の全アルバムをまとめた本6枚組は未復刻モノも含むナイスなブツでした。ポスト・ディスコ期の電化ヒット作『Restless』(85年)はもちろん、バーナード・エドワーズ制作の『Hot To The Touch』(88年)も好内容。テディ・ライリーを起用した名盤『Have You Got What It Takes』(90年)は、春先に控えるニュー・ジャック系のリイシューと併せてチェックされたし。

 

DAZZ BAND 『On The One』 Motown/ユニバーサル(1982)

これも〈Throwback Soul〉シリーズの世界初CD化で、なぜか過去のリイシューでも虫食い状態だった人気バンドの隠れ名作。小気味良く筋肉質なファンク“Cheek To Cheek”“On The One For Fun”やミラクルズ“Bad Girl”の甘茶カヴァーなど、ヴォーカル隊としても強力なダズならではの粋でソウルフルな一枚です。なお、彼らの作品を数多く手掛けた名裏方のレジー・アンドリュースは6月に逝去。レジーといえばニッキー・ミナージュがネタ使いしたあの曲も……とか思った2022年。

 

VARIOUS ARTISTS 『Wrap It Up (The Isaac Hayes And David Porter Songbook)』 Ace(2022)

エイスのソングライター・シリーズの一環で、アイザック・ヘイズ&デヴィッド・ポーターのコンビが書いた有名無名の楽曲を(カヴァーも含めて)コンパイルした一枚。サム&デイヴ“Soul Man”やオーティス&カーラ、エモーションズなど雑多です。黄金コンビといい雰囲気でジャケに写るのは、2022年に逝去したメイブル・ジョン。初期モータウンからスタックスに流れてきた彼女の“Your Good Thing (Is About To End)”も収録されています。スタックス創業者ジム・スチュワートにも哀悼を。

 

THE MIGHTY SOULMATES 『Vol. 1』 Be With/Pヴァイン(2021)

The Gold Experience』が初リイシューされ、モーリス・デイポール・ピーターソンの新作まで聴くことのできた2022年。そのポールがアンドレ・シモーン、ミック・マーフィ、ガードナー・コールと組んで90年代初頭に録音を進めていたという幻のプロジェクト作品も嬉しい蔵出しサプライズでした。ミネアポリス作法もありつつニュー・ジャック風味も70年代っぽさもあり、もしリアルタイムで出ていてもどう評価されていたかはわからないですが、いま聴くならまったく無問題です。