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『Anywhere But Here』制作前にカーリー・サイモンをよく聞いていた

――それでは、先程店内で5人が選んだレコードを教えてください。まずはアーシャから。

アーシャ「私が選んだのはカーリー・サイモンのレコード(72年作『No Secrets』)。これを選んだのはセカンドアルバムの『Anywhere But Here』(2022年)を作る前によく聞いていたから。

CARLY SIMON 『No Secrets』 Elektra(1972)

SORRY 『Anywhere But Here』 Domino/BEAT(2022)

カーリー・サイモンは歌のハーモニーが凄くいいし、歌詞も時代を先取りしていた感じがして、そこも良くて。しかもそれをチーキー(生意気)ないたずらっぽい言い回しで表現しているのが素敵なんだよね。

中でも好きな曲はタイトルになっている曲でもあるけど“We Have No Secrets”。この曲はやっぱりメロディとハーモニーが素晴らしくて。あとは”You’re So Vain”も好き」

――キャンベルが選んだレコードはどんなレコードなんですか?

キャンベル「僕はフォークソングが好きなんだけど、今回選んだのもトラディショナルフォークのアルバム。サム・ラーナーのレコード(74年作『A Garland For Sam』)だよ。

SAM LARNER 『A Garland For Sam』 Topic(1974)

サム・ラーナーは19世紀後半にイングランドのノーフォークで生まれたフォークシンガーであり、フィッシャーマン(漁師)でもあった。彼は当時のポピュラー音楽として親しまれていた曲をレコーディングして残したんだけど、その中には20世紀以前に作られた曲もたくさんあって、それらが失われてしまう前に記録したんだ。これは彼の死後にそうやって残された曲を集めて出されたレコードなんだ」

――そんな古い時代から歌い継がれてきた曲が入ったアルバムなんですね。キャンベルは〈Broadside Hacks〉というトラディショナルフォークを再解釈するようなレーベルを作って活動しているじゃないですか。〈Broadside Hacks〉には元ゴート・ガールのネイマ・ボックやケイティ・J・ピアソンなどUKのミュージシャンがたくさん参加しています。そういうコミュニティがあることで、ある種の流れが出来ているところがあるんじゃないかと思っているんです。そもそもキャンベルがトラディショナルフォークに興味を持ったのはどんなきっかけだったんですか?

キャンベル 「トラディショナルフォークを聴き始めたのは18歳とか19歳の頃かな。その頃に60年代や70年代の音楽に出会って、その中にはブリティッシュのものやそうじゃないものもあったんだけど。まぁとにかく60年代や70年代のフォークのレコードの空気が好きで聴いていて。

最初は名前も聞いたことないし、どんな人なのか全然わかっていなかった人でも、その人のことを調べて、その周辺の音楽をどんどん発見してっていうのを繰り返していくうちに、当時の音楽に影響を与えていたさらに昔の音楽を自然と掘っていくって感じになったんだよね

※編集部注 キャンペルは取材後、「そのレコード、買いたいから取っておいて」と言い、サム・ラーナー『A Garland For Sam』を購入した

 

エイミー・ワインハウスは僕らの世代の声を代弁してくれた

――ドラマーのリンカーンはトニー・アレンのレコードを選びました。

リンカーン「うん。僕はトニー・アレンのアルバム『There Is No End』(2021年)を選んだんだ。

TONY ALLEN 『There Is No End』 Blue Note/ユニバーサル(2021)

トニー・アレンは僕のフェイバリットのドラマーの一人だから。マジで超凄いドラマーだよね。フェラ・クティのアフロビートの発明にしても彼の存在がやっぱり大きいわけだし、でもってそこから色んなジャンルに発展したり影響を与えたりしたわけで……。

このアルバムはグライムMCのスケプタや、友達のラヴァ・ラ・ルーが参加しているんだけど、それがまた新たな挑戦としてクールな要素を付け加えていると思うんだ」

――ルイはエイミー・ワインハウスのアルバムを選んだんですね。

ルイ「そう。僕が選んだのはエイミー・ワインハウスの『Frank』(2003年)だよ。

AMY WINEHOUSE 『Frank』 Island(2003)

エイミー・ワインハウスは僕らの世代の声を代弁してくれた本当に素晴らしいリリシストであり、優れたソングライターだって感じているんだ。知性的で本当に正直で、それと同時にファニーな顔も持っているような歌詞を書く人で。このアルバムはそういう自分に向き合ったような部分が出ていて、凄くいいアルバムだと思う。

なんていうのかな、彼女は常に演じていたところがあったっていうか、自分自身を過剰に飾り立てて本当の自分を見せていなかったって風にとらえられがちだけど、その実、本当の自分っていうものをしっかり曲の中に込めていた人だったんじゃないかって思うんだよ。このアルバムは、まさにそんなアルバムだと思う」